- 仕様の欠如。ほとんどのアジャイル方法論はプロダクトを事前に定義しない。代わりにプロダクトは進化し,その過程で発生する変化を有機的に包含する。そのために何が提供されるのか,あるいはされないのかを,契約書で正確に定義することは困難である。
- 同意することの同意。アジャイルでは,イタレーション終了時や完成時に提供する内容の決定が頻繁に延期される。このような事前の意思決定の欠如は,契約法の理念や原則と真っ向から対立するものであり,争議が起きた場合の訴訟,仲裁,あるいは調停を通じた契約の強制を難しいものにする。
- プロセスの初期段階において,アジャイル開発とは何か,そこから得られる利益は何か,といった点に関する基本的理解を確認せよ。簡単なメモやケーススタディがあれば,同意内容の説明や確定の役に立つ。リスクには先行して対処すると同時に,リスク軽減に有効性を期待できるアジャイルの特性にも注目すべきである。例えばイタレーション毎に成果を提供するというアジャイルの特徴は,早期終了と責任規定に関する弁護士の懸念を緩和するのに役立つはずだ。
- プロジェクトの規模やユーザ組織の文化,ユーザの所有するリソースなどを考慮した上で,当該プロジェクトに対してアジャイルとウォーターフォールを適用した場合の相対的利点とリスクを十分に比較検討せよ。プロジェクトにとって検討結果がいずれかのアプローチを除外するものなのかどうか,早い段階で決定することが必要だ。
- ユーザ視点に立って,ビジネスケース資料と提案依頼書 (RFP / Requests for Proposals) がアジャイル方法論の適用 – 前述の2番目のポイントによって除外されていなければ – に対して十分な柔軟性を備えているか確認せよ。一般的に調達を好条件で行うには,提案された契約条件を弁護士が RFC 文書に折り込むことによって,取引先との実施計画合意(AIP)を確実なものにしておく必要がある。しかしその契約条件がウオーターフォール的な成果達成方法を前提とする場合,このことが問題になる可能性がある。複数の実施契約,すなわちアプローチの違いを考慮した2形式の契約を採用することによって,同レベルの確実性を担保する配慮が必要だ。
- 確実性をさらに取り戻す手段として,制限的契約管理を弁護士とともに検討せよ。"最低限の成果" の定義,プロジェクト費用限度,最終納期などはその例だ。このような確実性がアジャイルの柔軟性を損なうものであることは間違いない。しかしこのようなハイブリッドモデルも,トレードオフを正しく理解する限りにおいては有効なのだ。