先月、マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)は新しいレポート"Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity"を発行した。このレポートは、デジタルデータおよびドキュメントの現状について調査し、これらデータを処理することにより解き放たれる可能性のある価値について明らかにしている。
ビッグデータがどのように価値を生み出すかを理解し、その変革のポテンシャルを調べるために、このレポートでは5つの領域(米国ヘルスケア、EU公共部門管理、米国小売り、大手グローバル製造業、個人位置データ)について深く考察している。このレポートによると、これら5つの領域は、世界経済の重要セグメントを全体的に示すものであり、さまざまな地域展望をとらえているという。また、これらはビッグデータ利用の洗練度および成熟度の点において違いがあり、その結果、さまざまなビジネス教訓が得られるという。
これら領域の詳細な分析をもとに、価値を生み出すための変革のポテンシャルをもたらし、個々の組織をどのように設計、組織、管理すべきかに影響を及ぼす、ビッグデータの5つの主な活用方法を示している。
- 透明性をもたらす
関連ステークホルダーがタイムリーに簡単にビッグデータへアクセスできるようにすることで、非常に大きな価値を生み出せます。実際のところ、価値を生み出すための透明性は、あらゆるレベルで必要条件であり、そのポテンシャルを引き出すのに最も迅速な方法となります。多くの場合、データ透明性をもたらすチャンスは、性能規範の欠如といった不整合が存在するところにあります。
- ニーズを発見し、変動性を明らかにし、パフォーマンスを改善するための実験を可能にする
組織が備え(データ収集を可能にする技術を備え)世界を感知する能力は継続的に改善されています。増大する(ビジネス)取引に関する詳細なデータをデジタル化し、格納している企業がますます増えています... こうしたデータすべてにアクセスすること、場合によってはデータが作られた状態で操作できるようにすることは、もっとマネジメントにサイエンスを取り入れた、これまでとは全く異なる意思決定方法を可能にします。すなわち、マネジメントのプラクティスに伝統的な科学的手法を適用するのです。具体的には、マネジャーはコントロールされた実験の科学的プロセス(実験を設計して実施する科学的仮説構築を含む)を利用することができ、意思決定前に定量的結果を正確に分析することができます。
- 行動をカスタマイズするための集団を分類する
ビッグデータを使うと、組織はこれまでにないくらい詳細な分類を行い、サービスを顧客のニーズにぴったり合わせることができます。このアプローチはマーケティングやリスクマネジメントではよく知られていますが、公共部門のような場でも革新をもたらすことができます。
- 人間の意思決定を自動化されたアルゴリズムで置き換える、あるいは、支援する
最新の分析によって、意思決定を大幅に改善し、リスクを最小化し、秘められていた価値ある見識を明らかにすることができます。ビッグデータはアルゴリズムを開発するのに必要な原材料、あるいは、これらアルゴリズムが操作するのに必要な原材料を提供します。現在のところ、ビッグデータに基づく分析には、ルールベースシステムや統計分析、ニューラルネットワークといった機械学習も含まれます。
- 新たなビジネスモデル、製品、サービスを生み出す
ビッグデータはさまざまな企業が新しい製品やサービスを生み出し、既存の製品やサービスを強化し、また、全く新しいビジネスモデルを発明することを可能にします。
このレポートはWebでかなりの反響を引き起こした。エコノミストSchumpeterは次のように述べている。
この事実をうまくまとめた新しいレポートにおいて、MGIはデータは物的資本、人的資本と同様、生産における要因のひとつになりつつあると述べています。ビッグデータを利用できる企業は、データを持たない者たちを蹂躙することになるだろう。新しい言葉を作るなら、データ価値はブランド価値と同じくらい重要になるだろう。MGIはそう主張しています。これは単なる意味のない未来学ではありません。ビジネスはすでにビッグデータに合わせて変化しつつあります... データ革命はこれまでに確立された産業およびビジネスモデルを崩壊させつつあります。IT企業はヘルスケア市場への進出を模索し始めています。Google HealthやMicrosoft HealthVaultを使えば、顧客は自分のヘルスデータを追跡して、治療履歴を記録できます。製造業はサービス企業への転換を急いでいます。あらゆるセンサーを使って製品をモニタリングして、壊れるよりずっと前に、修理が必要かどうかを判断できるようになります。
Richard Maddox氏は自身のブログに次のように書いた。
このレポートは、今やあらゆる分野や経済に入り込んでいるデジタルデータの現状と、その拡大する役割について説明しています... ビッグデータは国家経済に大きく寄与し、世界経済にもかなりの価値をもたらすことは明らかです... しかしMGIは、組織がビッグデータのポテンシャルを十分引き出すために直面する課題について、ビッグデータをビジネスに有利で価値あるものにするためには分析および管理能力に限りがあることについても言及しています。
最後に、Stowe Boyd氏はこう書いている。
MGIの分析によると、企業や政策立案者がビッグデータのポテンシャルを十分引き出すためには、大きな障害に立ち向かわなくてはなりません。米国だけでも、分析および管理の専門家が14・9万人不足しており、ビッグデータを理解してそれに基づいて判断を下せるスキルをもったマネジャーおよびアナリストが150万人不足しています(別紙)。また企業と政策立案者は、プライバシーやセキュリティ、データへのアクセス、技術展開などの課題にまつわる不整合にも対処しなくてはなりません。
日々情報が収集され格納されるにつれ、ビッグデータはますます大きくなっている。2010年には、企業は世界中で7エクサバイト以上の新たなデータをディスクドライブに格納し、消費者は6エクサバイト以上のデータをデスクトップPCやノートPC(あるいはモバイルデバイス)などのデバイスに格納する、とMGIは見積っている。こうしたデータを正しく活用できれば、今日の経済に大きな弾みをもたらすだろう。