従来は IT 業務に関連していた アジャイルが,それ以外の領域にも勢いを広げつつある。技術とビジネスの分野は変化が早い。変化を管理し対応するための生産的な手法として,実証的アプローチが広く受け入れられているのだ。
明確な状況のひとつはベンチャーキャピタル事業だ。OpenView Partners というボストンに本拠を置くベンチャー企業では,自社のビジネス運営に修正版の Scrum を使用している。同社には Jeff Sutherland 氏という,相談役を務めるスタッフ もいる。Scrum を用いた会社経営と業務上の意思決定に加えて,OpenView はさらに一歩進んでいる。投資を行う場合に,投資先企業の業務管理に自社と同じ Scrum の使用を義務付けているのだ。
Hirotaka Takeuchi と Ikujiro Nonaka の両氏は,彼らの原著論文 "新たな新製品開発ゲーム (The New New Product Development Game)" において,実証的な業務を行う企業こそがより自律的なのだ,と述べている。1986 年に発表されたこの論文の主張は,次のようなものだ。
一日単位で ... チームは自身の方向性を自由に変更することができます。トップマネージメントは,ある意味でベンチャーキャピタリストの役割を果たすのです。
IT 以外のドメインにおけるアジャイル利用の関心は,確実に高まりつつある。2009年のアジャイルカンファレンスでは,非 IT ドメインでのアジャイルに関するセッションがいくつも開催された。その中のひとつ,';教会における Scrum (Scrum in Church)' というセッションでは,臨時ユニテリアン牧師が教会やボランティアを Scrum で管理したときの方法についての発表があった。また "家庭でのアジャイルプラクティス: 子供たちとのイタレーション (Agile Practices at Home: Iterating with Children)" というセッションでは,学業と課外活動とを責任を持って管理するために必要なスキルを,子供たちに教える手段として,Scrum を導入した事例が紹介された。このようにして Scrum in School イニシアチブは,アジャイルの技術を世界の教育現場に広め,おそらくは児童たちの意識にアジャイルの考え方を持ち込もうとしているのだろう。
グローバル化のように強い外力がもたらすビジネスの急速な変化は,実証的アプローチを必須なものにする - あるいは,少なくともそれを許容する。
行政機関は "Last Responsible Moment" を待つ (できる限り決定を遅らせる) ことで恩恵を受けられるだろうか?
官僚はこれまで "Fail Fast" について学んだことがあるだろうか?あるかも知れない。
アジャイルが非 IT 分野へと広がっている現実を示すシグナルのひとつが,Scrum Alliance の最近の行動にも見られる。Scrum Alliance はここ最近,"業務社会の変革" をスローガンとしている。彼らは現在,9月25,26日にアリゾナ州フェニックスで開催される "OpenSpace: ソフトウェア開発を越える Scrum (Scrum Beyond Software Development)" という新たなイベントに向けての活動中だ。その目的と意図は何か?プロモーション Web ページによれば,
.. この2日間のイベントは ....業務社会の変革を求める情熱的な人々の間の,対話的で混沌としたコラボレーションになることでしょう ... そして,伝統的な作業パターンから逸脱する冒険を恐れない勇敢な魂とともに,Scrum の真のポテンシャルを発見するのです ... あなたはそこで志を共にする同士たちと,新たなアイデアと行動計画を創りだすことでしょう。参加者たちは ... 多くの異なったコンテキストに対して Scrum を適用して,その成果を得ることができます。
アジャイル全体ではないにせよ,少なくとも Scrum は,かって計画駆動方式の作業の分野に限定されていた頃に比べて,より多くの領域を獲得しつつあるようだ。そしてどうやら,Scrum の非 IT ドメインでの使用に対する関心は,2日間のイベント全体をこのアイデアで満たすには十分以上のもののようだ。アジャイルのプラクティスとコーチングの最先端にあるこれらは Scrum を,ソフトウェア開発を越える高みにまで押し上げようとしている。次には何か,驚くべきことが起きるかも知れない。