Microsoft Research の Bill Buxton 氏および .NET ディベロッパ部門担当のコーポレートバイスプレジデント Scott Guthrie 氏は、ラスベガスで開催されている MIX 09(リンク) で基調講演を行った。
Bill 氏は現在の景気低迷にもかかわらず我々は考えられうる限り最善の職業の一つに就いていると主張した。彼の見解では、今はエクスペリエンスに注目する良い時期でもある。彼は「Return On Experience」という観点で議論を展開した。彼は先の恐慌の間に「工業デザイナ」が注目されたことを説明し、今日ユーザエクスペリエンスに焦点が置かれた新しい業種が頭角を現すであろうことを確信している。
工業デザイナからの教訓は、彼らが不況を生き抜いただけでなく今もなお活躍しているということである。彼の考えでは、現在ではエクスペリエンスとデザインの両方が製品の重要な要素として考慮されなければならない。
Bill 氏はエクスペリエンスは物理的な物のように表現するのは簡単なことではなく、タイミングに関するものであると指摘する。ユーザエクスペリエンスの専門家はユーザエクスペリエンスを説明するためによく状態遷移図を利用する。Bill 氏は遷移がユーザエクスペリエンスにおける最も重要な要素であると考える。彼は間もなく我々が状態と遷移に基づいたツールを手にすることを心に描いている。それらは「観念化」から「ユーザビリティ」への移行の手助けとなるだろう。
続いて Bill 氏は Microsoft のユーザエクスペリエンスに関する取り組みを説明する。
Microsoft はデザインを理解し、私たちが Return on Experience についてお話する際、ただ単に言うべきことを言っているだけではありません。ユーザエクスペリエンス関連の人員は150%増加し、約800名のユーザエクスペリエンスのデザイナおよび研究者を抱えています。私たちは文化を創造し、適所に管理者を配置しています。Zune や iPod のような MP3 プレイヤーとはデバイスのことではなくソフトウェアおよび生態系のことなのです。シンクライアント、ウェブ越し、サーフェイス、Windows 7… 等々、今や全ての Microsoft 製品が皆同じように、最高の Return on Experience を手に入れます。私たちはこのエクスペリエンスをお届けする統一された方法を必要としています。それは単なる現実ではなく、現在の状況において非常に重要なことです。
Scott 氏は講演の第二部でユーザエクスペリエンスを実現する方法を説明した。Microsoft はこの分野を以下の3つの領域に分けて考える。
- ウェブ
- メディア
- RIA
ウェブ
この分野におけるツールは Visual Studio および Expression である。
Scott 氏は ASP.NET および PHP 両方に対応し、Secure FTP によるデプロイメント、改良された CSS 診断ツールそして全ての主要なブラウザでデザインがどのように表示されるかをすばやく視覚化する手段 (SuperPreview) をサポートする Expression Web 3 を発表した。
Erik Saltwell 氏が SuperPreview 機能のデモを行った。これはウィンドウの整列および重ね合わせによる比較をサポートする。しかし大きな革新は、PC 上でそのプラットフォームが動作していないにもかかわらず、SuperPreview が Azure クラウドサービスと通信して Mac 上 の Safari による表示結果を提供することである。
SuperPreview はマウスカーソルをホバリングして特定の領域に関連付けられたコードを辿る機能をサポートする。
重要なのは1台のマシン上で仮想マシン無しでクロスブラウザの開発を行うことができるということだ。スタンドアロン版の SuperPreview が利用可能となる予定である。無償のベータ版はすぐに入手可能だ。
また Scott 氏は ASP.NET MVC 1.0 のリリース (参考記事)を発表した。主な機能には以下のものが含まれる。
- HTML マークアップの完全なコントロール
- SEO(検索エンジン最適化)向きの URL ルーティング
- テスト駆動開発ワークフロー
- 容易な拡張性
ASP.NET MVC 1.0 は本日出荷され、.NET 3.5 上で動作する。
Scott 氏は ASP.NET 4 および VS 2010 を発表した。Web フォームはビューステートと HTML マークアップ表示のより高度な制御を提供し、クライアントサイド ID をサポートし、データバインディングが改善される予定である。きれいな URL ルーティングも実装する。
jQuery のサポートを含む AJAX 、およびクライアントサイドでのデータバインディングの大きな改良が行われる。
分散キャッシュエンジンとして Velocity を利用し、中間層におけるデータのキャッシュをサポートする予定だ。
VS 2010 には例えば新しい JavaScript/AJAX/jQuery のツール利用や VS からの直接の SharePoint オーサリングに対応した多数の「コードに注目した」機能が見込まれる。
パブリッシングおよびデプロイメントは大きく改良され、ステージング、テスト、プロダクション用のサーバに対応する。各ステージ用に Web.config ファイルを定義できるようになる。また改良されたデータベースのデプロイメントもサポートされる。
新しい Web Server Extensions が提供される。これらは IIS 7 の設計の核となる部分である。それらの拡張には FTP サーバ、Web Dav 機能などが含まれ、全て無償で入手可能で、管理コンソールと統合されている。
また Microsoft は Web Platform Installer (リンク) (Web-PI) をリリースした。Web-PI には最新バージョンのツール、サーバ、データベースおよびフレームワークが含まれる。Web-PI は無償で入手可能である。
Scott 氏は Windows Web App Gallery を発表した。これは ASP.NET 用のアプリケーションストアである。即座にダウンロードしてデプロイ可能な無償のウェブアプリケーション(.NET および PHP の両方)を呼び物としている。必要なコンポーネントのデプロイメントもツールが管理する。全てのアプリケーションが無料で入手可能だ。
Scott 氏は Azure サービスプラットフォームについて言及し、今年中の商用リリースに向けて現在進行中であると述べた。
また Microsoft は BizSpark プログラムを発表している。このプログラムはスタートアップ向けに設計され、迅速な立ち上げと活動のために3年間無料で Microsoft のソフトウェアへのアクセスを提供する。
最近 StackOverflow.com(リンク) を設立した Jeff Atwood、Joel Spolsky 両氏がこのプログラムについて語った。彼らのウェブサイトは開発者があまり十分には文書化されていない一般的な問題を解決する手助けを行う。これはソーシャルネットワーキングサイト、すなわちユーザがより良い形で質問したり回答できるようなウィキである。開発者のための Wikipedia のようなものだ。
彼らは度々それが Ruby on Rails で構築されたものかどうかという問い合わせを受けている。無論そうではなく .NET で構築されており、すでに数台のサーバで下記のアクセスを支えている。
- 1日あたり 600,000 ページビュー
- 1日あたり 200,000 ユニークユーザ
彼らにとって検索エンジン最適化 (SEO) は非常に重要であり、きれいな URL によってのみそれが実現した。彼らのアーキテクチャの成功の主たる要因は以下のようなものである。
- ウェブ標準
- OpenID
- jQuery Ajax
- MVC によってきれいで検索可能な URL を使用できる(ASP.NET のルーティングで URL の見え方を完全に制御できる)。
メディア
続いて基調講演は18ヶ月前にローンチされた Silvelight に話題が進んだ。Silverlight 2 は6ヶ月前にリリースされた。これまでのところプラグインのインストールは3億5千万件、開発者およびデザイナは300,000人、パートナー企業は200社以上に及ぶ。今日では NBC、CBS、NetFlix 等を含む何万ものウェブサイトが Silverlight を利用している。
NetFlix のウェブエンジニアリング部門バイスプレジデント Kevin McEntee 氏は彼らの新しいプレイヤーのデモを行った。彼らは1千万人の顧客を抱え12,000件のオンライン動画を提供している。
彼らは古いプラグインを Silverlight で置き換えた。当初は Mac 上でのストリーミングをサポートするためであったが、彼らはプレイヤーをカスタマイズすることによってより利益が得られると気付いた。彼らはそのまま継続して常に高品質な接続に対応するプラグインを開発した。また Kevin 氏は Silverlight にコンテンツ保護が組み込まれたことについても指摘した。
なお、NetFlix プレイヤーはこれから2週間ごとにリリースされるが、ユーザは何もインストールする必要はない。
続いて Scott 氏は Silverlight 3 ベータ(リンク)のリリースを正式に発表した。Silverlight 3 は以下のような特徴がある。
- GPU ハードウェアアクセラレーション
- H.264、AAC、MPEG-4 対応の新しいコーデック
- RAW ビットストリームオーディオ/ビデオ API
- マネタイズのためのメディア分析用の改良されたロギング機能
また IIS Media Services と組み合わせることで以下の機能にも対応する。
- スムーズなオンデマンドのストリーミング
- スムーズな生放送のストリーミング(オリンピックで先駆けて行われる)
- エッジキャッシング
- Web プレイリスト
- ビットレート制御
- 高度なロギング
RIA
Silverlight 3 はリッチインターネットアプリケーションのための機能のホストも提供する。
- GPU アクセラレーションおよびハードウェアによる合成
- パースペクティブ 3D
- ビットマップピクセル API
- ピクセルシェーダ効果
- Deep Zoom の改良
アプリケーション開発に関して、ディープリンキング、ナビゲーションおよび SEO(リンクを経由したマネタイゼーションのための新しいナビゲーションおよびページのフレームワーク) といった新しい機能も提供する。
改善されたテキスト品質、マルチタッチ対応、そして 100 以上のコントロールが利用可能であることは言うまでもない。
また Scott 氏はクライアントとデザイナがウェブサイトのデザインについて協調して取り組むことを手助けする SketchFlow および SketchFlow プレイヤーを搭載した Expression Blend 3 のデモンストレーションを行った。
Expression Blend 3 は Adobe PhotoShop および Illustrator ファイルのインポート機能を提供する。またビヘイビアおよび生きたデータ(デザイナはそのためにもう Visual Studio を使う必要は無い)のほか、ソースコントロールもサポートする。また XAML、C# および VB コードのインテリセンスに対応する。
データに関しては、以下に対応する。
- データバインディングの改善
- 検証エラーのテンプレート
- サーバデータのプッシュの改善
- バイナリ XML によるネットワーク通信のサポート
- 多階層 REST データのサポート
また「Out of browser」シナリオをサポートし、メディアエクスペリエンスを拡大してウェブサイトの付随アプリケーションの開発を可能にする。また「軽量データスナッキング (data snacking)」アプリーケションも実現する。
Out-of-Browser 機能は以下をサポートする。
- シンプルでコンシューマに優しいエクスペリエンス
- 安全で、セキュアな、サンドボックス化された環境
- 組み込みの自動アップデート機能のサポート
- オフライン対応アプリケーションの構築
- さらに、基礎となるオペレーティングシステムとの統合
Microsoft はリッチな情報がますますつながるウェブにおける挑戦および好機に取り組むために大きな投資を行ってきている。ユーザエクスペリエンスおよび生産性をその製品ラインの主な成功の要因として見ている。