アジリティは、実にめずらしい場所で勢いを増している言葉だ。軍隊では、突然、真剣にアジリティ (大文字のAで始まるAgility) を取り上げている。軍隊は、アジリティを「変化にうまく対応する能力」と定義する。「指揮統制」(Command and Control)は、軍隊で普通に使われる言葉であり、一般的な使い方では「C2」と省略される。また、C2 Journalという指揮統制に関する定期刊行物がある。C2 Journalには、最近、アジリティに関する多くの記事が書かれている。
2010年3月に 米国防省のCommand and Control Research CenterからThe Agility Imperative (アジリティ命令) と題された「要約」が発表された。このドキュメントは、アジリティを安全と戦争に関連づけて述べている。驚いたことに、ソフトウェアアジリティに関係する言葉が明確に述べられていた。以下を考察しよう。
アジャイル実践者たちは、アジャイルをあまり実践していない人たちとは異なる方法で、アジャイルの世界や自分たちに割り当てられたタスクを理解し、それらに取り組んでいます。一般的に、アジャイル実践者たちの傾向として挙げられるのは、彼らが改善を求め、予想できる考えに反する情報を検討し、進んで人と異なることをして、リスクを負うことをいとわないことです。これらの基本的な特徴は、教育、訓練、文化などによって、高められたり、抑えられたりします。残念なことに、大企業であれ中小企業であれ、多くの企業において、アジリティを可能にする特徴は抑えられます。
C2 Research Centerのドキュメントは、人々について多くのことを語っている。例えば、
多くの場合、単にアジリティへの障害を取り除こうと集中することで生産的になります。好奇心の強い開かれた考え方によってアジリティは可能になり、独りよがりな閉じられた考え方は障害になります。
「指揮統制」対「アジャイル」の議論を明らかにしたい人たちは米国防省の Command and Control Research Centerのウェブサイトを参考にしよう。例えば、このサイトでは、軍隊用語でアジリティを定義するために書かれた資料をダウロードできる。ここで驚くことは、ソフトウェア開発のアジリティの記述とほぼ100%共通していることだ。明らかにソフトウェア開発と戦争は共通の複雑さを持つ。「The Agile Imperative」と題された要約によると、取り組むべき「Complex Endeavor」 (複雑な試み) があるところではどこでもアジリティがあてはまる。
これは知っているだろうか?
C2の情報、相互作用、決定
必要アジリティ
軍隊におけるアジリティの利用に当てはまる定義やコンセプトには、ソフトウェア開発の世界でも役に立つものがあるかもしれない。特に、ウォーターフォールのアプローチで組織化されている大規模なIT企業には当てはまるだろう。そのようなコンセプトの1つは、「必要アジリティ」だ。The Agility Imperativeという記事では、「必要アジリティ」をアジリティのバランスのとれた段階だと定義する。これは、資本分配のコンセプトであり、アジャイルと伝統的なアプローチを混ぜて扱う場合に、アジャイルの文献では一般的に議論されることはない。
アジリティはそれ自体が目的ではありません。そのため、アジリティは最大限に活用されるべき能力ではありません。アジャイルである能力 (アジリティの可能性) と変化に対する実際の反応 (明白なアジリティ) は両方ともコストがかかります。これらのコストは、挑戦というものによってのみ正当化されます。求められる適切なアジリティ、つまり必要アジリティとは、アジリティを達成した場合と、状況によりアジリティを利用しない結果によって得られるコストとのバランスがとれた段階です。その結果、無制限のアジリティではなく、必要アジリティを目的とすべきです。
もう一つの興味深い記事が、C2 Research CenterのウェブサイトにあるC2 Journalの中にあった。Agility, Focus, and Convergence: The Future of Command and Control (アジリティ、集中、収束: 指揮統制の未来) には、ソフトウェア開発のアジリティに直接当てはまるいくつかの点が挙げられている。
「統制」という言葉は適切ではありません。この言葉は、間違ったメッセージを与えます。この言葉は、複雑な状況を統制できることを意味します。右のレバーを押したり、ある行動をとったりして、問題を解決します。しかし、これは危険なほど単純化しすぎています。人ができる最善のことは、望ましくない結果よりも望ましい結果が得られるように改善する状況を作り出し、期待していることが起きていない場合にその状況を変えることです。「統制」は、実のところ、新しく生まれた特性であり、選ばれるべき選択肢ではありません。
このC2の記事は引き続き、「指揮統制」は軍隊でいろいろな意味のある言葉であり、理解と学習を制限することが述べられている。軍隊内部に影響力を持つ筆者は、この言語を変えようとしている。新しく提案された言語は、スクラムの価値 (フォーカス) と複合科学の専門用語を使う。
「Focus & Convergence」 (集中と収束) が「Command & Control」 (指揮統制) の代わりの言葉です。この言葉は、「指揮統制」の重要な局面をとらえ、指揮統制の予備知識や経験がない人でも簡単に理解できます。さらに、これらの言葉は、これらの目的を達成する方法に関する先入観を与えません。「指揮」の代わりの「集中」が直接示しているのは、「指揮」によって実行されることです。この場合、責任者、または、特定ラインの権力者が存在することは認識されません。同様に、「収束」は「統制」によって成し遂げることを直接示します。動詞の「統制」が可能だとか妥当だとか主張することはありません。「集中と収束」という組み合わされた言葉は、これら2つの機能の間に動的な相互作用があることを示します。
C2 Journalのアジリティに関するもう1つの記事は、Agile Networking in Command and Control (指揮統制のアジャイルネットワーク) だ。この記事は、「Agile C2」を現代の軍事作戦に組み込む方法に注目している。
Agile C2 ... とは、変化する作戦状況を調整し、管理する力を持つことです。
アジリティは効果的であるために、頑健さ、弾性、反応、順応性、革新、適応性などを含んでいると考えられます。アジリティに達するために、頑健なネットワークを使ったほとんど瞬時の情報共有が必要です。このネットワークは、「自己組織化した」社会的構造であり、高い反応性と素早いフィードバック、そして、原因と結果の関係を理解することから成り立っています。
プロジェクト管理において、私たちは従来のプロジェクト管理とアジャイルアプローチの優劣について議論する。ここで、軍隊は「アジャイルの指揮統制」という同様のことをしている。これは、私たちが「アジャイルプロジェクトマネジャ」と呼ぶものだ。特に、PMI-Agile Yahoo Group の熱い議論を踏まえ、これらの対比に注目するのは興味深い。ここでは、ウォーターフォールとアジャイルアプローチの両面を組み入れた「アジャイルプロジェクトマネジャ」の妥当性に関する議論が行われている。
軍隊は、従来のC2をアジリティと混ぜ合わせるこの原動力を直接研究している。The Agility Imperativeからの引用を検討しよう。
...さまざまな状況のもとで、アジャイルとアジャイルではない人たちを混ぜ合わせることの結果を理解することは重要です。この話題は、国防省と国際的なパートナー、そして、国防省CCRPによって現在調査されています。
軍隊のアジリティを扱う記事や新聞に興味のある人は、C2 Research Centerで検索でき、新聞やスライド、ウェブページなど従来のC2に関係するアジリティについて書かれたものをすぐに見つけられる。C2 Research Centerは、「指揮統制」に関係するアジリティについて、もっとも軍隊の考えが分かるウェブサイトだ。そして、アジリティと従来のアプローチの懸け橋となるものを求める人にとって、すばらしいリソースになるだろう。