2010年度ACMチューリング賞の受賞者に、Leslie G. Valiant氏が指名された。この受賞は、Valiant氏の計算論的学習理論に関する研究と、コンピュータ科学のより幅広い理論への貢献によるものだ。Valiant氏は、ハーバード大学の工学科と応用科学科において、コンピュータ科学と応用数学を教えている。過去30年に渡るValiant氏の研究はシステムの創造の基礎となるものであり、IBMのWatsonや学習能力を持つ他の様々なコンピュータを生み出している。
Valiant氏の主な貢献の1つは、PACモデル(“probably approximately correct”)だ。このモデルは、Eメールのメッセージをスパムとみなすべきかどうかを決定するような情報の分類を可能にする。このために、学習アルゴリズムは過去から経験を取り出し、決定の土台として確率に基づく仮説を立てる。しかしながら、過去からの一般化は、一般化しすぎると、将来、適切に働かない可能性がある。PACモデルを使う場合は、「近似的に正しい(“approximately correct”)」とみなして、一般化のエラーを最小化できる。この学習モデルも、機械学習、人口知能、そして、自然言語処理、手書き文字認識、コンピュータビジョンなどの演算実行の多くの分野に大きな影響を与えた。
ACM委員会のコメントによると、
計算の複雑性へのもう1つの重要な貢献は、Valiant氏の代数的計算理論です。Valiant氏は、どの代数公式が効率的に評価されるかを理解するためのフレームワークを確立しました。
さらに、Valiant氏は、パラレルコンピューティングや分散コンピューティングと同様に、複雑性理論に対して大きな貢献をした。
ここ数年、Valiant氏は、計算論的神経科学の研究にも貢献してきた。脳の数学モデルを発展させ、複雑な認知機能を用いてそのアーキテクチャを関連付けたのだ。研究結果は、Circuits of the Mindという本で公開されている。
委員会は、結論において、次のように指摘した。
Valiant氏の研究のように、驚くほど深く、そして、広く研究されることはめったにありません。Valiant氏は、理論コンピュータ科学の真の英雄であり、勇気のロールモデルです。そして、科学の最も深い未解決の問題に取り組む創造性を持っています。