先頃 Google の開発者支援 (Developer Advocate) 業務に加わった Tim Bray 氏が Seattle Android Developers グループ で,Android のエコシステムに関する自身の見解を披露した。(6カ月前に Google Developer Days で行った同様のプレゼンテーションが こちらに公開されている。) 氏が強調したのは,Android が Google にとって重要な投資事業であることだ。その最大の理由はユーザ数にある – PC の約4倍,40億のユーザを抱えるモバイルプラットフォームは,史上最大の技術プラットフォームであり,開発途上国でのプレゼンスが極めて大きい。スマートフォンの成長速度が前代未聞のものである点も重要だろう。AOL や Netscape のユーザ数が当初5年間で 5,000 万であったのに対して,iOS のユーザ数は5年足らずで2億に達している。しかも Android 自身の成長は iOS よりも速いのだ。
プレゼンテーションの第1部では,モバイル開発者のビジネスモデルに焦点が当てられた。氏の説明によると,目にする数字は大きくても,大部分の開発者はモバイルアプリ販売で十分な利益を上げられていない。よりよい方法はアプリケーションのアップグレードである,というのが氏の意見だ。
もうひとつ,ビジネスモデルを問わず重要な要素として挙げられるのが "アプリ内広告(in-app advertising)" だ。Google では,開発者のコンソールからワンクリックで admob の広告をセットアップできるエントリを用意して,アプリと広告との統合強化を計っている。
既存の顧客から利益を引き出すことができるという意味において,氏が "アプリ内広告" を,アプリのもっとも重要な収入源のひとつと考えていることは間違いないようだ。
さらにもうひとつ,見落としがちなビジネスモデルが "サーバ側での収益 (server side revenue)" である。web アプリのサブスクリプションに収益性を持つモバイルコンポーネントを加えた成功例として,"tripit" と "37 signals" という2つのアプリが紹介された。
また DCB (Direct Carrier Billing,キャリアによる直接決済) については,アプリやアプリ内での売上高を可能な限り早く倍増させるための重要な成長因子である,と強調した。Google は世界中すべての主要キャリアと,課金システム統合に関して提携している。この場合,Android マーケット経由で購入することに変わりはないが,支払は顧客の電話料金請求書に掲載される。
その他として氏は,モバイルデバイスが開発途上国において重要な経済主体であること,自国の裕福な20代の若者たちを相手とするアプリケーション開発が,モバイルビジネス成長の上では必ずしも最短な方法とは限らないこと,などを示唆した。
これまでに 45 億のアプリケーションが Android マーケットからインストールされている。最大のマーケットは米国,日本,韓国である。
プレゼンテーションの第2部では,今月のリリースとそれ以降に予定される Android の新機能が話題の中心になった。最初に氏は,数ヶ月ほど前に巻き起こった 最新の論争を取り上げ,Android は "オープン" である,という立場を繰り返し強調した。
Google は先日,異なる解像度やマーケットセグメントをサポートするために,Android マーケットで 複数の APK をサポートすると発表している。
氏は Honeycomb を巡るバージョン分岐を正当化すべく,"タブレットは携帯電話ではない,タブレットはほとんどランドスケープモードで使用されるものだ" と主張した。タブレットの方がバッテリ持続時間が長いし,それから,... ピクセル数も多い,と。
さらに氏は,Android に最近追加された機能を紹介した – アクションバー,システムバー,そしてアプリとシステムの通知機能である。通知機能は先日追加されたもので,Apple も iOS5 で刷新している。
氏は "フラグメント (Fragment)" を,クールなアプリを開発するための最大の新機能と考えているようだ。フラグメントはアクティビティにおける特定の動作や,ユーザインターフェースの一部分を表すもので,複数のアクティビティで再利用することができる。フラグメントはアクティビティの中で自身のライフサイクルを持ち,必要に応じて追加削除が可能で,開発者にとってはややトリッキーな面もある。バージョン1.6以降で利用可能なこともフラグメントの便利な点だ。
Google は昨日,UI ビルダのメジャーアップデートもポストしている。以前のバージョンに比較すると,UI のレンダリングがかなり改善されているようだ。
その他としては,USB とホスト API のサポート改良に関する説明があった。
Google は "大型アプリ (big apps)" (サイズ 4Gb まで) のサポートを6月から開始する予定である。コードと大規模なアセットが,50 Mb のアプリパッケージと 2Gb の追加アーカイブ2つという,別々のアーカイブで公開される。Android マーケットでは,このような "大型アプリ" のインストールとアップグレードのホスティングを提供する予定である。
Web 対ネイティブの論争についても簡単に触れて,"Tripit" アプリを例に挙げ,ネイティブ版の方が好みであると語った。 携帯電話のすべての機能を活用できるのがネイティブアプリだけだという理由から,氏自身はネイティブアプリを多数使用している。大部分のモバイル開発会社が複数のプラットフォームを手掛けている現在,"Web アプリ" にとっての最大のチャンスは Windows Mobile が立ち上がる時だ,と氏は説明する。3つの異なるプラットフォームで開発を継続することは,ほとんどのチームにとって難しいことだろう,という考えからだ。
一部聴衆からあった Java 以外の言語サポートに関する質問に対しては,フレームワークが重要であることを改めて強調していた。
氏の意見について,あなたはどう思うだろう? クロスプラットフォームなモバイル開発者を目指すだろうか? Android でクールだと,あなたが思う機能は何だろう? 氏は自身の役割について,Google にフィードバックをもたらすことだ,と強調している。