組織のアジリティを向上して,高い適応性と応答性を備えるための方法が求められている。その新たな波として,組織を管理し,透明性と自己組織化をサポートするための現代的な手法が注目を集めている。
LiquidOは,組織の行動や判断を体系化し,組織のメンバを信頼することによって,全メンバがマネジメント活動の一部を担うことを可能にするという,組織的なガバナンスモデルである。12月8日にはStelio Verzara氏が,Dare Festival Antwerp 2014で,液体化組織(Liquid Organization)について講演する予定だ。
InfoQでは氏にインタビューして,LiquidOモデルとそのメリット,組織の液体化(Liquefy),組織管理の現代的手法と組織のアジリティ向上について話を聞いた。
InfoQ: LiquidOモデルの根幹となる原則とプラクティスについて,概要を説明して頂けますか?
Stelio: LiquidOは最新世代のガバナンスモデルです。リーンで包括的,かつオープンで,組織(プロジェクトチームから企業全体に至るまで)の全員がマネジメント活動に参加することを可能にします。予め定義された階層構造を必要とせずに,形式的な組織モデルと現実とのギャップを埋めることを目的としています。
戦略は共同で作成します。ガバナンス活動には誰でも提案できますし,誰でも議論し実践できます。各人は,自分自身にとって価値がある,あるいは組織全体に価値を提供できると思うアクティビティに参加します。意思決定もその範疇です。
より多くの価値を創造して,共有された活動が同僚によってより高く評価されれば,それまで以上の報酬と決定権が与えられるようになります。組織内での評価も高まるでしょう。アクティビティとその結果に基づいた評価の追跡,すべてのストリームラインとそのアウトプットに対する完全な透明性,そういったものが,スティグマージ(Stigmergy, 間接的インタラクション)や,継続的で体系的な学習を可能にするのです。
InfoQ: DareFestカンファレンスで組織の液体化について講演される予定ですが,これはどういう意味なのか,説明して頂けますか?
Stelio: 組織というものに対して,私たちが通常デザインして実現しているような,安定した予測可能なものであることを目的としたフォーマルな構造のことを考えているのでしたら,あなたが思い描いているのは固定的な構造でしょう。その構造では,誰が何の責任を負うのか,どのようなガバナンスに割り当てられるのか,報告や従属をしなければならない人は誰か,といったことは,すべて事前に定義された静的なパラメータです。考えるべき人と決断すべき人,そして行動すべき人とのテーラー的な分離が,このようなイメージの根幹をなす部分です。
現代の高度に複雑化した状況において,このような方法で組織を理解し,管理するのは,もはや最良の方法であると単純には言えません。適応性の欠如はパフォーマンス上の大きな問題を引き起こします。マネージャの苦労や一般作業者の退職に関する統計値は,今日では驚くべきレベルに達しています。
組織の液体化とは,システムを加熱して,こういった結合の一部ないし大部分を分断することです。それによって組織の適応性が向上し,どんな状況に対しても必要な形状を持つことが可能になります。いつでもどこへでも,より多くの価値を生み出すことができると感じる場所へシステム内を自由に移動できるような,本当のチャンスを皆に与えるのです。
InfoQ: 組織が液体化することによって,どのようなメリットが得られるのでしょうか?
Stelio: 先ほど話したような,リアルタイムの適応性があります。加えて,Nassim Taleb氏の言葉を借りるなら,非脆弱性ということもあります。
さらには情報処理の質と速度の向上,すなわち,意思決定を改善し,組織的かつリアルタイムな情報収集と知識の拡張を実現します。それらの結果として,すべてのステークホルダに対して,優れた価値提案が可能になるのです。
最後に重要なのは,そのような組織に従事する人々が,極めて強い参加意識を持つということです。これは,何に価値を見出し,どのように成長するかを理解し,決断する自由が個々に与えられることによって,自発的でダイナミックなリーダシップが形成されるからなのです。
InfoQ: 組織改革や液体化,マネージメント3.0,リーン組織など,組織のアジリティ向上に関する話題はたくさんありますが,これらは単なるバズワードなのでしょうか,あるいは組織管理の新たな波が始まったということなのでしょうか?
Stelio: 今立ち上がりつつある,世界的な規模の波があります。そして,どのような波にもバズワードというのはあるものです。
本当の意味で重要だと思うのは,2つの面で表されるコペルニクス的な革命です。ひとつは組織の目的です。現在では,はるかにシステム的,プラットフォーム的で,他のアクタと相互依存性を持ったものになっています。ステークホルダの利益の最大化を究極的な目標としていた,"古代"的な発想とはまったく違います。ふたつめは,人々が適応すべき対象であり,自身の価値の拠り所とする,重力の中心としての組織そのものの死です。その後には今,人々が効果的な活動を行うために必要なものに適応可能な,新たな種類の組織体制のための余地が残っています。人々が中心に戻ったのです。
個人的な見解として,現実に今起きているのは,エゴに基づいた"ティーンエイジャ"の時代から,相互依存性を重視する社会の成熟した世代へという,はるかに広範な,人類にとってのシフトなのだと思います。私たちは今,その開始点に生きているのです。
InfoQ: 多くのチームがますます自己組織的になる一方で,自己組織化されたチームはまだ少なく,ut7, Spotify, Jimdoなどの組織が例として挙げられるに過ぎません。組織全体に自己組織化を適用した例として,他にご存知のものがありますか?その過程はどのようなものだったのでしょう?
Stelio: Dee HockのVISAでのアドベンチャーから,友人であるDoug KirkpatrickのMorning Starでの経験まで,その他にもValve Softwareなど多数あります。これは本当に大きな,新しくはない何かです。すでに現在でも,たくさんのエクスペリエンスが進行中です。現在は主流として,本当に多くの関心を集めています。実例の数も,今後数年間で指数関数的に増えることでしょう。
私自身の実施体験としては,開始点には3つの"タイプ"があります。
- 新たな組織を立ち上げたあなたが,その成長につれて,適応性とリーン性を維持するべく,そのための新たな方法を探し始める。
- すでに確立して独自の勢いを備え,運営も良好な組織を管理ないし保持する立場にいるあなたが,今後5ないし10年の間にまったく違う世界で活動しなければならなくなるという認識の下,現在の勢いを別の組織的方向へと転換を始める時期と理解する。
- 確立された組織が現在の複雑性のレベルにはもはや対処できず,パフォーマンスと持続可能性を失いつつある。生き残りのためには,進化することが必要なのだ。
InfoQ: 組織のアジリティを向上し,より液体化するというのは,難題かも知れません。大きな課題になりそうなものを,いくつか挙げて頂けますか?それらには,どのように対処すればよいのでしょう?
Stelio: 最大の障害は,旧式の"命令統制型"の組織文化です。新しい組織モデルの最先端に従事して,毎日それに触れている人たちにさえ,このような文化の痕跡を見出すことがあります。この面の"カルマ"は100年以上にわたって私たちに焼き付いているので,それを振り払うのは容易ではありません。私たちの現在の組織はこの文化の上に構築されています。"ワークキャリア"の概念自体もこの文化に基づいたものですし,教育システムでさえ,それを前提として構築されているのです。
共同創造と相互依存の新しい意識,そこから派生する"オーガニック"な運用モデルに移行するために必要な,深い体系的な信頼は,手品のように帽子から出てくるものではありません。
私たちはCocoonプロジェクトで,この問題に絶えず対処してきました。議論を最小限にして,でき得る限りの行動をしたのです。私たちが組織の進化を支援する作業に携わっているとき,講義やレクチャではなく,適用可能なツールやプラクティスを提供しています。それらを通じて新たな文化の花が咲き始め,組織がリーン性,包括性,あるいはオープン性の方向へシフトを始めます。LiquidOはこれら3つの方向すべての進化段階に位置していますが,そこに向かう道筋そのものがすでに提供,発見するための大きな価値を持っているのです。