Ryan Martens 氏のブログは,アジャイルチームが実行するような共同的・協調的な作業と,それが行われる物理的環境との関連性について語るために使用されている。もっと具体的に言えば,氏はスタンフォード d.School の行っている,作業環境と空間全般に関する研究に関与しているのだ。
アジャイルはその初期の段階から,風変わりな環境の必要性を強調していた - オープンスペースや部屋一面のホワイトボード,大きな視覚的チャート,さらにポップコーンマシンや冷蔵庫などがそれである。作業場所の管理責任者にとって,このような提案はしばしば受け入れ難いものだった。Martens 氏は次のように指摘している (強調文字は氏による)。
アジャイルチームとそのメンバにとって,作業室における調度品のイノベーションは真に重要なものでした。革新的文化を生み出すには相応の環境が必要なのです。
さらに,
共同作業の速さを極めた結果,彼らは 自分たちのチームの作業場やミーティング室に取り入れたい,と誰もが思うほどすばらしい作業環境デザインに到達しました。しかし残念なことに,これらを購入することはできません - 自身で作り上げなければならないのです。
Stanford d.School は David kelly 氏 (長く IDEO に在籍し,デザイン思考に関する書籍の著者である) の指揮のもとで,次のような成果を上げている。
- スタッカブルフォームキューブ (Stackable foam cubes,別名:角砂糖)。壁や椅子などの作業スペースをすばやく構築したり,変更したりできる。
- 即席壁システム (rapid wall systems)。大きなスペースの分割に使用する。
- 積み上げと移動が可能なホワイトボード。フリップチャート用のフック,プロジェクタ用スクリーンなどのアイテムが組み込まれている。
- モバイルコラボレーションのためのポータブルなホワイトボードシステム。
これらクールな要素の背景には,空間が人のコミュニケーションや作業にどれほど影響するか,という重要な問題がある。この種の問題のいくつかは,建築学や人類学,知識管理,あるいは哲学といった分野では古くから意識されていた - そして現在,ビジネスやソフトウェア開発の世界でも重要な問題になっているのだ。
Marten 氏はアジャイルの作業スペースと環境を考える上での基盤として,'場' の概念の重要性について言及している。この文脈における場の議論は Cyberartsweb.org に見られる。
実存主義の理論によれば,場とはある種の意味を秘めたコンテキストです。すなわち場は,知識創造の基盤として機能する共有空間である,と見ることができるのです ... Nonaka 氏によると "場" は,新たな関係のための共有空間であるとも考えられます。この空間は物理的(オフィスや分散したビジネススペースなど),仮想的(電子メールや遠隔会議),精神的(経験やアイデア,理想の共有),あるいはそれらを任意に組み合わせたものです。場は,個々あるいは集団の知を発展させるためのプラットフォームを提供するのです。
場には4つのタイプがあると考えられる。すなわち創造の場,影響の場,仮想(cyber)の場,そして実践の場,である。
アジャイルプラクティスの背景にある基礎概念は何か,そして革新性を売り込もうとする輩によってそれがいかに悪用されているか。それらを見出すためには,いかなるアジャイルプラクティス - 今回の場合はアジャイルチームの作業スペースと調度品のデザイン - でも試す価値がある,と Martens 氏のブログは指摘する。