少なくとも2007年以来、アジャイルコミュニティにおいて、Chris Matts氏とOlav Maassen氏はリアルオプションについて語ってきた。リアルオプションとは金融オプション数学に基づく意思決定プロセスである。この考え方は完全に新しいものだというわけではない。Kent Beck氏はリアルオプションについて、1999年に出版された「白本」(Extreme Programming Explained)に書いている。現在、Matts氏とMaassen氏はアジャイルコミュニティの、特にリーン集団に向けて語っている。リーンとリアルオプションと題されたポストで提起されているのは彼らの経験に基づくもので、リアルオプションを採用することでリーン実装が改善されるという主張だ。他の人々も、リアルオプションによって付け加えられたものから同じように刺激を受けている。
投資銀行家であるMatts氏は、アジャイルがウォーターフォールよりもリスクが少ないということに気がついた。これはアジャイルに埋め込まれた選択肢によるものである。しかし、金融数学を用いてアジャイルプロジェクトの選択肢を測定しようとした時に、それが不可能であることがわかったのだ。しかし、シンプルなモデルを明らかにすることで、埋め込まれた選択肢を以前よりもうまく活用することができるようになった。リアルオプションモデルの3つのルールは以下の通りである。選択肢は価値を持つ 。選択肢には有効期限がある。理由が明らかでないなら、早期にコミットしてはならない。
リアルオプションを用いてMatts氏とMaassen氏がしているアドバイスは以下のようなものだ。それは、決定をできる限り遅延させること、情報を集めて選択肢を作り、それがいつ期限切れになるのかを理解することである。それによって意思決定を最適化し、誤った決定を行うリスクを最小限に抑えることができるのだ。リアルオプションをリーンソフトウェアに適用させることにより、以下の3点においてリーンが強化されると主張されている。
- リーンの原理である「最後に責任を負うべき瞬間まで決定を遅延させよ」は、リアルオプションの「理由が明らかでないなら、早期にコミットしてはならない」に置き換えられる。これによって、リスクと複雑さを低減しつつ、早期にコミットするための情報を探すようになる。
- リーンは「最後に責任を負うべき瞬間」まで遅延させることを主張するが、それがいつであるのかについてはあまり助けになっていない。リアルオプションにおいては、いつコミットメントが行われるべきかという条件が特定されており、不確定性が減少されている。
- リーンの原則をソフトウェア開発に適用したことで、著者たちはこれらの原則がソフトウェア開発に適用される時には、製造業とは違う形になることを経験した。彼らの例に従えば、顧客はトヨタ(リーンという概念の中核)から車を「引き出す」("pull")と言われている。しかし、ソフトウェア開発に対しては機能を「押し込む」のだ。著者らによる3つめの改善は機能の注入によって達成された。これはアジャイルの分析手法であり、リアルオプションとKolb氏の学習モデルに基礎を置いている。これは特定の価値を提供するのに最低限必要な機能を決定するというもので、複雑さを減少させる。
リーンソフトウェア開発の思想的リーダであるDavid Anderson氏は、以前ソフトウェア開発にリアルオプションを適用させることについて疑問を抱いていた。「企業としても職業としても、私たちがこれらのデータについて正しく価値評価できるほど成熟するには、まだ何年もかかる」というのだ(これらのデータとは、リアルオプションを算出するために必要なものを指している)。しかし、1年後には「リアルオプションが全てを変えた」という発言を引用されており、またこの概念は市場リスクのための優先順位付けとプラニングにおいて、氏の思想に影響を与えている。氏は現在では明確にこのアプローチを勧めている。InfoQのQCon サンフランシスコ 2009において氏が語った内容のアブストラクトによれば、「リーンはシステムを牽引し、リアルオプション理論はテクノロジープロジェクトにおけるあらゆるビジネスリスクを管理するための新しい方法を提供している」というのだ。
他の人々もこのテーマを取り上げている。Pascal Van Cauwenberghe氏(XPゲームの共同開発者)は、リアルオプションスペースゲームを制作した。これにはAgileCoach.netサイト上で使用する際の使用説明書が付けられている。
アジャイル、リーン、カンバン、リアルオプション、機能の注入とBDDの間にある関係と、その組み合わせにあらわれる可能性についてコミュニティが調べ始めるにつれ、勢いは強くなっている。
このトピックについていこうと興味を持つ人のためにOlav Maassen氏はメーリングリストを立ち上げ、リアルオプションについての議論を続ける場としている。
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