"チーム・オブ・リーダ (Team of Leaders)" とは,すべてのメンバが積極的にプロジェクトのオーナシップを獲得することにより,潜在的リーダシップの開発を図るチームを言う。InfoQ は,このコンセプトを詳細に解説した書籍 Triple Crown Leadership: Building Excellent, Ethical, and Enduring Organizations の著者である Bob Vanourek,Greg Vanourek 両氏にインタビューした。
Sensormatic and Recognition Equipment の元 CEO (現在は引退) である Bob Vanourek 氏と,著作者で教授,ジャーナリストの Gregg Vanourek 氏は, It’s Not Just a “Team Effort” という記事で,チームとリーダに関する "トリプルクラウン・リーダシップ (Triple Crown Leadership)" というコンセプトを発表した。両氏によると,"リーダシップとは,立派な肩書や角部屋のオフィス,多種類の航空旅行マイレージを所有する人々にのみ許される特権ではない"。 リーダは "組織階層上の位置とは関係なく,誰もがすべて,その時々においてリーダとなり得る" ものだという認識が必要なのだ。さらに氏らは,"正式な権限のあるなしに関わらず,誰でもリーダになることができる" とも言う。"肩書きが何であれ,行動を通じて周囲に影響を与えることは可能" なのだから,"組織の目的や価値観,ビジョンに従う限り,誰もがリーダとして活動するためのライセンスを持っている" のである。氏らの考えでは,チームとしての成果だけでは成功と呼ぶのに十分ではない。"チーム・オブ・リーダとしての成果" が必要なのだ。
さらに詳しく知りたいと思った我々は,両氏にコンタクトを取った。質問に答える前に彼らは,回答の前提として,"チーム・オブ・リーダ" に関する自分たちの見解を要約して説明してくれた。
中心となる前提から話を始めましょう。チームが求めるのは "トリプルクラウン",すなわち優秀さ,倫理性,永続性です。彼らは正しい行動の結果として卓越した成果を達成し,それが時の試練に耐えうることを望みます。
トリプルクラウンを達成するには,以下の5つのリーダーシップ・プラクティスを使用します。
- 頭と心 (Head and Heart) – "頭" のスキル (能力や専門知識など) と "心" のクオリティ (個性,感情,知性,チーム文化への適合) を得るために人を採用し,育て,伸ばします。
- チームカラー (Colors) – 感動できるチーム目標 (ミッション),共有可能な価値観,何を達成するかというビジョンなどを共同で設定します。
- 鋼とベルベット(Steel and Velvet) – 個々のパーソナリティやスタイルといったものを超越して,リーダーシップを剛柔自在に駆使します。立場や人々の関与度に応じながら,共有する価値観に裏打ちされた行動を選択するのです。
- 執事(Stewards) – グループのパフォーマンス面からリーダシップにアプローチします。従来的,機能的な役割の枠から踏み出して,ハイパフォーマンスな個性文化の世話役になるのです。
- 連帯(Alignment) – 共同作業を通じて連帯するとともに,私たちが示した 10 ステップ (あるいはそのバリエーション) を用いて連帯を維持します。
チームにはおそらく,何らかのリーダシップ階層が存在するでしょう。何人かのメンバが他よりも権限を有していて,各メンバにはそれぞれの責任範囲が割り当てられているのです。しかし,俗に "生きていればいろいろあるさ (stuff happens)" というように,予期せぬ新たな問題は発生するものです。そのような時には,各人の通常の責任範囲を越えた行動が不可欠です。チーム・オブ・リーダのメンバたちは,ここで "それは私の仕事ではない" とは決して言いません。彼らは倫理的かつ継続的に優秀であるべく,力を尽くすのです。職階上のリーダを頼ったり,その忠実な部下として指示を待ったりすることは決してありません。
おそらくは新たにチャレンジする目標が生まれたとき,チームは再編成され,そこで何をすべきかが議論されます。問題がチームにとって潜在的に重大なものである場合には,チームリーダがその解決に責任を負うことになるかも知れません。逆に問題がそれほど重大でなければ,誰かが志願して特別なプロジェクトをリードするか,あるいは他の協力者に対処を要請するまで待つことも可能でしょう。問題に取り組む上でリーダが他のメンバよりも適性が高いとしても,チーム内のリーダシップやその他の能力を開発することは,長期的に重要な意味があるのです。
トリプルクラウンのチームでは,たとえ自身の通常の責任範囲でなくても,誰かが特別な行動のリードを買って出るものです。彼らは求められる成果の達成に責任を持つべく歩み出て,活動を開始するに留まらず,それを倫理的かつ持続的にリードします。
チームの他のメンバたちも援助を惜しみません。チーム内に新たなチームが,動的かつシームレスに形成されるのです。
やがてはチームのメンバたちの,全員ではなくてもその大部分が,リーダとして振る舞うようになるでしょう。個々のメンバは,職階上のリーダでさえ,ある活動においてはフォロワとなる場合もあります。John Michael Montgomery の歌の一節にあるように,"人生はダンスのレッスンのようなもの,時にリードし,時にリードされる" のです。
チーム内には特別な関係があります – 尊敬,信頼,そして多くの相互援助です。個性の文化を育み保護するために,チームのメンバたちは建設的に,礼儀正しく,進んで発言します。創造と革新が起き上がり,多くの場合は安易な抜け道ではない,前向きな別の道が見つかります。
チームのメンバは,時に激しく議論します。善意ある人々の間でも,戦略的問題については意見の合わないこともあるからです。その場合でも,問題に対する意見の相違は常に事実に基づいたものであって,人格や憶測に関するものではありません。
チームメンバの中には,忠実で支援的なフォロワであることを選ぶ人ももちろんいるでしょう。そのようなメンバの貢献度は,アサインされたタスクを適切に実行することで評価されます。それでも私たちの経験から,大部分のメンバは潜在的にリーダシップを持っていて,大小に関わらず,何らかをリードする機会を受け入れるものなのです。
これまで説明したこの "チーム・オブ・リーダ" アプローチは,私たちがこれまで大きな満足を持って体験してきたものです。リーダシップとは,何も公式な議論がなくても,浮いては沈み,引いては返して,チームを上下させます。驚異的であるとともに,ひとつの作業形態なのです。
InfoQ: チーム・オブ・リーダとは,先導者によるチーム,という意味なのでしょうか。
そうではありません。"リーダ" はチームの先導者という意味だけではなく,プロジェクトをリードする,すべての意味での先導者でもあるのです。
InfoQ: 全員がリーダになると,なぜチームは機能的になるのでしょうか。
注意してほしいのは,すべてのメンバが同時に,同じ対象をリードするのではない,という点です。リーダシップの行為は浮き沈みするものなのです。別々の人が別々のプロジェクトをリードし,異なるタイミングで作業のイニシアチブを取ります。それぞれのメンバは時にはリードし,時にはフォローする役に回るのです。
InfoQ: チーム・オブ・リーダのメンバ間には,どのような関係性があるのでしょうか。
生産的。信頼。敬意。ダイナミックといったものです。
InfoQ: そのようなチーム内で競合が起きた場合,どのように管理するのでしょうか。
オープンなコミュニケーションと,当初に同意した共有価値を定期的に参照して管理します。競合は避けられません。混乱が生じたり,時には競争や敵意,不満を感じることもあるでしょう。このような問題をあからさまにしてオープンに話し合い,グループとして対処する,という誓約が必要になります。時には職階上のリーダが強力なリーダシップで踏み込んで, "重要な決断をする" ,あるいは "均衡を破る" ことも必要でしょう。そのような行動でも,プロセスがオープンで透過的であって,共同作業の方法が価値を基準としたものであるならば,一般的に人々はそれを受け入れ,尊重してくれるものです。
InfoQ: リーダよりもフォロワでありたい,先導者たる負担を好まず,他人のアイデアの実践者でありたいと考える人たちについては,どうすればよいとお考えですか。
それもまたよいでしょう。リーダになる準備ができていない,あるいは現段階でリードすることに興味のない人もいます。しかし多くの場合,それは逆の問題なのです。つまり彼らは,自分自身が潜在的リーダシップを持っていないと考えているか,あるいは誰にでも可能な行為としてではなく,職階構造という面においてのみリーダシップを理解しているのです。
Bob Vanourek 氏と Gregg Vanourek 氏は共に,McGraw-Hill から出版された Triple Crown Leadership: Building Excellent, Ethical, and Enduring Organizations の著者である。Twitter: @TripleCrownLead