iOS デバイスをターゲットとするアプリケーション開発が可能な,Ruby の静的コンパイラが登場した。RubyMotion という名称で HipByte が提供するこの言語およびツールチェインは,Apple の App Store ガイドラインに完全準拠するが,その実現のため JIT コンパイラやインタープリタといったものはすべて除外されている。一部の Ruby 開発者には,これは制限と受け取られるかも知れない。
ツールのサポートは比較的貧弱だ。RubyMotion では IDE を一切サポートしていない。HipByte では開発者が作業の大半を,個々のテキストエディタとコマンドラインターミナルで行うものと想定している。
ランタイム側はこれよりもずっと充実している。RubyMotion は完全なマルチスレッドプログラミングをサポートする。面倒なグローバルインタプリタロックは必要ない。さらに Apple の並行および並列プログラミング用タスクベースライブラリである Grand Central Dispatch へのインターフェースまで用意されている。メモリがランタイムによって管理されているにも関わらず,開発者がネイティブなサードパーティ製の Objective-C ライブラリにアクセス可能なのも通常の Ruby と同じで,形式的には "パフォーマンスを犠牲にすることなく,ごく自然な形で" 実現されている。Dalvik ランタイムとの間でマーシャリングが必要となることの多い Mono for Android とは対照的だ。
RubyMotion の多くの部分で,MacRuby の一部をベースとしている。MacRuby は4年前に開始されたプロジェクトで,OS X および Object-C 上に Ruby 1.9 を実現するものである。最新版は 2011 年 3 月にリリースされたもので,バージョン 0.10 とタグ付けされている。このことから分かるように,プロジェクトは期待ほどには進捗していない状況だ。"MacRuby は MacRuby チームが著作権を持つフリーソフトウェアで,Ruby ライセンス条件が適用" される。
RubyMotion 自体はオープンソースプロジェクトではなく,開発者あたり 200 ドルの価格で販売される。これ以外にロイヤリティやライセンス費用は必要ない。小売価格には1年間のアップデートが含まれているので,事実上は毎年更新が必要なサブスクリプションということになる。