Mozilla はその歴史において,(H.264 のような) 非オープンコード の利用を拒み続けてきた。InfoQ でも取り上げたことのある テーマだ。その理由は主にイデオロギ的なもの – すなわち H.264 が MPEG-LA の所有する特許によって,ライセンス的に支配されている点にある。このスタンスが軟化したのだろうか?
MPEG-LA はインターネットビデオ用のビデオコーデックについて,ライセンスの有効期限まで無償とすることを 2010 年時点で 発表している。Google Chrome が1年以上前に <video> タグからの H.264 サポート削除という脅し を掛けているものの,それを実行するには至っていない。
Windows プラットフォームの H.264 コーデックライセンスを有する Microsoft は,H.264 レンダリングを実行するプラグインを (プリインストールされた他のコーデックと合わせて) 自社ブラウザ用に提供している。 OSX には以前から H.264 サポートが組み込まれている。これら以外のオペレーティングシステム用ブラウザには Flash が H.264 デコードのサポートを提供しているが,ただしその大部分ではハードウェアアクセラレートがサポートされない。
一方で Adobe Flash for Mobile は – 人気面で先行するデバイスに対抗するための,Android のユニークなセールスポイントとして宣伝されていたにも関わらず – 4ヶ月ほど前 に開発が中止された。昨年販売されたすべてのスマートモバイルが Flash または H.264 ビデオデコーディングのいずれかをサポートしているが,これに対してオープンソースの WebM コーデックはデバイスとオペレーティングシステムのどちらにも大きな影響力を行使できなかった。
スマートフォンとタブレットの販売数の増加は,従来型 PC の販売に 大きな影響 を与えている。 そしてデスクトップブラウザの 4分の3以上 が H.264 デコーディングをサポートしているのだ (IE,Chrome,Safari の3つで世界中のブラウザの 75% 程度を占めている)。
そのような状況から Mozilla dev メールリスト のあるスレッドでは,プラットフォームでサポートされているビデオコーデックを追加することによって,プラットフォーム機能をベースとしたビデオ表示を可能にすることが示唆されている。Bug 714408 という,プラットフォームにインストールされているコーデックを Gecko プラットフォームで使用できるようにする提案だ。これによって H.264 ビデオコーデックの提供されている Microsoft と OSX プラットフォーム上であれば,ブラウザ上にビデオを正常に表示することが可能になる。さらにモバイルデバイス (一般的に電力使用がより制限されている) では機器全体の省電力のため,CPU によるデコード処理を避けてハードウェアアクセラレーションに処理を任せる傾向があるが,モバイルデバイス用 Firefox はこの機能によって,Flash プラグインのハードウェアアクセラレーション対応を待たずにこれらのコーデックの恩恵を享受できる,という優位な立場を得られるのだ。
WebM の ハードウェアデコーディングに関するサポートは限定的 で,一部のプラットフォーム (追加コーデックのインストールがよりオープンなもの) のみが対象である。iOS プラットフォームの急速な増加 – さらには市場の断片的な細分化 – によって,WebM がモバイル市場に浸透するチャンスはほぼ失われてしまった。
その結果として,Daring Fireball にリンクされている 多数の Torrent サイトが旧来の Xvid を離れ,H.264 にデフォルトのエンコードを移行している。
Chrome が脅しのとおりにライセンスの必要なコーデックのサポートを廃止していれば,あるいは WebM にもまだチャンスがあったのかも知れない。しかし H.264 をネイティブサポートするハードウェアデバイスの増加,さらには H.264 フォーマットのビデオ素材の数的増加を考えれば,WebM がカムバックを果たすことは到底期待できない。ブラウザが H.264 をサポートしていなくても,Flash ラッパに対してまったく同じ H.264 をフォールバック可能なのだからなおさらだ。<video>
タグ戦争は事実上,H.264 を勝者として宣告することで終結したのだ。