Slackのエンジニアリング担当副社長であるMichael Lopp氏が,QCon San Fransiscoで2番目に基調講演を行なった。“The Second Act”と題された講演の中で氏は,企業が単一製品の段階を脱して製品開発ビジネスを構築する時に必要な文化変革について検証した。
講演の冒頭で氏は,ソフトウェアエンジニアリングにおいて何よりも難しい側面はソフトスキルにあると述べた – 偉大な成果をあげるためには,効果的なコラボレーションを持つことが必要なのだ。
続いて氏は,ビジネスの変化に比べて,企業文化の成長のステップがいかに遅々としたものであるかを説明した。個人ビジネスにおいては,明確な意思決定手順というものは存在せず,“物事を成し遂げる方法”もまったく見えていない。しかし関係者がもうひとり増えた途端,意思決定がコミュニケーション上の問題となる。ここに“私たちのやり方”という,文化の最初の一片が形成されるのだ – 決定がコンセンサスの下で行なわれれば,それが以降の基準になり,逆にパワープレイが実施されたならば,それが今後人員が追加された時の標準になる。
氏はSlackが,その初期段階から設定されたシンプルな対話手順を持っていたことを説明した – 会話が主題から外れて別のチャネルでのスレッドが必要になったことを示すために,同社ではアライグマのアイコンを使用している。“可愛いアライグマを前にして,激怒できる人はいません。”
氏は,2人から30人,さらに300人へと企業が成長するそれぞれのステップで企業文化が着実に構築され,ある時点で2つのグループ – 守旧派(Old Guard)と革新派(New Guard)が発生する,と説明した。この2つのグループは,企業が向かうべき方向に対して異なる視点を持っている。守旧派が単純な組織構成と非公式なコミュニケーション,少ない資料を主張するのに対して,革新派は,非公式なコミュニケーションは環境に対してもはや不適切なのではないかと主張し,成長に対処する組織構造を構築しようとする。コミュニケーション上の摩擦や組織図の作成が繰り返され,ついには相互理解の形成が期待できない状況になるのだ。
守旧派は企業創設時の文化を重視し,多くの場合,“何かが間違っている”と感じている – これは価値の変遷においては頻繁に見られる現象だ。成長のこの段階においては,政治的な戦略は避けられない問題だ。組織構造がより多くの専門分野をサポートするように変化し,それらの間にギャップが生まれる。このギャップが悲観論によって埋め尽くされるようになるのだ。
企業の成長に伴い,勝利の定義も変化する必要がある – 最初の定義は,製品が市場において成功することだった。これを“製品開発を成功させる企業”に変えなくてはならない。これは異なる価値観であり,新たな考え方を必要とする。
文化は進化しなくてはならない,と氏は言う。
- あなたの得た教訓が,あなたを先に進めてくれるとは限らない。
- プロセスは文書化された文化だが,自分自身を守るためのものでもある。
- 思考の多様性を重んじよ。
氏はさらに,これらのアイデアを具現化している企業をいくつか紹介した。具体的な例として氏が紹介したのは,AppleがiPadのオペレーティングシステムをまったく異なる2つの観点から開発する,2つの独立したチームを持っていたことだ。ひとつが製品として残り,ひとつが廃棄されるのは承知の上だ。開発で得た知見は無駄ではなかったが,製品は意図的に廃棄された。
最後に氏は,聴衆に対して,自らの文化の一面を明確にするという課題を与えて,自らの講演を締め括った。愛していても,あるいは嫌っていても,文化は変えなくてはならないのだ。
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