アジャイルマニュフェストの持続可能なペースで働くという原則は達成するのが難しい。
アジャイルリーダーでは近頃、この持続可能なペースについて議論になった。
持続可能なペースとは何か、どうやって一貫した持続可能なペースを生み出すかについて、話題が集中した。
議論の口火を切ったのはBob Sarni氏だ。氏はアジャイルマニュフェストの"アジャイル・プロセスは持続可能な開発を促進します。スポンサー、開発者、ユーザは一定のペースを継続的に維持できるようにしなければなりません。"を引用して
次のように言う。
私は多くの組織やチームで働いてきましたが、持続可能なペースを生み出すのは組織やチームにとって大きな課題のひとつです。持続可能なペースを維持するには多くの要因があります。製品のロードマップ、コミットメント、ビジョン、速度/流れ/歩調、仕事と生活のバランス、可視性、企業文化、個人的な問題、信頼、マルチタスクなど多くの要因が絡むのです。
チームレベルでの持続可能なペースはさらに大変です。チームのメンバは誰もが自分の維持可能なペースを持っていて、それが全体のペースに影響するからです。
Manoj Vadakkan氏は維持可能なペースで仕事ができないという問題を、アジャイルの基底にある価値と原則を理解しないでアジャイルを実践する組織と関連付けて論じる。
スクラムの実践について私が知っている大きな問題は、原則や価値を基本に据えないで反復的なプロセスを導入してしまうことです。持続可能なペースの問題は価値が基礎にないプロセスの問題のひとつだと思いませんか。
アジャイルの価値と原則が基礎にないスクラムは上手くいかないというのは十分に喧伝されていないのではないでしょうか。
出発点にアジャイルの価値がないアジャイル/スクラムの実践は維持不可能で、チームと個人を燃え尽きさせてしまう危険があるという点については他の論者も賛成している。Scott Duncan氏は自身の大組織での経験を紹介している。
1) 大企業の人たちが"維持"しようとしているのは、私が聞いた言葉で言うと"プロフェッショナル週間"というものです。例えば、50時間の労働、つまり、1日2時間程度の埋め合わせのない"残業"がある働き方です。
2) 1週間の労働時間が40時間であるという前提(ある週が本当に40時間だけしかない場合であっても)の見積もり方法で個々の機能/要求を時間単位で見積もり、開発期間チーム/スタッフ/プロジェクトの時間全体をその機能/要求の開発で"いっぱい"にします。週単位の開発期間を40倍して、さらにチーム/プロジェクトの人数倍にした時間をそれらの機能/要求の開発時間を満すのです。
3) "どうやってでも仕事を成し遂げる"のが本当のプロフェッショナルだと信じているので、持続可能かどうかには関心を払いません。
4) すべての時間が"仕事"に費やすことができるという前提で計画するので、計画外のイベント(例えば、計画外の変更や設計上の"発見")は計画外の時間で吸収することが前提になります。
Manoj Vadakkan氏は自身がスクラムアライアンスのウェブサイトに書いた記事に言及している。
顧客は従業員が毎日長時間働いているかどうかには関心を払わないかもしれませんが、結果としてのコードの品質については話す機会があるでしょう。長時間働くことの欠点を伝えれば、この点にも注意を払ってくれるようになるかもしれません。長期的には、次のリリースのためにコードを変更したい時に、この点に注意を払ってくれるようになるでしょう。持続可能のペースが、あれば越したことがないもの、無くても支障がないものだと思いますか。私たちはおそらく、顧客の考えに合わせるべきです。顧客も品質を無くても支障がないものだと思っているかもしれませんし、そうでないかもしれません。確かなのは、顧客のために意思決定するべきではないということです。
Karen Greaves氏は経験に基づいた具体的なアドバイスを書いている。
現在、私は組織の中で下記のように働いています。
1) 机に座っている時間と生み出した生産性や価値の関連を削除する。マネージャとして、働いた時間を計測しない。タイムシートもない、働かなければならない決まった時間もない、一日8時間働かなければ"ならない"という決まりもない。人々が生み出す価値を想定する。
2) 忙しくしているということよりもやるべきことをやるということに注力する。その日が特にやることがない日なら家に返ればいい。忙しくてどんどん仕事をしなければならないのなら続ければいい。Kent Beckの言葉で言えば、"いたくもないのにオフィスにいる時間はすべて残業時間だ"。
3) 週末の仕事は絶対に頼まない。
4) 達成したいと思えるような魅力的なゴールを設定することに注力する。達成不可能な締め切りよりもやる気が起こるから。
5) 余裕を持つ。具体的にはいつもの仕事をしない日や期間を設定する。例えば、研究の日や毎週金曜を学習の日にする。
いままでのことろ、ここで紹介したことは私のチームでは上手くいっています。ビジネス側にこのやり方を受け入れさせるのは大変でしたが、自分の信念を守った甲斐はありました。一年前これを始めたとき、チームは深夜や週末に働くのは日常茶飯事でした。しかし、昨年は18時前にはリリースを終え、週末に働くことはありませんでした。品質は向上し、チームのメンバの満足度も上がり、離職率も開演しました。生産性は上がったり下がったりしましたが、リリースに向けた計画や目的の明確さと直接的に関連していると思います。
アジャイルリーダーグループの外でもこの議題に対して多くのコメントが寄せられた。
Bob Hartman氏(“Agilebob”)は“アジャイルは初めて? 持続可能なペースで働く”と題した記事で持続可能なペースで働かなかった場合の結果について書いている。
1. 失敗が増える。疲弊したチームは失敗を増やす。
2. アウトプットが減る。疲弊したチームは働く時間は増えるのに結果が伴わない。
3. モラルが崩壊する。プロジェクトの最悪のタイミングで離職者がでるかもしれない。
4. 非難合戦が始まる(Xに言わなかっただろ、こっちのミスじゃない。いやXには言った。いいや言っていない…)。
5. 良い方法を捨て始める。捨てた方が速いと“思ってしまう”。けれども、残念ながら普通にコードを書いてビルドして品質保証担当に投げるよりテスト駆動開発の方が速い。
氏はアジャイルチームのリーダーに向けて具体的なアドバイスをしている。
プロジェクトマネージャとスクラムマスターはチームの精神的肉体的健康を見ていなければなりません。持続可能なペースを維持するためチームの良心になりましょう。プロジェクトマネージャがチームに体に悪いから労働時間を減らすように言ったら、自分がチームの良心であることを自分に言い聞かせましょう。
あなたのチームにとって持続可能なペースとは何か。どのように実現しているだろうか。
Shane Hastie氏 はアジャイルコーチであり、トレーナー、コンサルタント。オーストラリアとニュージーランドに拠点を置くSoftware Education社で働いている。