ヨーロッパのふたつの大学の研究者グループが“美しいものは使いやすい”という命題が正しいかどうかを評価したところ、“使いやすいものは美しい”という結論に至った。
スイスのバーゼル大学とデンマークのコペンハーゲン大学の研究者であるAlexandre N. Tuch氏、Sandra P. Roth氏、Kasper Hornbaek氏、Klaus Opwis氏、Javier A. Bargas-Avila氏は美しいものは使いやすいのか。ユーザビリティと美しさの人間への影響を探る (PDF)と題した論文で、ユーザビリティと美しさの関連を分析し、"美しいものは使いやすい"というよく知られた命題にしっかりとした根拠を与えようとした。
著者らは既存の研究結果が矛盾しており、美しさとユーザビリティの関係を明確にできていないと指摘する。
今のところ、美しさとユーザビリティの関係は明確になっていません。私たちが調べた限りでは、たった5つの実験的研究だけがこの関係の方向性について信頼できる情報を提供しています。しかし、これらの研究成果は様々な要素が混ざり合っており、明確な結論を導きだせません。実験的研究の難点は、美しさとユーザビリティの要素をシステム的かつ独立的に操作することです。これは美学とユーザビリティの関係を明らかにするためにはとても重要です。美しさとユーザビリティを混同してしまっている研究もあります。例えば、インターフェイスのある部分を変更することで美しさに関わる要素を操作する場合、意図せずにインターフェイスのユーザビリティが変わってしまうリスクがあります(Tractinsky et al., 2000)。ユーザビリティの要素を変更する場合も同様の問題が発生します。
過去の研究結果を吟味した後、著者らはより正確に美しさとユーザビリティの関係を計測する実験を行うことした。彼らは同じオンラインショップを4つの形態で準備した。その内ふたつはそれぞれ、美しさ配慮したサイトと美しさに配慮していないサイト、残りのふたつはユーザビリティが高いサイトとユーザビリティの低いサイトだ。どのサイトも既に知られているサイト構築の方法論に従っている。ユーザビリティが高いサイトとユーザビリティの低いサイトは外観は同じで同じ商品を持ち、メニューの幅も同じだ。違うのは商品/メニューのラベルと商品の分類だけだ。80人が参加してこのショッピングサイトを評価した。
研究の結果は、美しさはユーザビリティの認知に影響を与えないが、低いユーザビリティは美しさの認知に悪影響を及ぼす、ということだった。つまり、ユーザビリティは美しさよりも重要なのだ。下記は実験によって美しさの認知がどのように変化したかを示している。
著者らは"使いやすいものは美しい"と結論付けている。
先行研究のほとんどがインターフェイスの美しさが使いやすさの認知に影響を与えることを発見していました。ふたつの研究は(Ben-Bassat et al.,2006; Lee and Koubek, 2010)はインターフェイスのユーザビリティが美しさの認知に影響を与えるものの、その影響度は明確ではないことを明らかにしました。私たちの研究結果は、ある一定の条件下ではTractinskyの考え("美しいものは使いやすい")は逆の"使いやすいものは美しい"になりうることを示しています。
まだ、インターフェイスの美しさの認知は時間とともに大幅に変化します。美しさとHQI [ヘドニック品質特定]はユーザビリティの経験に影響を受けます。
この論文(PDF)には著者らが行った実験の詳細と、美しさやユーザビリティの認知の計測方法、実験結果の解析方法、著者らがどのように結論に至ったかが書かれている。