アジャイルマニュフェストは最初の声明で“プロセスやツールよりも個人と対話”に価値を置いている。最近になってアジャイルコミュニティではこれが議論の的になっている。
Jeff Langr氏とTim Ottinger氏はPragPubマガジンの9月号のThe Only Agile Tools You’ll Ever Needという記事で下記にように書いている。
アジャイルの価値と原則は“ツールを使わない”と言っているわけではないということを指摘しなければなりません。ツールについて考える前に“個人と対話”を重視しなければならないと言っているのです。引用したこの2つの原則によって、私たちはチームが密に連携して継続的に会話し続けてほしいという気持ちを再認識するのです。
彼らはツールを使うことのコストを論じた後、下記にように結論を下した。
ツールの条件は、
- チームを支援し(それゆえ、開発とテストツールが重要になる)、
- チームに余計な負担を与えず、
- リーダシップやマネジメントの代理にはならず、
- チームを支援するための強制力と直接性を提供し、
- チームを駆動するのではなく支援するための適切な役割を担う。
Ken Schwaber氏はブログTelling it Like it Isで、Visual Studio 2011におけるMicrosoftの個人に対する理解に対して疑問を投げかけている。
多くの組織はアジャイルの自己組織化の側面を導入できていません。まだ決まりきった作業をする、トップダウンの組織のままなのです。このような組織のかたちを支援するツールでなければ売るのは難しいです。しかし、形式は組織のかたちに従います。このままトップダウン型の開発モデルをスクラムのツールで覆いながら仕事をすれば、私たちソフトウエア開発者は創造的で洗練された製品に対する需要増加に苦しむでしょう。
自己組織化がないスクラムはデスマーチです。しかも、反復的で漸進的な厳しいデスマーチなのです。
近頃出版されたAgile ALMの著者であるMichael Huettermann氏はJava.netの記事で個人もツールも重要だと書いている。
Agile ALMはその背後にある価値や人々、コンセプトと共に行われるべきです。Agile ALMツールはアジャイルのプロセスを育てるためのALMツールです。Agile ALMツールはシステムに価値を与え、利害関係者の協力関係を強化しなければなりません。
James McKay氏は違う見方をしている。氏はブログで ツーリは重要だが、良いソフトウエア開発者はツールよりも自分自身の開発プロセスに注力すると言う。
“プロセスやツールよりも個人と対話”というアジャイルのスローガンを真剣に考えているのなら、GitHubは開発者に的を絞っていないプロジェクトの方が支配的になるはずです。しかし、実際はプログラミングのためのプログラムが支配的です。
多くの開発者は内向的で、人と話すよりコードを書くことに時間を費やしているのは明らかです。しかし、本当に便利なものを作りたいのなら、コンピュータの前から離れて、何か他の趣味や興味が湧くことを作り、人と話ことに時間を費やす方がいいでしょう。こういうところから便利なソフトウエアが生まれるのです。
Ricki Sickenger氏はブログSyntax Meditationでアジャイル自体はプロセスとツールセットでできていると主張する。
TDD、XP、スクラム、カンバン(その他)はすべてプロセスとツールです。これらの提案者はこれらのプロセスに従うことを求めています。アジャイルがうまくいかないのは、そのプロセスに従っていないからです。
続けて、
アジャイルは素晴らしいです。スクラムやTDD、XPのような方法論も概念を具現化するための良い道具です。しかし、このような方法論は悪いチームはどんな方法を採用しても失敗するという根本的な問題は解決しません。
Mike Pearce氏はチームの視点からブログを書いている。
…プロセス自体はプロセスを使う人、作る人に比べれば重要ではありません。ツールも開発を支援するツールを作ったり、使ったりする、ともに働く人々に比べれば重要ではありません。プロセスがあるのは重要ですが、あなたが作ったプロセスを使い、ニーズに適用させてアジャイルの原則を実現しようとしているあなたの組織の人々に比べれば重要ではありません。ツールがあるのは重要ですが、正しいツールでなければ意味がありませんし、そうであってもそのツールを何のためにどうやって使うかということの方が重要です。
アジャイルマニュフェストはプロセスとツールに価値を置いているが、個人と対話にはさらに価値を置いている。氏は下記のように結論する。
良い人を雇い、彼ら自身の道を進むのがいいのです。
アジャイルマニュフェストから10年経つが、議論はまだ続いている。プロセスやツールに価値を置くべきか、もしそうであれば、個人や対話の価値を損ねてしまっていいのだろうか。