Steve Denning氏はForbesでの連載記事でアジャイルコミュニティが主流のマネジメントに受け入れられるために直面する困難について書いている。
連載の第一回目の記事で氏はアジャイルはマネジメントの秘密の奥義だと主張している。過去数世紀の間にも、既存の考え方に対立する大胆な新しいアイディアが、門外漢からもたらされたことで無視されるということが何度もあった。
...ちょうど10年前、マネジメント手法にブレークスルーが起きました。このブレークスルーによってソフトウエア開発チームは規律ある作業の実施と継続的イノベーションを両立させることができるようになりました。これは従来のマネジメント手法では達成できないことです。しかし残念ながらこのブレークスルーを起こしたのは“正しい人々”、つまり、ビジネススクールの研究者や大企業の高給取りのマネージャーではありませんでした。最もマネジメントの問題を解決しそうにない人々、ギーグがブレークスルーを起こしたのです。
氏によれば、マネジメントの世界でアジャイルに言及されることはほとんどないか、あっても目立たない。
...マネジメントの世界ではアジャイルの発見は無視されたままです。ハーバードビジネスレビューをスキャンしてみれば、現在のマネジメント上の根本的な問題に対してアジャイルが解決策をもたらすことに曖昧な言及さえもされていないことがわかります。
Kurt Hausler氏はこの記事にコメントして、アジャイルをソフトウエア関連のマネージャでない人にもわかるような方法で紹介したほうがいい、と指摘している。Steve氏はこのコメントに次のように答えている。
...世界中の膨大なソフトウエア開発のマネジメントの経験を無視するのはよくありません。優れたアイディアは”正しくない人々”がもたらしたものであっても優れたアイディアなのです。超予算経営や複雑思考、リーンマネジメントやライトシフティングは明らかにアジャイル開発と関連がありますが、これらが従来の指揮制御型のマネジメント手法を変えることに成功しているかどうかはわかりません。
Yves Hanoulle氏はコメント欄で別の見方を提示している。
Jerry Weinberg氏の“ラズベリージャムの法則”を思い出しました。つまり、アイディアが広まれば広まるほど、そのアイディアは薄くなっていくのではないでしょうか。ウォーターフォールでも同じことが言えます。ウォーターフォールで開発している人のほどんどはRoyceのドキュメントを読んだことがありません。私の経験ではCFOや上級管理職はアジャイルを忌避しているとは思いません。説明すれば素早く理解してくれます。なのでマネジメント側が分かる方法で伝える必要があるのです。
二回目の連載でSteve Denning氏はRod Collins氏にインタビューし、なぜ経営幹部はアジャイルマネジメントを理解できないかについて質問している。. Rod氏はアジャイルに衝撃を受けたことを認め、新しいマネジメントパラダイムとアジャイルマネジメントに共通するの3つ原則を挙げた。
- 顧客への価値と顧客にとって最も重要なことに対する集中
- 従来のように分散されたタスクを管理するのではなく、グループ化したプロセスに着目する
- 仕事とは継続的な学習であるという認識
Rod氏は経営幹部がアジャイルのような手法を採用しない理由を説明する。
...アジャイルを経営幹部に説明すると、彼らはアジャイルを実践するのに難色を示します。というのは彼らの経験の力は自分たちが責任者であるということだけを源泉にしているからです。新しいマネジメントモデルでは、そのような力は“責任者であること”ではなく“繋がっていること”から生まれます。つまり、力を発揮するのに責任者である必要はないのです。面白いのはこのような実践を行っている新しい企業の方が、古い企業よりも大きな成果を上げているということです。
Chris R. Chapman氏はこの第二回目の連載に対してコメントし、この事態は決して新しくないと主張している。
20年前に最初のアジャイルプロジェクトが始まって以来、アジャイルに対する認知と無理解の問題はソフトウエア産業の真の転換を阻害してきました。マネジメントは自身の姿を鏡で見てみればいい。自身の振る舞いが非現実的で、今のやり方がマネージャーや開発者を間違って配置してしまうのに貢献しているのがわかるでしょう。... 組織全体で考え方の転換が必要です。開発者やマネージャーを適切に配置するためです。つまり、どんな確立された組織でも起業家精神を持ち、リスクと変化を引き受ける必要があります。
これらの議論を受けて、Steve Denning氏は"反アジャイルの事例: マネジメントによる10のありがちな反対意見" (10のうち6つはBruno Collet氏が2009年に書いた記事"アジャイル開発の限界"に由来している)という記事で連載をまとめている。10の反対意見と、それに対する氏の考えは下記の通り。
1. “アジャイルは一部の優れた人のためのものだ”
優秀な人と凡人のどちらかを選ばなければなりません。従来のマネジメントは凡人を選びました。
2. アジャイルは我々の組織に合わない”
現在の市況では、文化を変えられない組織は死にます。アジャイルになる必要があるのです。
3. “アジャイルが有効なのは小さなプロジェクトだけで、我々のプロジェクトは大きい”
大きなプロジェクトに対処する方法はあります。関連する小さな独立するサブプロジェクトに分割して、それぞれをアジャイルチームが実装すればいいのです。
4. “アジャイルでは皆が同じ場所で働かなければならないが、我々のスタッフは別々の場所に分散して働いている”
アジャイルチームにとって皆が同じ場所で働くのが理想的であることは真実ですが、スタッフが分散している場合でもテクノロジーを使えば継続的なコミュニケーションを維持できます。
5. “アジャイルにはプロジェクトマネジメントのプロセスが欠けている”
必要なプロセスがすべて詰まっているアジャイルの方法論を選択しないのなら、アジャイルと必要なプロセスを組み合わせて、アジャイルは日々のマネジメントに使うといいでしょう。
6. “私達の企業の個々人に責任を割り当てるシステムにはアジャイルは合わない”
組織の評価システムを変えましょう。これは問題です。アジャイルは関係ありません。
7. "アジャイルは一時的流行だ”
アジャイルは銀の弾丸ではありません。... アジャイルは特定の問題に対する解決策です。つまり、創造性とイノベーションを両立させるための原則です。
8. “アジャイルよりも優れたやり方がある”
内輪もめをするよりもそれぞれの動きの共通点を見つけて、力を合わせて変化を起こす方がいいでしょう。
9. “新しいことは何もない”
アジャイルのすべての部分はとても長い間存在していました。新しいのはこれらの部分をまとめ上げ、統合したことです。
10. “不公平な比較ではないか”
本当のアジャイルを導入すれば、従来のマネージャーが力を維持するために部下に使っている不透明なトリックを白日の下にさらします。
Yves Stalgies氏氏はコメント欄で自身の考えを雄弁に語っている。
...アジャイルは考え方です。手法ではありません。これは重要なことです。必要なのか考え方を変えることです。アジャイルの考え方はソフトウエア開発では一般的です。考え方を変えなければならないのはマネジメントです。アジャイルの考え方と顧客の満足度を求めることは企業を成功に導くための重要な要素です。
Steve Denning氏はその著書"The Leader's Guide to Radical Management"で従来のマネジメントを変える方法について詳細に説明している(InfoQではShane Hastie氏が同書を詳しくレビューしている)。
アジャイルの導入が進まないのは、従来のマネジメントがアジャイルに気付いていないからなのか。それともマネジメントは導入に抵抗しているのか。コミュニティとして私たちはどうすればこの状況を変えられるだろう。