Node.js はスタンドアロンの Javascript プログラム上でイベント駆動 I/O を実現するものだ。EventMachine や Python の Twisted,Grand Central Dispatch の Dispatch Sources + queue などのシステムにあるイベント駆動 I/O が,Node.js によって Javascript でも使用可能になる。
このプレゼンテーションでは,Node.js の背景にある設計上のアイデアと実装を議論する (PDF ファイルへのリンク)。基本的に Node.js では,次のようなコードを記述できる (被リンク側の場合)。
http.createServer( function (req,res) { res.sendHeader(200, {"Content-Type": "text/plain"}); res.sendBody("Hello\r\n"); res.sendBody("World\r\n"); res.finish(); }).listen(8000);
ここでは createServer
をコールして,ポート 8000 を listen するようにシステムをセットアップしている。接続要求が到着すると,パラメータとして渡した匿名関数が起動される。手作業でスレッドを起こしたり,接続要求をディスパッチしたりする必要はなく,Node.js がすべてを処理してくれる。
これは一例であって,その他数多くの I/O処理がコールバックとイベントによって読取,書込ともに処理できる。標準入力からの非ブロック読込も可能だ。
Node.js の API では,全体を通じてイベントの概念を採用している。すべてのシステムの全種類のイベントに対して,単に addListener
を使用するだけでリスナを登録することができる。例えば次のようなコードで,グローバルな process
オブジェクトから OS シグナルを listen することができる (プレゼンテーション側)。
process.addListener("SIGINT", function () { puts("good bye"); process.exit(0) } );
その他ライブラリには Promise オブジェクトを返すものもある。Promise オブジェクトは "success","error","cancel" というイベントのいずれかを発行する。次の例は Node.js API のドキュメントから引用したものだ。
var posix = require("posix"), sys = require("sys"); var promise = posix.unlink("/tmp/hello"); promise.addCallback(function () { sys.puts("successfully deleted /tmp/hello"); });
promise.addCallback
コールは,その Promise オブジェクトが "success" イベントを発行したときにコールされるようにリスナを登録する。上記の例では,API コールが成功終了したときにイベントが発行される。同じようなことは Promise オブジェクトの wait
あるいは timeout
コールでも実現できる。これらは無期限あるいはタイムアウトが発生するまで,呼び出し側の実行をブロックする処理である。
Node.js はこの Promise の概念を使って,実際に JavaScript コードをブロックすることなくブロックコールを実行可能にする。これらのコールがバックグラウンドスレッドで実行され,完了後に Promise がイベントを発行する仕組みだ。
Node.js は設計目標を達するために Google V8 を使用し,いくつかのライブラリをバンドルする。
- libev - イベントループを実装し,下位層に使用するテクノロジ (
select
,epoll
など) を抽象化する。 - libeio - スレッドプールを使用して,バックグラウンドでブロックコールを実行する。非ブロック型 DNS レゾリューションの実装である udns ライブラリも使用される (オペレーティングシステムの DNS レゾリューションが,ブロック型システムコールのみの場合があるため)。
- http-parser などプロトコル実装。
Node.js を使ったライブラリ が多数開発されている。すでにデータベースのバインド,BERT-RPC などのプロトコル実装などがある。
さらに HTML5 Web Worker API のサポート が検討されている。Web Worker を用いれば,JavaScript からタスクを実行する新たな Worker が起動可能になる。共有メモリスレッドとは違って,Web Worker は他の (あるいは生成した側の) メモリ空間を参照しない。コミュニケーションがメッセージパッシングによってのみ行われるなど,いくぶん Erlang のプロセスに似たところもある。
Node.js は Javascript ファイルを実行するプログラムと,Javascript を簡単にテスト実行できるシェル(REPL)を添付して配布されている。
さらに詳しい情報については, Simon Willson 氏が Node.js をカバーした記事 を書いている。この記事には Node.js ライブラリの使用例もいくつか提供されている。Redis (オンメモリデータベースシステム) へのアクセスや Web アプリケーション構築などがある。
Node.js によって Javascript は,GUIスクリプティング言語以上のものとして使用できるようになる。ただし Javascript から引き継いだ問題がひとつある。標準 Javascript ライブラリの欠如だ。Node.js にはライブラリが添付されているし,前述したサードパーティ製ライブラリも役に立つものだが,それでも Java や Ruby の標準ライブラリに見られるような機能には程遠い。Javascript がクライアントアプリケーションの記述言語として一般化してきているので,今後もっと汎用的でブラウザベースでないライブラリの登場を期待できるだろう。
Node.js を使ってみたいと思っただろうか? あなたなら何に使うだろう?