InfoQはAgile India 2013の議長のNaresh Jain氏にインドのアジャイルの動向について話を聞いた。氏はインドでのプロダクトの発見、リーンスタートアップ、継続的デリバリなどについて語った。
InfoQ. インドでのアジャイルの導入について昨年から何が変わりましたか。
Naresh Jain:組織の振る舞いの変化を考える場合、1年とはとても短い期間です。劇的な変化はありませんでした。しかし、私が昨年訪問した多くの組織はスクラムを通過し、よりXPな方法を探っていました。中にはカンバンを試している組織もあります。リーンスタートアップは小さな影響しか生みませんでした。また、経営幹部が有効な学習、価値と成長の仮説、または方向転換について話しているのを聞きます。また、彼らはチームを率いて継続的デリバリを推し進めていますし、テストの逆プラビッド問題も認識しています。大組織には習慣があり、その習慣を打ち破るのに苦労しています。"アジャイルに従う"のではなく"アジャイルである"ことを実践するときに起る混乱について気付いている人もいます。
また、興味深いのは顧客が固定の価格、固定の時間でアジャイルなやり方でプロジェクトを進めることを求めているということです。企業はこの新しい動向を捉えようと努力しています。表面的にはこの要求は明らかに矛盾を孕んでいます。しかし、私はこれは良いことだと思います。組織は自分たちのビジネスモデルの再考が必要になるからです。
また、スクラム認定を授かっている企業を多くが沈黙しており、PMI、APMG、ICAgileのような大きなプレイヤーが活発に活動しています。認定という観点から2013年にどのようなことが起るのかは興味深いです。
InfoQ. インドでは開発プロセスに継続的統合を採用する企業は増えていますか。彼らはどのような困難に直面しているのでしょう。
Naresh Jain:わかりません。全体像を語ることができるほど多くの情報を持っていないからです。ただ、過去数年で付き合いのあった企業の状況を元に回答することはできます。
インドのソフトウエア産業で利用されているさまざまな価格(労働)モデルとそのモデルが示唆する継続的デリバリのあり方がわかります。
- 固定価格(新しい配置、機能強化 & テストプロジェクト)
- 実費精算(R&D、カスタマイズ、実装、サードパーティのテスト、メンテナンス & サポートプロジェクト)
- 人員増強 (さまざまな種類のタスク)
- 雑務(小さな機能拡張とバグ修正)
- 間に合わせ(eコマースサイトやモバイルアプリ、統合プロジェクトやウェブサイトなどを構築するスタートアップ)
これらのモデルの中で最後の2つだけがある種の継続的デリバリを実践しているようです。
既存のプロジェクトのチームは次のような理由で継続的統合を実践するのは難しいです。
- 継続的デリバリに効果があると思っていない。価値があると思っていない
- マネジメント層が継続的デリバリに高いリスクを感じている
- 多くの企業で既存のビジネスモデルを混乱させる
- マネジメント層が継続的デリバリをやり遂げる能力がチームにあると思っていない
- 異なる機能を担う部門(セールス、ビジネスアナリスト、アーキテクチャ、UI、開発、テスト、データベース管理、リリース、運用)がプロジェクトのライフサイクルのそれぞれの部分を担う、ウォーターフォール型の開発を行っている。
- 組織も実践してみようと思っても、 逆ピラミッド型のテスト問題が深刻なボトルネックになる
- 多くの顧客はソフトウエアが頻繁にリリースされることを好まない。過去に混乱したことがあったから
InfoQ. オフショアとアウトソーシングの一大中心地だと、インドで行われるプロジェクトでリーンスタートアップの原則を適用するのは難しいのではないでしょうか。
Naresh Jain:従来は、オフショアのチームは顧客開拓や価値の仮説について心配をする必要はありませんでした。“正しい製品を開発しているか”どうか思い悩まなくてもよかったのです。彼らが注力しなければならなかったのは“製品を正しく作ること”でした。長年、私たちはこの2つを分離し、それぞれを一直線にならべて別々に作業できると考えていました。例えば、まず大量の時間を使って要求を明確にし、そして(安い)オフショアのチームがその仕様に従って要求を実装します。
しかし、私たちはこのモデルには根本的な欠陥があることに気付きました。要求を実装するフェーズは成功する製品を定義し開発する上で必要不可欠な部分なのです。
リーンスタートアップの原則は本当に確信を突いています。現在、私たちはBuild-Measure-Learnという短いサイクル(または、Kent Beck氏の言うLearn-Measure-Buildサイクル)の価値、方向転換や継続的デリバリの重要性を理解しています。私は、このモデルを使って働いたチームは協力や責任感、効率性が格段に向上することを確認しています。
プロダクトの発見(ユーザ中心設計)の手法、例えば、ペルソナ、ユーザゴール、ストーリーマップ、Low-fiプロトタイプなどはオフショアチームにとってとても価値があることがわかりました。
リーンスタートアップの原則を実践するのは難しいですが、オフショア環境(アウトソーシングかどうかに関わらす)ではとても重要です。
私の意見ではこのようなや原則や実践を信じているチームにとっての最大の障害は自覚と経験の不足です。私はこれらを実践している組織で働いたことがありますが、彼らはこれらの実践から多くの利益を得ていると言います。スクラムやアジャイルよりも価値があると言う人もいます。
InfoQ. 最近の数年の中でカンバンの導入は増えていますか。分散したチームやオフショアチームではどのくらいの規模で導入されていますか。
Naresh Jain:インドの企業は長い間カンバンを誤用していました。2003年にメンテナンスのプロジェクトを率いたときのことです。私はXPを実践し始めました。そして、“調査と適用”のサイクルを何回か繰り返すことで、私たちの開発プロセスは単純なカンバンスタイルになりました。作業内容を制限し、ひとつの流れに集中して、すべてを見えるようにし、自動化を行って流れを計測して改善し、サービスのクラス分類などの概念を導入しました。
私はこれが多くのオフショアプロジェクト、特に、メンテナンスやサポート、開発プロジェクトの姿だと考えています。彼ら全く同じような状態ではないかもしれませんが、このような最終的にはこのような姿に落ち着くでしょう。単にこれが自然な働き方だからです。
そうは言っても、私は今まで短いサイクルで協力して働くやり方がなかったことを知っています。上述したような原則を新しい製品開発プロジェクトや大規模な機能拡張プロジェクトで導入することもありませんでした。過去2年間、企業はプロセスを効率化し、多機能のチームを組織し、ボトムアップのプロセス改善に注力してきたことを知っています。このような変化が起きたことのはアジャイル、特にスクラムの功績でしょう。
今やチームや企業はカンバンがプロセスの進化の次のステップだと感じています。
過去、インドではカンバンはブランドもなくほとんど認知されていませんでした。しかし、地元のツール開発会社はカンバンをサポートしていると強く宣伝することで製品のマーケティングをしています。ゆっくりとですが認知されつつあります。
分散したチームやオフショアチーム向けに大規模なカンバンを導入することについては、特別な課題はないと思います。多くのツールが大規模なカンバンと通常のカンバンのギャップを埋めてくれます。加えて、このようなカンバンの導入については、ある程度の経験の蓄積があり、役に立ちます。
InfoQ. Agile India 2012は大成功を納めました。あなたはAgile India 2013も主催しています。昨年との違いはなんですか。
Naresh Jain:Agile India 2012から学んだことに基づいて、次のような改善を行いました。
- 昨年のカンファレンスのプログラムはすべてオープンな登録システムを使って作りました。4ヶ月に渡り、細心の注意を払ってオープンなレビューシステムを使ってレビューしたのですが、いくつかのセッションの質は悪かったです。また、オープンな登録システムだったので、著名人を多く惹き付けることができませんでした。今年は、25人のアジャイル/リーン界隈の著名人が世界中から集まり、彼らを有名にしたトピックについて2、3のプレゼンを行います。また、現場で実践している人にその最前線の経験を披露してもらうために、20%のセッションはオープンな登録システムによって受け付けます。こうすることでとても質の高いプログラムを作ることができました。世界で開催されている他のアジャイルカンファレンスよりも良いものになると信じています。
- 昨年の参加者からのフィードバックから学んだことは3日のカンファレンスは大きすぎるということでした。参加者にとってカンファレンスの守備範囲が広すぎたのです。今年はカンファレンスを2つのパートに別けました。最初の2日はマネジメントとリーンにフォーカスし、残りの2日は技術/デリバリにフォーカスします。こうすることで参加者の集中力も上がり、さまざまな関心を持つ参加者の興味を引くと思います。
- また、今年はGuruPLoPも同じ場所で開催される予定です。これはパターンとプログラムのパターン言語についてのインドで初めて開催されるカンファレンスで、2013年の3月3日、4日に開催されます。
- 昨年はより集中できるワークショップに対する大きな需要がありました。なので、14のハンドオンワークショップを開催します。これらのワークショップはカンファレンス自体とは別に開催されます。
- 昨年は7つのトラックを異なるフロアで平行して進めました。その結果参加者は迷子になってしまいました。今年は4つのトラックを平行して進めます。また、オープンスペースで開催します。すべての部屋は同じフロアの中心地にあります。昨年よりも部屋は大きいので、座席に余裕があります。
- それぞれの日に650人から700人の参加者を予定しています。また、有料のワークショップに100人くらい参加すると思います。4日で1500人の参加者を見込んでいます。これは昨年のカンファレンスの2倍の参加者数です。
- 昨年と違い、今年はスポンサーのエリアはホールの中心の右側になります。食事も同じ場所で提供されますし、オープンスペースもその場所にあります。こうすることでスポンサーはカンファレンスの参加者とふれあうことができる多くの機会を獲得します。
- カンファレンスの各パートではディナーレセプションを開催します。参加者は他の参加者やスピーカーと知り合うことができます。
- 部屋のレイアウト以外は、ほとんどの参加者は前回のカンファレンスの開催場所を気に入ってくれました。今年はHotel Sheratonで開催します。新しい5つ星の高級ホテルです。昨年よりもいい場所ですよ。
参加者がいつまでも忘れない最高の経験をしてくれることを願っています。