組織にアジャイルを導入しようとすると,その組織の文化を変えなければならない場合がある。そこで用いられるアプローチの方法は,組織の持つ文化や背景,アジャイルの実施に対する信用のレベルなどによってさまざまだ。
組織文化を変えるという作業には,多大な時間的および金銭的コストを要する可能性がある一方で,組織にとって望ましい結果はなかなか得られないものだ – Harvard Business Reviewの記事 "To Change the Culture, Stop Trying to Change the Culture" で,Robert H. Schaffer氏はこのように説明している。
(...) 大勢のコンサルタントたちがそのプロセスを提案してくれていますが,最初に既存の組織文化の分析を行うことを推奨するものがほとんどです。分析が終われば,進むべき方向を明確にする必要があります。(...) その次には,目標を達成する方法を計画しなければなりません。いよいよ実施という段階になると,コンサルタントが喜び勇んで飛びついてきます。多数のプログラム – トレーニング,再組織化,システムの再デザイン,コミュニケーションキャンペーンなど – を提案して,それらの実施を支援してくれることでしょう。
この手の介入行為の中にも,個々のレベルでは有用なものもあります。しかし組織文化を抜本的かつ大規模に変革しようという試みが,最初の段階で不満に感じた文化的側面を改善することはほとんど望めません。
文化を変えるには別のやり方がある,と氏は言う。最初は小さな変化から始めて,斬新的な改善を継続して人々に変革の勇気を与える,という方法だ。
最初はいくつかの小さな成功体験から始めて,その後の拡張するための基礎を作り上げるという方法を選択しているマネージャが,比較的よい成果を挙げていることに私たちは気付きました。まずひとつ,あるいはごく限られた数の問題から始めます。一部の人たちに対して,実現しようとするイノベーションについて指導した後に,その問題を進展させるためのちょっとした試みを2つ3つ,彼らに計画させてください。変革が必要な文化的問題に関しては,多少の学習も必要でしょう。そして実行に移します。実行する内容と方法には細心の注意を払ってください。成功したアイデアは次のステップに取り入れます。
(…) 文化の大きな変革は,小さな改善の継続的追求の延長線上にあるのです – 宣言や綱領,あるいは "文化の変革が何を意味するのか" といった討論が実現するのではありません。上級マネージャには,個々の進展という "より糸" をひとつの "織物" にまとめ上げるような,包括的な指導を行うことが求められます。しかしながら活力や機運,試行錯誤的な想像力といったものは,個々を推力として発生するものなのです。
Esther Derby氏はPM Hutに寄稿した observations on corporate culture and agile methods adoption / adaption という記事の中で,組織にアジャイルを導入することの難しさについて述べている。
経営トップが直接,企業にスクラムやその他のアジャイルメソッドの導入を決定するという事例が多すぎます。(...) この手のトップダウン型導入では往々にして,アジャイルメソッド導入に伴う重要な要素である文化が無視されるものです。
既存の文化によっては,文化的側面に注意を払うことがアジャイル導入の成功チャンスの拡大に役立つかも知れない。
権力的あるいは官僚的な文化を持つ組織へのアジャイルメソッドの導入は,非常につらい戦いになります。アジャイルメソッドの背景にある価値観や原則といったものが,それらの支配的文化とは相反するものだからです。(...) そのような組織文化の下ではアジャイルメソッドを利用できない,というのではありません。巨大な権力的ないし官僚的組織内の懐の中であっても,アジャイルを育むことは可能です。しかしながら自己組織化やコラボレーション,適応性などといったアジャイルの原則と価値をサポートする組織文化の形成に十分な注意を払うことによって,アジャイルメソッドを広範に適用することの有効性がより向上するのも事実です。
Leon Neyfakh氏によるBoston Globeの記事 how to change a culture には,適合力によって文化を変える方法に関する説明がある。
(...) 研究者によれば,人々の内面的価値観の再プログラムを引き起こさずに持続的な変化を引き起こすような回避方法があります。それに必要なのは,どうやら他人の考えに対する自身の認識を変えることのようです。
認知方法に影響することによって文化の変革を引き起こすというのは,しかしながら困難なことかも知れない。
他人の振るまいに対する認識を操作することによって人々の振るまいを変えるという考え方には,いささか循環論的な響きがあります。(...) 特に困難なのは,既存の規範からの逸脱することで社会の他の部分から敬遠されるようなことはない,という点を十分な数の人々に納得させることで,この循環を開始する部分です。
Nirav Assar氏はTechwellで執筆した記事 the agile tipping point の中で,Malcoms Gladwell氏の著作 `The Tipping Point` のアイデアを使用しながら,アジャイルのメッセージを広める上でのコネクタ(connector)の必要性を指摘する。
コネクタとは,チームのさまざまなメンバの友人であり,職場や社交の場で彼らと交友関係を持っている個人のことです。コネクタはチームメンバやビジネス,マネージメント,テスタなどとの間に,真の敬意と信頼を持っています。コネクタはあなたの代わりにアジャイルのメッセージを普及させます。すると,そのメッセージに火が付いて,それが日常使われる用語のひとつになります。コネクタを見つけることができれば,アジャイルの考え方は組織に浸透するでしょう。
氏の意見では,アジャイル適用の文化を創造して変化を起こさせるためには,さらに有識者やセールスマンなども必要だ。
アジャイルの概念は組織の有識者を刺激します。彼らは熱心に,そのトピックを学ぼうとするでしょう。そうやって知識が身につけば,それを回りのチームメンバに伝えたいと思うようになるはずです。そのような人たちが先頭に立って,新たに導入されたアジャイルの動向を調査し,その結果をチームメイトに報告するのです。その役目を果たすのはマネージャや上級開発者,あるいはビジネスアナリストなどでしょう。同じ仕事をするチーム内にこのようなリーダが見つけられれば,成功する可能性は高くなります。
ソフトウェアチーム上で拡大するためのアイデアは,セールスマンの助けを借りる,というものです。アジャイルの専門家である必要はありません。熱意を持ってくれていれば,それでいいのです。彼らのパーソナリティと積極性は,他のメンバを捉えるでしょう。実際には,あなた自身がセールスマンの役目をすることになるかも知れません!
InfoQでは 組織文化の変革に関するニュース,記事,プレゼンテーション を定期的に紹介している。the culture game - a book by Dan Mezick と題した記事では,組織における文化変移の促進と指導を行う方法について議論されている。 また the power of storytelling というプレゼンテーションでは,ストーリの共有がチームの文化を変える上でどのように役立つのかが示されている。