OOPカンファレンス (Object Oriented Programming)が、「変化を極めることを通じてのビジネス・インパクト」を全体を通じたメッセージとして、2011年1月24日から28日にわたってドイツのミュンヘンで開催された。その名前に反して、OOPは、ソフトウェア・エンジニアリングの全般的な領域に関する最大かつ、もっとも長く続いているイベントの一つである。
本年は、カンファレンスとその議長であるFrances Paulisch博士が20周年を祝うことになっており、主催者は多くの国際的に著名な講演者を招待することが可能となった。
カンファレンスはソフトウェア・エンジニアリングのほぼ全ての領域をカバーしているが、クラウドコンピューティングやSOA、ソフトウェア・アーキテクチャ、大規模にスケールするシステム開発、マルチコアシステム向けの開発、モバイルアプリケーションなどが主要なトピックスだ。おもしろいことに、もっとも参加者を集めた5つの講演はすべて、複雑性やソフトウェアアーキテクチャの未来、フレームワーク、設計上の戦術などのソフトウェア・アーキテクチャを取り上げたものだった。
Tom DeMarco氏などの著名な講演者によって執り行われた基調講演は、OOP2011のハイライトであり、多くのフィードバックや、Tweetが寄せられている。このニュース記事では、その中のいくつかを詳細に取り上げる。
GoF本の著者の一人であるErich Gamma氏は、ソフトウェアパターンの過去、現在、未来を取り上げた。氏はパターンが今や常識になったことを強調した。氏の主張を証明するために、Erich氏はパターンを利用している利用可能な大量の文献やプロフェッショナル・プラットフォーム、Eclipseのようなアプリケーションを参照した。Erich氏によると、将来、現在のパターンは変化もしくは消えていくことになり、新しいパターンが現れるとのことだ。もし書き直されるなら、最初に書かれたデザインパターン本の新版はどのようになるかというアイデアを提示した。
Martin Fowler氏は、2部構成の基調講演の中でドメイン・スペシフィック・ランゲージ(DSL)とアジャイル開発を取り上げた。Martin氏は、DSLは強力は強力なツールなのだが、開発者がパーサとレクサを開発することに怖じ気づいてDSLを利用することがないと説明した。しかしながら、内部DSLはホスト言語の文法を利用して記述することが可能であり、外部DSLはパーサとレクサを必要とするものの、Martin氏によれば、汎用的な言語のものに比べれば非常に単純だとのことだ。エンジニアはDSLを定義する際に意味論的なメタモデルを考え出すべきだと繰り返し強調した。2つめのパートでは、Martin氏はアジャイル開発の歴史と、なぜアジャイル・マニフェストが頻繁に誤解されるのかを紹介した。たとえば、「計画に従うよりも、変化への対応を」のような価値は、計画に従うことが悪いことだという意味ではないと、氏は指摘した。
Tom DeMarco氏は、「協同設計の要請」という講演のなかで、人間の脳は、限られた量の情報しか扱えないと述べた。見積もりをしたところ、人間の記憶の容量はたかだか1GバイトだとTom氏は結論づけた。1960年代には、ソフトウェアエンジニアはITのほぼ全ての側面の知識を知っておくことができたが、今日では個人の扱える範囲を知識のレベルがはるかに超えている。したがって、複雑なシステム開発には、複数の人間の協同作業が必要だとTom氏は述べた。協同作業のもっとも重要な手段としてのコミュニケーションは、設計の不安定さを改善するために常に必要だ。しかしながらコミュニケーションだけでも不十分だ。信頼を得ること、与えることが重要だ。「信頼はコミュニケーションの帯域幅だ」。
ベストセラー書籍イノベーションの神話の著者であるScott Berkun氏は、氏の著作の名前をつけた基調講演をおこなった。 Scott氏の説明によると、大半のイノベーションは短期の時間軸では起こらない。「ひらめきの神話」によると、最初のアイデアはすぐにやってくるのだが、アイデアからイノベーションを作り上げるのに非常に多くの時間がかかるのだ。この文脈では、検証作業は重要な手段である。「我々はイノベーションの歴史を理解している」のなかで、Scott氏は、なぜイノベーションには、アイデアの概念領域を探求する必要があり、リスクをとる必要があるのかを動機付けした。「あなたがイノベーションを起こしたときに人々はそれを好きになる」という3つめの神話をつかって、イノベーションが他人にとって危険なものと見えることもあり、したがって社会学や心理学を考慮にいれなければならないとScott氏は説明しようと試みた。
Kevlin Henney氏は、「プログラマが知るべき97のこと」の寄稿の中から17個を選び、氏の基調講演を構成した。氏が述べた一つの例は、「コードで伝えきれないことだけコメントしろ」というもので、コードを読むことで簡単に理解できるコードの内容に対して、わざわざコメントをつけていることが頻繁に見られることに対して問題提起している。ガイドラインが示すように、実装に由来しないことに対してのみコメントを記述するべきだ。よいコードはコメントが少ないものであるべきであり、レビューアはコメントの量が多すぎる場合には常に疑いを持つべきであると、Kevlin氏は考えている。
SIGS-DATACOMの主催者によると、このイベントには、2000人の参加者が登録され、この数字は昨年から21%増加している。OOPは来年、2012年1月23日から27日にかけてミュンヘンで開催される。