私たちは毎日コミュニケーションに失敗している。失敗は取るに足りないものから悲惨な結果をもたらすものまで様々だ。残念なことに、私たちには口論やケンカやもっとひどいことになるまで、コミュニケーションの失敗の本質について注意を向け自分たちのやりとりを分析しようとしない傾向がある。コミュニケーションの失敗はチームワークが重要な今日の世界のビジネスにおいて競争上の優位を得るための最も大きな障害である。この記事では J. B. Rainsberger 氏が祝日の挨拶を例に、効率的なコミュニケーションと信頼の構築、そしてチーム作業を行うための秘密兵器のひとつを教えてくれる。
この話は「ハッピー・ホリデーズ」という言葉から始まる。
- 「なんでメリー・クリスマスって言わないんだ。クリスマスをバカにしてキリストを否定する気か?」
- 「ハッピー・ハヌカーだろ。ハヌカーって発音できないなら面倒でも勉強してくれればいいのに」
- 「キャンドルマスというのを聞いたことはある?」?!"
「ハッピー・ホリデーズ」という挨拶に対しては反感をもつ人が結構いるようだが、これは休日を幸せな気持ちで過ごすための挨拶だし、悪いことではないはずである。この挨拶に好意的な人もたくさんいるし、そうであれば、一体正しいのは誰なのだろうか?
挨拶の受け止め方には当然何かが影響しているはずだが、一体何が影響しているのだろうか。これについて頭を悩ませたとき、私はまず、口調が大いに関係しているというのを認めなければならなかった。陽気な口調で発した「ハッピー・ホリデーズ」という言葉は、無愛想な口調や皮肉っぽい口調で発した場合とは異なる解釈をされて当然である。だがここでは、幸せを祈る気もない人が口先だけ「ハッピー・ホリデーズ」と言うケースは除外し、挨拶をしてくれた人が心から私の幸せを祈ろうとしてくれているものと仮定して話を進めたいと思う。その場合私はそれにどう応じるのがよいだろうか?あなたならどのように決めるだろう?
多分、まずは自分の幸せを祈ってくれているのが誰なのかを考えることから始めるだろう。友人や知人なのか、ライバルなのか、お店のレジ係か、親切な年配のユダヤ人女性か、親切な年配のウクライナ人か、それともウェルマートの従業員か?しかし、文化的民族的背景からその人の意図を推測しようとすることは可能だが、それが特に正確だと言い切れるわけでもないので、私はかなり前にその試みを止めてしまった。親切な年配のユダヤ人女性は「ハッピー・ホリデーズ」と言うかもしれないが、それは彼女が仕事をする中で、キリスト教徒の顧客に対して「ハッピー・ハヌカー」と挨拶し、その顧客のうち何人かに対してハヌカーとは何かを説明することになるよりも、「ハッピー・ホリデーズ」を使うほうがよいということを学んだからである。今日ではクリスマスやキリスト教に対する攻撃はない。民族性や年齢や自分が知っている性格特徴のような表面的な手がかりから意図を推測するのであれば、判断を誤らせる部分と正しい結論を導いてくれる部分を見分けなければならない。正しく判断するためにはもっと他に何かが必要だ。そして、その何かはちゃんと存在する。ソフトウェアコンサルティング業界の偉大なコミュニケータたちに影響を与えたコミュニケーションの専門家 Virginia Satir 氏にそれを尋ねることにしよう。
さて、とはいえ、Virginia Satir氏[1]に直接尋ねることはできないのだが、私は自分にとって非常に役立つ彼女のコミュニケーションモデルのひとつを以前に学んでいる。私は彼女のオリジナルの仕事に接したことは一度もないので、他の人からまた聞きした単純なものしか知らない。だがそれでも、それは私の役に立っているし、皆さんの役にも立つかもしれない。
このモデルでは、刺激から応答までの基本的なステップとして、受容・解釈・感受・応答の 4 つを定義している。私たちは皆、モデルは全て簡略化されたものであり、それゆえ不完全であるということを知っている。だが、このモデルは驚くほど完全だ。コミュニケーションがうまくいっていないと私が感じるとき、Virginia 氏のモデルはいつもコミュニケーションを正しいレールの上に戻すのを助けてくれる。
ここでの問題は次のとおりである。私たちの美しい世界は二つに分断されている。一方は快楽的な文化の破壊者で、もう一方は他者を愛する正義の保護者だ。私は分断ではなく統合を支持するので、これらのグループが互いに少しでもよくコミュニケーションできるように最善を尽くして手助けしている。この記事が終わるまでには、私は自分が成し遂げた使命を自身に課したことは正しかったと感じるだろう。このモデルを通じて一歩ずつ、どのように私たちが「ハッピー・ホリデーズ」という言葉を受け取り、そして応答するかを調べていきたいと思う。
「受容」のステップ
まずはメッセージを感じ取ろう。あなたがレジに行くと、親切そうなレジ係の女性が微笑むのが見え、気持ちのよい口調で「ハッピー・ホリデーズ」と言うのが聞こえた。そして恐らく、嗅覚や味覚や触覚は、普段と違うものは何も感じなかった。これでメッセージの受容は完了した。次はこのメッセージを解読するステップだ。
「解釈」のステップ
彼女は「ハッピー・ホリデーズ」という言葉で何を言いたかったのだろうか?それを考えなければならない。彼女は心から微笑んだのだろうか?そして本当に陽気な心地よい挨拶を自発的に行ったのだろうか?ほとんど同じメッセージをほとんど同じ方法で受け取ったときですら、受け取り方は人によって様々である。この女性についてはどうだろう。彼女はレジ係だ。私自身レジ係をやったこともあるし、彼らがどのようなトレーニングを受けているかは知っている。私は、自分の最後の飛行任務を終えた 10 年後でも Virtual World の Red Planet の遊び方をあなたに教えることができる。売り込み文句を一字一句違わず復唱することができる(ビールを一杯おごってくれれば)。Virtual Geographic League の歴史はすぐに忘れられてしまうが、教育ビデオを見せる前の私の三分間スピーチは何にも意識しなくても口をついて出てくる。多分彼女も同じなのだ。彼女の微笑みを心からの(あるいは偽りの)ものであると解釈し、彼女の声を本当に陽気な(あるいは陽気を装っただけの)ものであると解釈し、「ハッピー」と「ホリデーズ」という二つの単語の文字通りの意味を理解するのである。そしてあなたはどうにか、彼女の言葉が自分の祝日気分をあなたと共有しようとしていることを意味しているのだと判断する。これでメッセージの解釈が終わった。次のステップではこのメッセージの意味を感じ取る。
「感受」のステップ
あなたに向けて自分の祝日気分を広げてくるこの奇妙な女性を、あなたはどう思うだろうか?女性のこの行動は、ついていない日にあなたを元気づけてくれるだろうか?もしくは今年のこの祝日には何も幸せなことなどないし、あなたを苛立たせてしまうだろうか?あなたにあらゆることに対する望みを感じさせてくれるだろうか?もしくはもっと空しい感情を植えつけるだけだろうか?ある雰囲気の中ではあなたは彼女の誠意をありがたく思うだろうし、別の雰囲気では彼女のことを偽善者だと思うかもしれない。たとえあなたが彼女のメッセージを彼女が意図したとおり正しく解釈したとしても、あなたがメッセージからどのような気分を受け取るかは彼女がコントロールできない様々な要素に影響される。だがあなたはどうにか、この女性がよい気分を共有しようと心から思っているのだと判断する。それは、あなたがもともと悪くない精神状態にあったので、喜びを伝えるこのメッセージを受けたときに更によい気分になれたからである。これでメッセージの感受は終わった。次のステップでこのメッセージに応答する。
「応答」のステップ
あなたはもともと気分がよかったところ、彼女の言葉でさらによい気分になった。もしあなたが急いでいるなら、そっけなくうなずいて行ってしまうかもしれない。だが、あなたはそこを去る前に彼女に微笑み返して返事をする時間をとるのだと決めることもできる。自分を心地よい気分にしてくれたことに対して彼女に感謝するために時間を費やすのもよいし、彼女がそういう挨拶を今後も続けるように励まし、彼女が機嫌の悪い人たちの態度で落ち込まないように配慮するのもよい。もちろん、彼女の言葉に応じると決める際にはもっと他にも考えることはある。今回、あなたは積極的に応答することを選択するが、ウェルマートという邪悪な巨大企業が進める政治的公正に盲従している人が好きではない。なのであなたはそこを去るときに、彼女と同じ陽気な口調と笑顔ではあるが、「ハッピー・ホリデーズ」ではなく「ありがとう、メリー・クリスマス!」と言うのを忘れない。
コミュニケーションはここでややこしくなっていく……
彼女はあなたの応答を受け取った。彼女はあなたが「メリー・クリスマス」と言うのを聞いて、それをウェルマートの方針に対するある種の牽制であると解釈し、あなたがそういう応答をするのももっともだと判断する。そして彼女は自分の対応を改め、あなたに「メリー・クリスマス」と返答することを選択する。もしかすると、これによって彼女は今月三度目の口頭注意を受けて停職処分となり、2007 年のクリスマスプレゼントもなくなってしまい、かつての摂食障害をぶり返してしまうかもしれない……というのは冗談だが。
彼女が「メリー・クリスマス」と言うのを彼女の上司はいぶかしい目で見るので、彼女は自分が「メリー・クリスマス」と言うべきではないと知っていることをアピールするため、列に並んでいる次の 5 人の顧客に対して大声で「ハッピー・ホリデーズ」と挨拶するのも忘れない。
私の反応をあなたが受け取り、あなたの反応を私が受け取る。周りで見ている人は私たちの反応を見て、そしてそれを二人の友人に伝える。そうやってコミュニケーションは続いていく。これは、私たちがどうやって互いにコミュニケーションをとるのかを理解しようとするひとつの方法である。
チームワークは素晴らしいコミュニケーションから始まる
この話は全部、とても興味深いのだが、この記事のそもそもの話題についてはどうだろうか?
誰かがあなたに「ハッピー・ホリデーズ」と言うとき、その人は誰に対しても通用する無難な態度をとろうとしているだけかもしれないし、クリスマスを攻撃しているのかもしれない。逆にその人があなたに「メリー・クリスマス」と言えば、それはその人が無知なだけかもしれないし、クリスマスに反対するテロリストを攻撃しているのかもしれない。私たちが見てきたとおり、これは非常に複雑だ。私は、あなたが自分の応答と相手の応答、そして更にそれに対するあなた自身の応答を理解するために Virginia Satir 氏の相互作用モデルを使う訓練をすることを勧める。会話の分析はすればするほど速く簡単になっていくし、あなたは自分の周りの人たちをより深く理解するようになる。仕事でこれらのテクニックを使えば、あなたが信頼関係を構築する手助けになるし、それは効率的なチームを作るための最初のステップとなる。『 The Five Dysfunctions of a Team 』(訳書[2]のタイトルは『あなたのチームは、機能してますか?』)を読めば、これについて更に知ることができる。楽しんでほしい。
メリー・クリスマス!
[1] Virginia Satir (サーティアと発音する)氏(source)は著名なアメリカのライターでありサイコセラピスト。特に彼女の家族療法へのアプローチがよく知られている。彼女のアイデアは現在ビジネスにおけるリーダーシップにも適用されている(source)。
[2] 書籍: 『 The Five Dysfunctions of a Team: A Leadership Fable 』 訳書は 『あなたのチームは、機能してますか?』 パトリック・レンシオーニ著(サイト・英語)
著者について
J. B. (Joe) Rainsberger氏は執筆活動やプログラミング、アドバイザ、コーチング、そしてコンサルティングを行っている。2000 年以来、Joe 氏は Agile Software Development コミュニティに実践者、講師、ライターそしてカンファレンスのまとめ役として貢献している。彼が最初に執筆した書籍『 JUnit Recipes: Practical Methods for Programmer Testing 』(サイト・英語) は JUnit を使う Java プログラマの標準的リファレンスとなっている。Joe 氏はカンファレンスでの発表を頻繁に行っており、二つの雑誌と自分のブログ(source)で執筆をしている。XP Day North America (source)の一連のカンファレンスではホストを務め、各地のソフトウェア専門家たちに Extreme プログラミングについて学ぶ機会を与えている。2005 年、彼は Agile Software Practice へのコントリビューションで Gordon Pask Award の最初の受賞者の一人となるという、Agile Alliance の年に一度の栄誉を受けた。
原文はこちらです:http://www.infoq.com/articles/satir-communication-model-teams