"ネットワーク仮想化" というニッチなデータセンタ技術にフォーカスした新興企業２社が先日，大手クラウドソフトウェアベンダ２社に買収された。VMWare -- EMC が約80% を保有 -- は７月23日， Nicira を 12.6 億ドルで買収した。その１週間後には Oracle が，新興企業 Xsigo Systems を未公開額の現金と株式によって買収している。
ネットワーク仮想化には，サーバ仮想化などのデータセンタ技術を揺るがす可能性がある。データセンタにおいて VMware の名を一躍有名にしたサーバ仮想化は，クラウドのバックボーンを構成している技術だ。また Oracle のサーバ仮想化製品は Sun Microsystems の買収を通じて手に入れたもので，同社エンタープライズソフトウェアパッケージのクラウド展開を補完する位置にある。
ネットワーク仮想化は，Cisco や Juniper といった主要ネットワーク企業の提供する独自ハードウェアからネットワークソフトウェアを分離するという意味で，画期的な技術と見なされている。これにより誰でも市販のハードウェアを使用して，ネットワークにあらゆる種類の機能を追加できるようになるのだ。サーバ仮想化がデータセンタにおける市販ハードウェア利用の道を開いたことによって，高価で複雑な "ビッグアイアン" サーバが注目されることはなくなった。ネットワーク仮想化のアプローチもこれと同じで，仮想的なネットワークとルーティングの構築によって独自ネットワークハードウェアを撤去し，ネットワークの柔軟性向上とコスト低減を達成しようというものだ。
ベンチャーキャピタリストの Ben Horowitz 氏は，VMware と Nicira 両社の持つ強みが "サーバ，ネットワーク，ストレージにおいて，今後10年間でもっとも重要なインフラストラクチャ企業" を生み出すだろう，と語っている。Nicira が Network Virtualization Platform というただひとつの製品で，買収以前すでに AT&T, eBay, NTT, Rackspace, Fidelity Investments という５社の大手顧客を持っていたことを考えれば，そのような高評価にも十分に納得できる。
市場で Nicira に先行する Xsigo は，Nicira のネットワーク仮想化製品よりも多くの製品系列を所持している。I/O 仮想化製品を含む同社の製品ラインには，50 を越える顧客が存在する。それでも Xsigo のネットワーク仮想化技術に対する高い評価は，Oracle が同社に特別な関心を持っていることによるものだ。Oracle のシステム担当執行副社長である John Fowler 氏によれば "Xsigo のソフトウェア定義ネットワーク製品は，オンデマンドで動的再配分が可能な計算，ストレージ，ネットワークなどのリソースを提供することにより，コストを抑制しながら資産活用とアプリケーションパフォーマンスの向上に寄与します。"
ネットワーク仮想化によって置き換えられる立場にある大手ネットワーク企業にも，一部では同じような取り組みを行う動きがある。Cisco は 2012年4月，Insieme という企業を 8億5000万ドルでスピンインする と発表した。同社もまた先進的なネットワークにフォーカスした企業で，Cisco ではこれをソフトウェア定義ネットワーク (Software Defined Networking / SDN) と呼んでいる。"S.D.N.: プラットフォームとしてのネットワークの進化 (Evolving the Network as a Platform)" と題された同社のメモには S.D.N. について，”ネットワークをより機敏で，スケーラブルで，コスト効果の高いものにすることが期待される" と書かれている。これはネットワーク仮想化の機能とも一致するものだ。
ネットワーク仮想化で最大の利益を得るのは，自身でデータセンタを管理する企業やクラウドサービスベンダたちだ。彼らはこの技術によって，ネットワークのコスト低減と柔軟性向上を同時に手にすることができる。クラウドサービスのエンドユーザには，彼らのコストダウン効果のごく一部が波及することを期待するのがせいぜいだろう。しかし最も興味深い動きがあるのは，間違いなくクラウドソフトウェアベンダ間である。ネットワーク仮想化技術が成熟し，よりフレキシブルでコスト効果の高い選択肢が現実となった今，これまで大手ネットワーク企業のみが提供していたパートナーシップとソリューションに疑いの目が向けられるのが必須だからだ。