ノート: 第一部はここで読める。
Alistair Cockburn氏はアジャイルマニュフェストの署名者であり、本の著者であり、たくさんのアジャイルの会議でキーノートのスピーカーを務めている。そして最近は、ICAgile.orgのスポークスマンとして活動している。ICAgile.orgはいくつかのレベルのアジャイルの認定制度を提供する団体だ。この記事は氏へのインタビューの第二部である。インタビューの内容はアジャイルに関する幅広い話題に及んだ。
Alistair、Crystal Clearはどうなっていますか。Crystal Clearの新しいフレームワークがリリースされたと聞きましたが。
"Crystal"は私が"Alistairが知っているソフトウエア開発に関するすべてのこと"(プロジェクトマネジメントの戦略や設計の用語は除きます。これらについては別のものとしてまとめ、別の場所で公開しています。)につけたニックネームに過ぎません。Crystalの"Clear"はCrystalの一部分であり、2から10人のプロジェクトについて扱います。他の色はその他の大きなプロジェクトを扱います("Yellow"は10から25人、"Orange"は25から50人のプロジェクトというように)。
1990年代後半には、"Crystal"という言葉は、異なる戦略と異なる運用方法("方法論"として一括して扱いがちな)が必要な、様々な種別、様々な大きさのプロジェクトを扱うときに便利でした。そして色はクリスタルの様々な色と繋がります。例えば、透明は石英、オレンジ色はトパーズ、赤はルビー、青はサファイア、という繋がりです。また、"硬さ"は致命度と繋がります。これは鉱物の硬さの度合いによって表されます。例えば、石英は柔らかく、硬さの度合いは1くらいですが、これはあまり危険のないプロジェクトを表します。また、ダイアモンドは硬く、硬さの度合いは10で、人命に関わるシステムを表します。この仕組みなら、企業内の食事注文システム(石英)の開発に従事する2人のエンジニアと原子炉システム(ダイアモンド)の開発に従事する2人のエンジニアを差別化できます。
私が思うに、このクリスタルを使った2次元の隠喩とこれらのアイディアをソフトウエア開発を適用することはうまくいったと思います。
Crystalを少しでも使ったことがある人はCrystalのアイディアがソフトウエアに縛られないことに気付きます。Crystalはどんなプロジェクトにも適用できますし、プロジェクトという形ではない仕事にも適用できます。求職活動や教育等にすら適用できるのです。私が今、試しているのはCrystalをソフトウエアとの結びつきから解放することです。
"私はCrystalに含まれているアイディアが好きだ"と私に対して言った人がいましたが、これは予見的な発言です。彼はCrystalそのものでなく、"Crystal"という言葉でもなく、そのソフトウエアとの結びつきでもなく、Crystalに含まれているアイディアが好きだと言ったのです。彼はこのアイディアを世界に、自分の仕事に、そして人生に適用したいと思ったのです。
ではこの"Crystal"という名前とソフトウエアとの結びつきを振り払ったら、何が手に入るでしょう。
それはCrystalの3段階モデルです。これは、実践と理論(原則や規則いってもいいかもしれません)と自己の気付きの間の相互作用を明らかにし、非忠誠の誓いへと至ります。
この3段階モデルにおいて、私たちは実践(今や多くの人が親しんでいる守–破–離という成長過程が含まれます)が理論や自己の気付きを伴わないと行き詰まることを知っています。また、理論は設計上の課題について他の人と一緒に取り組んでいるとき(または自分自身で設計の問題に取り組んでいるときや、設計とは関係なく他の人と一緒に働いているとき)に、私たちが扱っている暗黙の力について理解するための道を教えてくれます。そして、自己の気付きによって私たち自身の性格や優先度や価値、これから私たちの身に起こることについて注意を払うようになります。この気付きによって、私たちは自分の実践を見直し、自分の置かれた状況を最適化できるのです。
今まで話したように、このモデルはソフトウエア以外にも適用できます。しかし、このモデルはこの3段階と非忠誠の誓いを組み合わせることではっきりと確立されます。Crystal(またはCrystalの未来の発展形)の概念の中核には、良いアイディアはどこからでもやってくるという考え、そして、多様性は、単に耐性を高めるだけでなく、安全さを高める力になるという考えがあります。
非忠誠の誓いが顧客やクライアントにもたらすのは、買い手保護プログラムです。つまり次のように言うことです。"これが"とコンサルタントやアドバイザーは言います。"これが、どんな素晴らしいアイディアでも作成者や発表者が気に入らないという理由だけで隠蔽しないという約束です。あなたの問題は最優先事項です。他の問題と一緒には扱いません。"
個人的には、このプログラムは多くの人が考えているよりも実現するのが難しいと思います。非忠誠の誓いに賛同してくれる人、そして、この3段階モデルを理解してくれる人がいるのはわかっていますが、これらを私の新しい"上級アジャイル"クラスでの講義で扱うと、クラスの受講者はすぐに後ずさりするか諦めてしまいます。この新しいCrystal物は体の弱い人に向いていないのは明らかです。
このモデルにはまだたくさんの開発の余地があります。私はこの開発とこのモデルをソフトウエア開発以外にも適用できるようすることに一緒に取り組んでくれるパートナーを探しています(まず第一により良い名前と説明が必要です)。
Crystal ClearはICAgileの中ではどのような役割を果たしますか。
私はCrystal ClearとICAgileを別々のものとして考えています。Crystal Clearはメンバが同じ場所で一緒に働く小さな開発チームが価値を提供することに成功する確率を上げるための性質や振る舞いに対して私がつけたニックネームです。つまり、定期的な納品、よく考えて改善作業を行うこと、深いコミュニケーションなどにつけたニックネームです。商業的には、Crystal Clearの役割はコンサルティング企業が担う場合がほとんどだと思います。こういう企業はチームの作業や設計などをより効率的にしようとビジネスのあらゆる分野に対してコンサルティングを行います。
一方、ICAgileはアジャイル開発のトレーニングコースのための簿記会計を行う組織です。この組織はまず、各自の専門性を考慮した上で学習目的を立てることを支援し、そして学習目的を達成するまでの過程で各自が受講したトレーニングコースの記録をつけます。
Crystal ClearとICAgileはこの産業の中でそれぞれ別の価値を持ちます。国際アジャイル協会(ICAgile)はおそらくこの産業を強力に支援するようになるでしょう。というのは、この組織はこの10年で異なる性質を持つようになった組織や別の道を歩むようになったグループを結びつける働きをしているからです。アジャイルやプロジェクトマネジメント協会、国際ビジネス分析協会、国際ソフトウエアテスト品質協会、そして様々なアジャイルや資格認定団体などを結びつけます。ICAgileの活動で私がわくわくするのは、これらの組織の間を単に橋渡しをするだけでなく、協業して組織間の相互承認を生み出せるかもしれないからです。このようなことが実現できる幸運に恵まれたら、大きな前進になると思います。
Crystalについては、次のバージョン、例えば商用のバージョンに取りかかるときは、私はより深い課題に注力しようと思います。例えば、チームの中の一貫性やコミュニケーションについて、また、コミュニティや組織内の文化的習慣としての意思決定について取り組むつもりです。この取り組みは単に授業を行ったり、人々の受講を記録したり、認定組織やトレーニング組織を横断する評価を得たりすることでは達成できません。この試みはICAgileの試みよりも小さく狭いですが、より深いものです。
あなたはアジャイルの世界で指導的な役割を果たしていることで知られていますが、因習打破主義者としても有名です。現在のアジャイルの世界で注目すべき最も興味深い問題や考えは何でしょうか。それに注目すべき理由はなんでしょう。
私たちの産業はこの10年から15年の間、しっかりと発展しました。議論の質、実践の質、認知の質は企業でもカンファレンスの場でも向上しました。私は特に、先月開催されたAgile 2010での議論やセッションの質の高さに強く打たれました。1991年から1995年の間に私たちの知力に大変な負担を欠けた課題はすべて解決されました。私たちは、漸進的な開発の仕方について、反復的な開発の仕方について、リスク駆動開発について理解しました。コミュニケーションやデリバリ、フィードバック、自動テスト、クラフトマンシップ、統合、さらには分散開発や規模の大きな分散開発についても理解しました。私たちはソフトウエア開発の実践においていくつかの強固な理論を持っています。これらの理論はプロジェクトの成功確率を向上するために、発生する出来事をどのようにプロジェクトにすればいいのかを教えてくれます。
今なお袋小路で困っている人もいますが、そういう人はいつの時代にもいるものです。私にとっては、アジャイルという言葉はほとんど目的を果たしました。アジャイルはこの産業で設計やきめ細かいエンドツーエンドのフィードバック(典型的には短い反復の中で達成される)に注意を払う人々に触媒作用を及ぼす役割を果たしました。
しかし、"アジャイル"という言葉の実用性はまだ尽きません。方法論教条主義や数学的ユートピアへと素早く移動して、この産業が人と人との協力して作り出し決定してきたことの上に成立しているということを忘れてしまう人がたくさんいます。人間には神秘的な特質が備わっている。数学や方法論は無関係ではないが、目の前に実際にいる人を扱うよりはるかに簡単である。このことを繰り返し、繰り返し主張したいと思います。
しかし、これには3つの課題が残ります。
- 第一にこの世界のどんな理論でも人々がより良く協力することを保証しないということです。個々人は互いに奇妙な影響を与え合います。この相互の影響は信頼を増したり、予期しない激怒の引き金になったりします。ここでの課題は、活動する個々人を観察することを学び、そこから他の人のためのアドバイスとして導きだせるものは何か、何を個人の能力に任せるかを理解することです。
- 第二に意思決定を新しい探求対象にすることです(私は協調ゲームについて私が発言した後に、このことに気付かせてくれたDavid Anderson氏に感謝します。氏はこのように観察することで探求すべき新しい分野を開いてくれました。)。私たちは無意識のうちにチームや組織の中で意思決定をしますが、どのようにその決定に至ったのかについて議論することはありません。また、その決定の代替案について議論することもありません。初めて気付いてからもう15年も経ちますが、私たちは開発やコミュニケーション、"コミュニティ"について議論しますが、意思決定については議論しません。私が思うに、これからの20年間にわたってこの話題は探求と開発を行うのにとても面白い分野になるでしょう。
- そして、設計という作業が人によって実施されるという事実の重要性を念頭に置き続けることです。この作業はすべに述べた人同士の間に生まれる不思議な化学反応以外に、その人を取り巻くコミュニティや作業場所の質も関連します。どんなマネージャにとっても、アウトプットを改善するためのプロセスに傾倒するのはとても簡単なことです。それは、部門を超えて人員を編成することで各自の能力を向上させることよりはるかに簡単です。しかし、マネージャが常にこのことを念頭におく必要がなくなるとは思いません。
ノート
この記事はAlistair Cockburn氏へのインタビューの第二部である。次回のインタビューではアジャイルコミュニティが直面しているより議論の多い話題について氏に話を聞いた。乞うご期待。
ノート: 第一部はここで読める。