2009年春、Mary Poppendieck氏とTom Poppendieck氏に率いられたソフトウェアアジリストのグループが日本を訪れ、リーンの原則を長い間使っている場所で、どのようにこの原則を適用しているかを直接見学した。このような "Lean Japan Tours" は、1990年代から経営者や教育者たちによって行われており、リーンの格言である "Go to the Gemba" (仕事が行われている場所へ行く)に従っている。しかしながら、このツアーは、もともとソフトウェア開発に注目したものであり、最初にリーンが発展した製造業のプロセスとは全く違うと考えるアジリストもいる。このツアーの中には、Crisp.seのHenrik Kniberg氏、BestBrains.dkのSune Gynthersen氏とJesper Thaning氏、Yahoo.comのGabrielle Benefield氏が参加していた。"現場に行く"ことの目的は、観察して学習することであり、このツアーには、何を見て、何を学んだかを毎日見直すことが含まれていた。参加者たちは、このツアーで分かったことをブログに投稿した。以下は、参加者たちの中で、ブロガーやニュースグループのライターからの興味深い観察をまとめたものだ。
"Roots of Lean Study Tour"と呼ばれるこのツアーには、トヨタの製造工場を訪れることと、以下の人々に会うことが含まれていた。
- トヨタの自動車(組込)ソフトウェア部門のマネージャ
- 富士通アプリケーションズのCEO
- 日本のアジャイルコミュニティの代表者たち
- 永和システムマネジメントとアッズーリのアジャイルの先駆者たち
- LexusとSupraプログラムの元チーフエンジニア、片山氏
- トヨタの元ITマネージャ、黒岩氏
- 2009 Agile Alliance "Gordon Pask" awardの受賞者、平鍋健児氏と同僚たち
トヨタの自動車製造工場において、訪問者たちは、アジリティやリーンについて議論するときに例として引き合いに出されるプラクティスやメカニズムを直接観察した。カンバン、あんどん、ポカヨケ (ミスを防ぐ)、"stop the line" (ラインを止める)メカニズムなどだ。Gabrielle Benefield氏が、工場を訪問した後、コメントを述べた。
私はある非現実的な感覚を持っていましたが、その感覚はツアーの間に消え去りました。Kaizen(継続的改善)が実際にどのように行われているのかを理解するのは難しいことでした。オレンジと赤のライトが付きましたが、それは劇的に押し寄せるような出来事ではありませんでした。私たちが工場にいた間、すべてが動いているように物事は調整されているようでした。ここでは、1日に450台の自動車を製造できます。生産台数は経済の影響によって減っています。明らかに、この不振な次期を使って彼らは改善しています。従業員が自分たちの時間を使って改善をするかどうかは、従業員自身に任せられていると聞きました。これは私が以前に聞いていたこととは違っていました。
さらに、参加者たちが観察した興味深いコメントがある。
私は別のたとえを見つけました。ソフトウェアは工場です... ソフトウェアが工場の場合、入力として情報を受け取り、出力として情報を作り出す操作を実行します... このように考えると、私たちソフトウェア開発者は、広い意味で、工場を作る人です。私たちは、情報を処理する情報の工場を顧客に提供します。つまり、ソフトウェア設計は工場を設計する行為です。私はこのたとえを広げ、どの手法が工場を建てるために使われたかについてもっと見つけ出したいと思います...
-- Jesper Thaning氏 (2日目)
大日本印刷の工場見学ツアーにおいて、どのように数多くの日本の漫画が印刷されているのかを見ました。しかし、もっとも目立ったのは、工場内で視覚的な管理を行う文化がどれだけ広がっているかを見たことでした。工場に入るか入らないかというところで、壁に貼られた13メートル x 3メートルほどの掲示物が見えました... 大日本印刷を訪ねた後に、アッズーリに行き、アジャイル開発をどのように行っているのかを見学しました。アッズーリでは、開発者を小さなチームに組織化するのに、リーン生産方式からきたWork Cellという言葉を使っていました。使われている机は、ペアプログラミングを容易にするために選ばれたものでした。それではどのように? 机の脚が邪魔にならない位置にあるので、従業員は、近くのワークステーションに簡単に移動できました。
-- Sune Gynthersen氏 (4日目)
Agile Japanのミーティングに全員招待されました。私たちは、パネルディスカッションに参加し、アジャイルソフトウェア開発をどのように考えるかに注目しました...私が気付いたことは、開発範囲が決められたソフトウェアの契約が、驚くほど一般的になっていたことでした。それは、日本だけのことではありません。
-- Sune Gynthersen氏 (4日目)
興味深い点は、少なくとも、たいていの人々の定義によると、ある部分ではリーンであり、アジャイルではないことです。彼らは、"人" から "プロセス"への変化を示しました。これは、リーンコミュニティでずっと続いている議論であり、少しばかり複雑な部分です。優れたプロセスは月並みの人々を助けるでしょうか。または、壊れたプロセスを持つ優れた人々は、前進するでしょうか。彼らがシステムの問題として、人からプロセスへの変化に取り組んでいるのは興味深いことです。
-- Gabrielle Benefield氏 (1日目)
... アジャイル開発をしている会社は、ここ日本ではまったくの例外です。また興味深いことに、アジャイルの会社と従来の会社は両方とも、固定価格契約に基づいてソフトウェアを納品します。
-- Mary Poppendieck (Day 4)
Mattias Skarin氏は、 彼が現在の危機に対して西洋の会社が反応するだろうと考えたこととトヨタの反応が全く異なることに気付いた。Skarin氏はさらにメールで詳細を説明した。
収益を上げる問題解決アプローチを聞くと元気が出ます。ここに、チーフエンジニアとの会話からメモしたことがあります。
- 中間管理職から経費削減の目標を押し付ける代わりに、トヨタは、財務部を各部署からはずして、自分たちで改善できる部分を見つけるようにプロジェクトマネージャに手助けさせました。例えば、自動車の構築でコストのかかる部分を明らかにすることです。また、プロジェクトの残業時間も記録しました。
- また、どのプロジェクトが最有力候補となるかを明らかにしました。(明確な優先順位付け、集中) 言い換えれば、"全てのプロジェクトが重要だ"というわけではありません。
- "全力を尽くしなさい。私は10年前にそうしていたのだから"という管理職を排除 <- これらの管理職は現在の状況を分かっていません。
さらに視覚的なアプローチを知りたい人は、Henrik Kniberg氏が彼のメモから最近投稿したマインドマップ を参照できる。
どのようにリーンのやり方が日本文化から芽生えたかをみるのは興味深いだろう。(それとも、これは、逆に、リーンが一般的文化に浸透していく証拠だろうか?)
- Mary氏は、通勤する人たちが寝ている間に道路の小さな部分が完成している "リーン道路工事 で働く人たち" について書いた。
- Henrik氏は、どのように "Tokyo Disney Resort is Lean"(東京ディズニーリゾートはリーン)であるかに強い印象を受けた。
参加者たちは、自分たちの経験について、すでに様々なカンファレンスで発表している。このトピックに興味を持ったならば、来るべきリーンやアジャイルのソフトウェアカンファレンスで参加者たちの発表を聞く機会を探そう。今年の8月にはシカゴで Agile2009 が開催される。