アジャイル方法論は、一般的に「アジャイルコーチ」と呼ばれる新しい役割を導入します。従来の方法論ではその役割に焦点を合わせることはないでしょうし、あるいは言及されることもないでしょう。しばらくの間アジャイルのやり方で仕事をしている人たちにとっては自然なことに感じられるでしょうが、この仕事の仕方を最近始めた人にとっては、「アジャイルコーチの何がそれほど重要なのですか?ラインマネージャ、チーム、あるいはテクニカルリードのどこがまずいのですか?なぜMonster.com(転職情報サイト)にはこの肩書のポジションが54あるのですか?」といったようなたくさんの疑問が出てきます。
アジャイルコーチが何にフォーカスしていて、何をしていて、どのように振る舞い、さらに重要なことは、何故そうするのかをきちんと理解するため、アルファベット順にクイックツアーを行ってみましょう。
A-Zガイドのクイックリファレンス
AはAdvice(アドバイス)のA
BはBalance(バランス)のB
CはCelebration(お祝い)のC
DはDaring(大胆不敵)のD
EはEncouragement(勇気づけること)のE
FはFeedback(フィードバック)のF
GはGuidance(ガイダンス)のG
HはHumility(謙虚さ)のH
IはInfectious(人に伝わること)のI
JはJiggle(軽く揺らすこと)のJ
KはKnowledge(知識)のK
LはListening(耳を傾けること)のL
MはMentor(メンター)のM
NはNaysayers(反対論者)のN
OはObligated(義務)のO
PはPrinciples(原則)のP
QはQuestioning(質問すること)のQ
RはRetrospectives(ふりかえり)のR
SはSensitive(理解があること)のS
TはTransparency(透明性)のT
UはUnlock(解放すること)のU
VはVocabulary(語彙)のV
WはWelcoming(歓迎すること)のW
XはXenodochial(温かくもてなすこと)のX
YはYarn(作り話)のY
ZはZen(禅)のZ
AはAdvice(アドバイス)のA:「以前、この方法やあの方法でできたことがあります。こうした方がもっと上手くいくのではないでしょうか。」
従来型のマネージャは、メンバが道を見つけるのを手助けするのではなく、道を教えます。アジャイルコーチは、指示的ではないアプローチを好みます。アドバイザの役割で働くことがたびたびあるでしょうが、いざとなったらチームに介入して既知の落とし穴を避けたり、もっと上手くいきそうな方向に彼らを導きます(ガイダンス(リンク)とメンター(リンク)を参照)。
BはBalance(バランス)のB:「良いことをやめないで下さい。」
チームは、とても忙しくなって普段のルーチンに忙殺されることがあります。コーチは機会を探し、チームに素晴らしいメリットをもたらしそうな新しいことを見つけたり、試したりするようにチームに働きかけます。既にチームにメリットをもたらしているプラクティスが単に置き換えられたり忘れられたりしておらず、たいてい新しい方法と組み合わせられていることを確認するためにも、コーチはいるのです。
CはCelebration(お祝い)のC:「前回のイテレーションは素晴らしかったよ!」
チームが成功やAI(Appreciative Inquiry)の力を過小評価するのはよくあることです。イテレーションは締めをもたらすのに役立ちます。リズムが生まれ、それによってチームのメンバはゴールに到達したことに気づきます(フィードバック(リンク)参照)。イテレーションのお祝いの部分は、しばしば忘れられます。チーム全体がプロジェクトの終わり、あるいは他の何らかの重要なマイルストンを祝う、イベントが持つプラスの効果を考えて下さい(人に伝わること参照)。アジャイルコーチはチームとともに、そうした小さな成功を毎日祝います。
DはDaring(大胆不敵)のD:「これを話すと非難されるでしょうが、...」
変化をもたらすことには、ある程度のリスクがあります。そして信頼できるアジャイルコーチは、最小のリスクで最大の価値をもたらすことを試す方法を探します。彼はしばしばチームで最初にきっかけを作る人となり、チームの全員が、違った働き方を、試さなくても少なくとも安心して提案できる雰囲気を奨励するでしょう。
EはEncouragement(勇気づけること)のE:「続けよう!素晴らしいことだ!」
アジャイルプラクティスのいくつかは、かなり単純なものに思われます。しかし、なぜそれを行うのかを理解せずに誤解されることがしばしばあります。多くの場合、単に十分な時間をかけてプラクティスを試すことによって、彼らにとって上手くいったものの感じがわかり、そのプラクティスがもつ制限がわかるでしょう(質問すること(リンク)参照)。アジャイルコーチは、彼らが新しいプラクティスを試す始めの期間を乗り越える助けになるように、サポートしたり勇気を与え、時にはそのプラクティスのもっと難しい部分を克服するのを支援します。
FはFeedback(フィードバック)のF:「チームが...なことに気づいていましたか?」
全てのアジャイルの方法論は、短時間のサイクルでのフィードバックを含む共通のテーマを共有しています。アジャイルコーチは、チームの働きの全ての面-チームの相互作用、プロセス、プラクティスのあらゆること-において、フィードバックのメカニズムの重要性を強調します。定期的なフィードバックにより、チームはもっと効果的に彼らの個別の事情に適応します。
GはGuidance(ガイダンス)のG:「3つの選択肢があるようですね。私は1つめと2つめが良さそうな気がします。あなたはどう思いますか?」
アジャイルに狂信的な人のやり方は、アジャイルコーチのやり方とは異なります。狂信的な人が指揮統制を行うのに対し、アジャイルコーチは多くの場合、チームを導き、各人が自力で教訓に気づくのを支援します。彼はチームを既知の落とし穴から遠ざけますが、試行錯誤が優れた師となることも知っているのです。
HはHumility(謙虚さ)のH:「実際、この仕事をしたのは私ではなくチームなんです。」
アジャイルコーチは、チームが仕事を成し遂げるのを支援するためにチームを手伝います。彼らがミスをしたときや誤ったときは認め、成功が適切な人物の功績となることを保証しなければなりません。傲慢なコーチはチームに長くとどまることは無いでしょう。
IはInfectious(人に伝わること)のI:「これを見に来なければなりません!」
アジャイルコーチはチームにやる気と活力をもたらします。メンバに自分達が行っていることに対する情熱を見つけるよう奨励しますが、多くの場合、それは彼自身の活力からくるものです。彼は、アジャイルの熱狂者に惑わされないように気をつけながら、チームがどれくらいの変化を受け入れることを望んでいるのか、そして彼の熱意がどれほど効果的かを理解することに重点的に取り組むでしょう。彼はまた、彼の活力ややる気を共有すべき時期に絶えず目を光らせています。
JはJiggle(軽く揺らすこと)のJ:「ここを少しとそこを少し調整して。」
チームが同じプラクティスのセットから始めたとしても、物事を効果的に行う一つの方法はめったにありません。アジャイルコーチは、彼らの経験や理由の理解に基づき、チームが彼ら自身のプラクティスをチームや環境にもっと合うように調整するのを支援します。
KはKnowledge(知識)のK:「この...に関する本/記事/メーリングリストを読んだことがありますか?」
世の中には、プラクティスや原則、それらの採用方法や課題に関する無数の情報があります。アジャイルコーチはリソースの一切合切を良く知っていて、最も関係のありそうな本や記事、ブログの投稿をメンバに教えます。
LはListening(耳を傾けること)のL:「あなたは...がしたいと言ってましたよね。」
アジャイルコーチは、チームのメンバが経験していること、好きなものや嫌いなものを本当に理解するために、チームの声に耳を傾ける必要があります。聞いたことをチームに反映することが有益なこともあります。メンバ一人一人に耳を傾け、彼らが何を必要としていて何を心配しているかを理解し、これに答えて優先度やアクティビティを調整します。他の人たちと共有することもありますし、彼ら自身が率直に話すように働きかけることもあります。
MはMentor(メンター)のM:「彼ら自身を解雇すること」
アジャイルコーチの最終的な成果は、チームが自分達のことは自分達ででき、自立していて、彼ら自身のプラクティスを微調整することができるようにすることです。この目的を達成するために、コーチと良く似た役割で、メンターやサポートを行う適切な人を探すでしょう。
NはNaysayers(反対論者)のN :「私はあなたを信じていません。」
どのグループにも、明白な相応の理由も無く、アジャイルコーチの存在に完全に反対する人がいるかもしれません。アジャイルコーチは批判に耐えられなければなりません。そして、彼らの要求や、何故彼らが脅威を感じているかを理解しなければなりません(耳を傾けること(リンク)、質問すること(リンク)、理解があること(リンク)参照)。彼らが話を聞いてもらっていると感じさせ、彼らの要求に取り組み、安心させるために、彼らに働きかけるでしょう。抵抗する反対論者たちは先へ進むように働きかける必要があります。そしてこれもコーチの仕事の一部かもしれません。
OはObligated(義務)のO:「チームの一部」
アジャイルコーチが提案するアクティビティが、チームにとってベストになることを目的としていると示すことは、重要なことです(透明性(リンク)参照)。そして、チームの一部として働き、下された決定による同じ結果を経験することは多くの場合助けとなります。
PはPrinciples(原則)のP:「何を、だけではありません。何故、でもあるのです。」
プラクティスの単純な実行の先を見通し、アジャイルコーチは一連の原則によって促進される深い理解や知識をもたらします。原則の無いプラクティスは通常あまりメリットをもたらさず、プラクティスの無い原則は多くの場合実行が困難です(ガイダンス(リンク)参照)。一連のプラクティスを通してチームを導き、これらによって付加される価値をチームが理解するのを助け、チームや組織のために役立つものへと調整することによって、チームが原則を実現するのを支援します。
QはQuestioning(質問すること)のQ:「何を見ましたか?それをどう感じましたか?」
質問をすることは、白熱していたり困難な状況を明らかにするための素晴らしい方法です(反対論者(リンク)参照)。アジャイルコーチは意見と事実を区別するために、あるいは状況をもっとよく理解するために、しばしば質問するでしょう。質問をしないで、長い目で見ればチームの役には立たないだろうと早合点するのは簡単です。
RはRetrospectives(ふりかえり)のR:「私たちは何を学びましたか?さらに行いたいことは何ですか?違うやり方で行いたいことは何ですか?」
ふりかえりは、チームが行ったことについて彼らが学ぶのを支援するために、アジャイルコーチが利用する重要なプラクティスです。プロジェクトのふりかえりは新しいプロジェクトに知恵をもたらします。暫定的な、あるいはわずかな時間のふりかえりは、チームが絶え間なく変化する環境に素早く対応し、さらに効果的であり続けることを支援します。ふりかえりから、どんな変更が実現されたのかを目立たせ、あるいは少なくとも、何度も繰り返されるであろう共通の基本的な問題を明るみに出すというメリットもあります(耳を傾けること(リンク)参照)。
SはSensitive(理解があること)のS:「彼らは...する準備ができているのでしょうか。」
偉大なアジャイルコーチは、チームが働いているところの文化や環境を尊重します(耳を傾けること(リンク)、歓迎すること(リンク)参照)。チームに入って仕事の仕方を変えるように要求することはしません。まず、助言をする前に観察するでしょう。
TはTransparency(透明性)のT:「あなたが...するのに役立つと思うので、これを試してもらえませんか。」
正直でいることは、アジャイルコーチが信頼を築くのに役立ちます。新しいことを試すことで得られるであろうものを理解してもらうため、それを行う理由を説明します。現状やその過去の経験との類似点、あるいは以前学んだことを説明する場合、人々はより安心して彼の提案を受け入れ、理解して「自分のもの」にしたり、あるいは吸収しやすいのです。ある状況では、彼が隠された思惑や不純な動機を満たそうとしているのではないということを彼らに知らせることは、重要なやり方でもあります。
UはUnlock(解放すること)のU:「このチームでこれができるとは知りませんでした!」
チームには多くの場合、働いている体系のせいで未開発のままのたくさんの素質があります。注意深い観察と現在のプロセスの尊重を通して、体系的な障害を確認して取り除くのを支援することによって、アジャイルコーチはしばしばチームの潜在能力を解放します。
VはVocabulary(語彙)のV:「YAGNI?燃え尽き?ムダ?」
あらゆる方法論には、そこで使われている専門用語があります。アジャイルコーチは専門用語や頭字語、特別な言葉を知っておき、チームが使用している知的モデルがどんなものでもマップします。新しいモデルや既存の知的モデルが一致しない場合、これは特に手腕が問われることであり、経験に基づいた指導が必要になるかもしれません。(禅(リンク)参照)
WはWelcoming(歓迎すること)のW:「何をやってみるべきだと思いますか?」
アジャイルコーチが成功している場合、チームは新しいアイデアを出し、実際に実行しています。アジャイルコーチの最初のステップは、個々人が提案した新しいアイデアを歓迎してサポートし、概して過去にされたような酷評から守ることでしょう。
XはXenodochial(温かくもてなすこと)のX:「外部から来た人に好意的に」
ほとんどのアジャイルコーチはチームからチームへと移動し、さまざまなグループにうまく溶け込む必要があります。彼らは、さまざまな人たちが話しやすいだけではなく、彼らの言うことや彼らのすることが人々を排除しようとするものではないことを保証しなければなりません(理解があること(リンク)参照)。外部から来た人たちには、それぞれの関係や動機があります-コーチはしっかりと自覚し、各人の潜在的な可能性に対してオープンでいなければなりません。
YはYarn(作り話)のY:「昔々...」
物語を共有することは、知識が文化の間を行き来する上で、大きな役割を果たします。そしてそれは、知識と理解の普及を促すためにアジャイルコーチがしばしば利用するテクニックの一つです。一部の物語は、以前のチームでの経験や交流に基づくものかもしれませんし、単に概念を説明するための例えとして示されるかもしれません。
ZはZen(禅)のZ:「あなた自身のやり方をみつけなければなりません。」
人々が学ぶのを促すためには、いくつかの苦い経験をする必要があります-アドバイスすることは、間違えても悲惨な結果にならない安全な環境を用意するほどには、効果的ではありません。この目的を達成するために、各人がそれぞれの問題に適切な解決策を見つけるのを支援するため、アジャイルコーチはソクラテス式問答法のようなテクニックを利用するかもしれません。
著者について
Patrick Kua氏はThoughtworks社でソフトウェアの開発者やトレーナー、コーチとして働いています。Patrick氏は、彼が働いているチームの価値を高めることに熱心です。そして、自分たちが楽しむことに夢中になっている人たちに夢中です。彼は、彼らが楽しむことと彼らがキャリアの中で行っていることが一致することは、より一層素晴らしいと考えています。この3年半の間、彼はアジャイルを実践しているたくさんのチームの一員であり、コーチやリードを行っています。
原文はこちらです:http://www.infoq.com/articles/agile-coach-a-to-z
(このArticleは2008年5月22日に原文が掲載されました)