最新の調査によれば、クラウドの導入の鍵を握っているのは開発者だ。Rackspaceは自身のサービスの魅力を高めようとしている。The Rackspace Developer Discountプログラムは、AWSとMicrosoftよりも簡単に利用開始できるようにするためのプログラムだ。
The Rackspace Developer Discountを使えば、新しいユーザは50ドル分の利用料を最大6ヶ月手に入れることができる。ユーザは50ドル分以上利用することもできるが、最初の50ドルは無料になるというわけだ。なぜこのようなプログラムを作ったのか。
The Developer Discountプログラムを使えば、情熱を持って追求したい開発対象をビルドし、配置する環境を簡単に手に入れられます。作るもの、作りたいものに関わらず、私たちはユーザの創造性を祝い、促進します。これが、Rackspaceが開発者の生活をより楽にすることに専念する理由です。それゆえ、オープンソースプロジェクトやコミュニティの支援に情熱を注いでいます。
ではRackspaceのクラウドで50ドルで何ができるのか。開発者は1GBのメモリとひとつの仮想CPUをを搭載したLinuxサーバを走らせ、残金でCloud Filesを使える。Cloud Filesの代わりに、Cloud Databasesサービスを使って小さなMySQLデータベースを利用することもできる。制限もある。まず、50ドルのディスカウントはアメリカとイギリスのデータセンターに配置したサービスにしか使えない。また、Cloud Sitesにホストしたサイトにしか使えない。
今年の夏、Microsoftも同じようなプログラムを発表し、Windows Azureでの開発とテストを促そうとしている(以前のInfoQの記事)。MicrosoftはあらゆるWindows Azureサービスで使える150ドル分のクレジットを提供するだけでなく、SQL ServerやBizTalk Serverのようなソフトウエアを実行する場合に大幅に値引きを受けられる。150ドル分のクレジットに有効期限はないが、利用するためにはMSDN開発者サブスクリプションに加入しなければならない。Microsoftは200ドル分のWindows Azure クレジットが使える1ヶ月の無料トライアルも提供しているが、これはMSDNアカウントを持っていない開発者のためのディスカウントだ。
クラウド市場をリードするAWSは少し異なるアプローチをしている。AWSの開発者が中心となるプログラムはFree Usage Tierを提供する。毎月、ある一定の計算能力を無料で提供する試みだ。事前に定義された閾値を超えなければ、完全に無料でサービスを使い続けられる。制限もある。EC2やS3のようなサービスの場合、この無料分は新しい顧客にのみに適用され、1年で有効期間が切れる。ElastiCacheやDynamoDBのようなサービスの無料分は既存の顧客にも提供され、有効期間はない。この無料分を使えば、開発者は次のようなことができる。
- マイクロのEC2インスタンスを完全に無料で利用できる。
- Simple Queue Service (SQS)へ100万リクエストを送ることができる。
- MySQLやSQL Serverデータベースを1ヶ月利用できる。
なぜ、どのプロバイダも開発者に着目するのか。GartnerのクラウドIaaS事業者についての2013年の調査によれば、この新興のクラウド市場を大幅にリードしているのはAWSだ。GartnerのアナリストLydia Leong氏のブログ記事によれば、他のクラウドベンダは、AWSクラウドをシステムの進むべき方向と見なしていないIT運用スタッフの意見を聞いていた。
IT運用は購買活動をコントロールし続けます。また、実装も比較的小さな規模で従来の企業向けの技術で行われます。AWSは従来の企業のIT運用スタッフを満足させられません。
しかし、氏によれば、開発者がIT運用をバイパスして購買者になり、ビジネス上の問題を簡単なクラウドサービスを使って自分たちで解決するようになった。
例えば、ある開発者がマネージャに“6週間あれば、X向けのコードが提供できます。でもIT運用が3週間以内にサーバを用意してくれなかったら、できません。” マネージャは“それは受け入れられない。そんなに長く待てない。”と言います。すると、開発者はため息をついて、“心配しないでください。なんとかします。”と言います。それで、IaaSプロバイダは新しい顧客を獲得することになります。これが、クラウドの“素早さ”なのです。
しかし、重要なのは、次の点です。すなわち、SaaSでは、購入者はIT部門を迂回して必要なサービスを手に入れますが、IaaSでも同じことが起きるということです。調達を行うのは開発者なのです。それゆえ、開発者がいつクラウドに移行し、どのクラウドをいつ使うのを決めるのです。
Gartnerの調査によれば、クラウド利用の2分の3はビジネスでの利用が占めており、このような状況が開発者がクラウドベンダの得意先になる下地を作っている。コンサルティング企業INGINEERING.ITのJeff Sussna氏は、この状況を、アジャイル開発が開発者とビジネス部門との関係を修復したことの明白な証明と見なしている。
でも誰が、IT部門のクレジットカードを握っていたのでしょう。もはや“恥を忍んで持っている”状態ではないはずです。長らくビジネス側は開発側をIT部門以下と見なしていました。何が変わったのでしょうか。開発者はビジネス側との関係を改善したのです。つまり、アジャイルが上手くいっているということです。スクラムか、XPかKanbanかというような細かい論点はあります。しかし、開発側がアジャイルをビジネスにとって価値あるものだと証明したというのは事実です。
それゆえ、Rackspaceのようなクラウドプロバイダは企業のクラウド導入の意思決定者となりつつある開発者を取り込もうとしている。氏は、IT運用担当は開発者と歩みをそろえないと無用な存在になってしまう、と警告する。
IT運用担当はGartnerの報告書とLydiaの分析を、警告として受け取るべきでしょう。IT運用担当とビジネスとの関係が改善されていないということです。インフラについての予算コントロールは彼らの手を離れつつあります。何も変わらなかったら、気がついたら予算が0になっていたということに成りかねません。