これまで一連の記事で最近開催された Stoos Gatheringというイベントやそこから生まれた Stoos Networkについて報じた。Stoos Networkの目的は組織のマネジメント変化を促すことで、ソフトウエア開発におけるアジャイルムーブメントやに影響を受けている。 Radical Management、 Management 3.0、 Leadership in a Wiki World、The Leader's Dilemmaといった書籍が提示した先進的なマネジメントの実践に影響を受けている。
このイベントの参加者や主催者に対するビデオインタビューがたくさんあり、Stoos networkに対する彼らのモチベーションや希望などが語られている。インタビューをしたのはSteve Denning, Franz Röösli氏、Jurgen Appelo氏、Jay Cross氏、Peter Stevens氏、Deborah Preuss氏とJonas Vonlanthen氏、Rod Collins氏だ。
インタビューの共通テーマは持続可能で利益が生み出す幸せな組織を作ることで顧客が喜び、働く人が幸せになる楽しいビジネス環境を生み出すため、必要なマネジメント手法についてだ。
InfoQのShane HastieはRoy Osherove氏(twitterアカウントは@royosherove)、このイベントの主催者でありThe Leader’s Dilemmaの共著者でもあるFranz Röösli氏に話を聞いた。
彼らはこのイベントや参加した動機、このイベントの成果に対する期待などを話してくれた。
InfoQ: 簡単に自己紹介をお願いします。
Roy: 私は'the art of unit testing' (http://ArtOfUnitTesting.com)の著者であり、 http://5whys.comでブログを書いています。今は、"ソフトウエアリーダーのための覚書"という本を書いている最中です。私はソフトウエア開発のチームとリーダーシップについての基本的な仕事をしています。リーダーシップについてはミドルマネジメントと呼ぶ人もいます。私は "手を汚す人"と呼んでいますが。
Franz: 私はノースウエスタンスイス応用科学大学で研究者、講師、マネジメントトレーナーとして働いています。また、Beyond Budgeting Round Table(http://bbrt.org/)のディレクターを務めています。2011年にはBeyond Budgeting Round Tableの同僚とThe Leader’s Dilemmaという本を出しました。
お二人の観点からStoosのイベントを簡単に説明してください。
Roy: このイベントは'新しいリーダーシップ'という概念に対する異なる立場や視点のための共通の土台を作成する試みです。
Franz: 今年の初めての週末のStoosには偶然にも様々な人が集まり、それぞれが4人の創立者の個人的な人脈と関わっていました。
この多様な人々の集まりが持っている考えは、組織を率いたり管理したりする方法を変えることに対して深いニーズがあるということです。
InfoQ: なぜこのイベントに参加したのですか。
Roy:このイベントは、私が格闘しているミドルマネジメントの問題について、何らかの知見を得られるものになるだろうと感じました。私が信じているのはひとつの動きが同じゴールに向かう思考の流れに合流していくということです。
Franz: 私は偶然にもSteve Denning、Jurgen Appelo、Peter Stevensと共に創立者のひとりになりました。
InfoQ: イベント自体はどのように生まれたのですか。
Roy: 口コミとメールで情報が広がりました。それでオープンなイベントとして開催されました。手作りのイベントという感じです。
Franz: 第一部の3分の1くらいは自己紹介に費やして互いに理解を深め、信頼を醸成するのに務めました。そして、オープンスペースやワールドカフェの要素を取り入れて、限られた時間の中でグループが最高の知性を発揮できるようにする自己組織的なイベントになりました。
InfoQ: イベントに相応しい人が集まりましたか。
Roy: 誰であれ来た人は来るべき人でしたよ。イベントに参加するのは簡単ではありませんでした(私は会場のビルに入るため文字通り吹雪と戦いました)し、費用も馬鹿になりません。本当に参加したいと思わなければ参加できません。
Franz: 緊張感のある討論がたくさん行われました。様々な意見が出ましたし、それぞれの背景も多様でしたが、議論には信頼感があり口先だけの教条的な意見を言う人はいませんでした。しかし、今回のイベントとは違う人たちが集まったとしても、それはそれで相応しい人々の集まりになったと思います。このイベントに参加するのに相応しい人の組み合わせがたったひとつだけあるということではありませんから。
InfoQ: Stoos Networkとマネジメントに関する他の活動の関係はどのように考えていますか。互いにほめ讃えるような関係になるのか、それとも両者は矛盾しているのか、または全く無関係なのでしょうか。
Roy: 私はマネジメントやリーダーシップに対する考え方の転換を促進することに望みを託しています。リーダーシップが上手く機能しないことについての個々人の頭の中にある考えを"教諭の知識"という別の概念に入れて、この共有の知識を"全員が知っているということを全員が知っている"状態、そして共有の知識を "全員が知っているということを他の人たちも知っている、ということを全員が知っている"状態を目指しています。
知識を共有することが変革への第一歩です。そして共有された知識が個々人の知識になることが目標です。
Franz: マネジメント関連の他の活動とは互いに尊敬できる関係でありたいです。また、競争や自画自賛にエネルギーを使わず、協力し合うことが重要だと思います。また、マネジメント関連の他の活動に関わる人とは接触を持とうとしていました。イベントにもかなりの人数を招待しました。Stoos Networkのメンバにはすでに他の活動に関わっている人もいます。他の活動と接触してネットワークを広げるのはStoos Networkの目的でもあります。互いに影響し合えばより優れた成果が生まれます。
InfoQ: このイベントから得られたことを具体的に教えてください。
Roy: 多くのことを学べました。私より優れた人が、リーダーシップのトレーニングや方向性が上手く機能していないと思っていることがわかりました。
Franz: イベントの後も継続的に活動しています。特にソーシャルメディアでこのイベントに興味を持った人を巻き込んで議論を続けています。なので、イベントの終わりは議論の始まりなのです。意見の交換やこのようなインタービューなどもイベントから生まれたものです。また、イベントに参加した人が多くの他のグループで活動するでしょう。私の考えではこのイベントは、ソーシャルメディアや個人的な議論を通じて様々な活動を生み出すためのインキュベータなのだと思います。
InfoQ: このStoos Networkの編成の結果、どのような変化が生まれることを期待しますか。
Roy:マネージャには"自分は一人じゃない"と感じてほしいです。自分の考えがおかしいのではなく、同じような考えを持っている人がたくさんいることに気付いてほしいです。思い通りにならないことがあったり、人々を動かす方法がわからなかったりするのは自分だけではないということを知ってもらいたいです。
自分のしていることに無力感を感じているリーダーには、そこで立ち止まって自分を責めるのではなく、どこのマネージャも毎日無力感を感じているということに気付いてほしいです。だれもリーダーやマネージャになる方法を教えてくれないのですから。
そして、より良いリーダーになりたい人のための動きが世界的に広まっていることを感じてほしいと思います。
Franz: Stoos Networkのウェブページのモットーは‘転換点を準備する’です。これこそが私の期待でもあります。このイベントと後続する活動が従来のマネジメントを変えるための動きを支援できるのなら、大きな意義があると思います。個人的には、取り組まなければならないのは考え方の転換だと思います。考えの奥深くにある仮定を変えなければなりません。つまり思考のパラダイムシフトです。端的に言えば、モノ(機械やお金)に対する機械的なマネジメントからヒト(働く人々、組織や人の性質)の世話役としてマネジメントを行うことです(ここで紹介した言葉はJ. Bragdonの‘Profit for Life’から借用しました)。つまり、モノを道具として扱い(今のマネジメントではモノが目的になっています。例えば株主価値です)、ヒトを目的にするのです。このように考え方を変えることで、組織は組織自体の設計やリーダーシップに対して今までとは違う視点を得るでしょう。今までとは異なる目標を持つからです。この活動を通じてこのような変化が起こることを心から望んでいます。
InfoQ: Stoos宣言はかなり自由な内容になっていると思います。効率良く変化を起こすにはどうすればいいのでしょうか。
Roy: 私にはまだわかりません。個々人の活動が何よりも強力であるということに気付いてもらうことが第一歩だと思います。正しい方向への一歩は、自分自身について学び、そして、目的に向かってリーダーシップを発揮するためのより良い方法についての学習を始めることです。
個人的には、まずはより優れたリーダーになるための学習をすることが第一歩だと思います。
私は私の経験上上手くいったことを実践したり教えたりすることから始めました。そして、その内容を http://5whys.comのブログにも書いています。IT関連の仕事に従事する人の多くがリーダーシップの基本的な構成要件を見失っているので、ブログに記録するのは役に立つと思います 。また、自分の経験をブログに書くというプロセス自体から学ぶことも多いです。
Franz: 重要なのはこの宣言のアイディアに興味を持ったすべての人が自身の活動を始めることです。ソーシャルメディアを通じて活動してもいいでしょうし、個人的に活動してもいいでしょう。そうすれば雪だるま式の効果が生まれます。Stoos Networkのグループが活動を公式に組織化してくれるのを待つ必要はありません。自分でアクションを起こし、活動のネットワークに繋がってください。活動とコミュニティを成長させるには自己責任と自己組織化が重要です。
InfoQ: 将来はStoos Networkはどのように運営されるのでしょうか。
Roy: わかりません。情報を共有して様々な考えを持つ人が集まり、難しい問題に対して議論する場になるのかもしれません。
Franz: Stoos Networkは複雑で自己組織化されたシステムだと考えられると思います。このようなシステムは将来どのようになるのか正確にはわからないのが自然です。私としてはStoos Networkが引き金と鳴って様々グループやコミュニティやイベントが生まれるといいと思っています。そして、より大きなネットワークの一部として機能すればいいと思います。
Shane Hastie氏 はオーストラリアとニュージーランドで活動するSoftware Education社のトレーナーでありアジャイルコーチです。