以前からプロダクトオーナ (product owner) の中には,2つの項目にそれぞれ単独で期待できる経済的利益を1対1比較することによって,バックログの優先順位を設定しているものがあった。これに対して成功を収めたアジャイルチームには,リスクや依存関係,さらにバックログ項目間の複雑な相互作用を考慮した,全体論的なアプローチの採用がしばしば見受けられる。
James O. Coplien 氏が Scrum Alliance サイトに掲載した記事 は 2011 年 8 月 3 日の公開にも関わらず,現在でもコメントが寄せられている。プロダクトバックログへの優先順位付け (prioritization),あるいは氏の説明では順序付け (ordering),に関連する Scrum Guide の改訂 を取り上げた記事である。
リストに優先順位を付ける,ということは,リストの項目それぞれが持つ相対的重要度に従って順序付けを行う,という意味です。優先順位には,リスト上の項目の1対1比較 (pair-wise comparison / 英語の Priority の定義) が伴います。バブルソートによるプロダクトバックログの優先順位付けを考えてみてください。2つの項目を比較する,順序が正しくなければ入れ替える,次のペアに移動する,というサイクルが,すべてを適切な場所に収めるまで続けられます。つまり,優先順位付けとソートは連携しているのです。比較はすべて局所的に行われます。局所的な最適化に似たプロセスです。
より広範囲に見ると,スクラムチームとプロダクトオーナが PBI を順序付けする場合,その価値あるいは ROI を最適化するために,特にバックログ全体の考慮が必要です。大部分の人が優先度として普通に思い浮かべるのは ROI です。ただし各項目の ROI の単なる総和ではなく,バックログ順序付け全体での長期的成果として ROI を考える必要があります。項目それぞれの ROI がそのバックログでの位置に依存する,という面において,これは事実です。
アジャイルトレーナでコンサルタントの Arlen Bankston 氏はさらに,ROI への直接的寄与を越えた部分で各項目を見ることが必要だ,と説明する。
個々のストーリの価値は -- 特に新製品開発の初期段階では -- ROI への直接的貢献度よりも,機能適合性に関して提供するフィードバックや,市場あるいは顧客ニーズへの適合性に見出されることがよくあります。個々のストーリを単純に1対1で比較するのは,あまりにも狭いアプローチであると言えます。収益の創出に加えて,製品とその顧客発見のパターン全般を考慮することが必要なのです。
これ以外にもアジャイルコミュニティでは,順序付けというテーマに関してさまざまな方法が使用されてきた。数年前に Roland Cuellar 氏と会話した際に氏は, 市場提供のシーケンス (sequence) という用語のほうが適切だ,と主張していた。ここで言うシーケンスにはビジネスと技術の他,リスクや依存性などの要因も組み合わせられる。シーケンスという言葉の使用は,すべてのものが高優先度である,と主張する意見を克服してプロダクト管理を行うために有益である。すべてが高優先度であったとしても,次に選択する項目を決定しなければならないのだ。
順序,優先順位,あるいはシーケンス。呼び方はどうであれ,実践的なプロダクトオーナはバックログを総体として把握する。各項目の即時的な価値と長期的な価値の最大化を,いずれも確実に達成するためだ。
この方面において,読者諸氏はどのような体験をお持ちだろうか?