IBMはMobile World Congressで,IBM Watsonコグニティブ(認知)コンピューティング・プラットフォームを活用した,一般消費者およびビジネス向けモバイルアプリ開発コンテストの開催を発表した。
このIBM Watson Mobile Developer Challengeの勝者は,市場へのアクセス獲得に対して,IBMの設計コンサルティングとサポートを受けることができる。
IBM Watsonは,自然言語で問われた質問に回答することの可能なコンピュータシステムである。チューリングテストはまだパスしていないが,クイズ番組Jeopardy!では,それまで勝者だったBrad Rutter, Ken jennings両氏に勝利した。両氏は人間の対戦相手としてランダムに選ばれた訳ではない。Rutter氏は勝利数で,Jenning氏は74回という連続勝利数で,いずれもJeopardy!のレコード保持者なのだ。
WatsonのソフトウェアはJavaやC++, Prologなど,さまざまな言語で記述されている。基盤となっているのは分散コンピューティングのApache Hadoopフレームワーク,Apache UIMA(Unstructured Information Management Architecture, 非構造化情報管理アーキテクチャ)フレームワーク,IBMのDeepQAソフトウェア,そしてSUSE Linux Enterprise Server 11オペレーティングシステムだ。IBMによると,"自然言語の解析,ソースの特定,仮説の検索と生成,根拠の検索と採点,結合仮説の評価といった処理を行うために,100を越えるさまざまな技術が使われています"。
Watsonの基本動作原理は,キーワードを解析して手がかりをつかみ,関連事項を検索して応答する,というものだ。その大きな特長は,回答を得るために数千という証明済みの言語解析アルゴリズムを,並行かつ高速に実行可能な能力にある。個別に実行したアルゴリズムで検索した答に同じものが多ければ,Watsonはそれを正解の可能性がより高いと判断する。潜在的なソリューション数が不足した場合には,そのソリューションが適切なものかを確認するためにデータベースをチェックする能力も備えている。
IBMはコグニティブコンピューティングを3つの機能に帰着するものとして捉え,それぞれに対して次のようなサービスを提供する。
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Watson Discovery Advisor – 適切なデータ検索条件を自然言語処理によって支援するとともに,人間指向のコミュニケーションを提供することを目的とする。
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Watson Analytics – 高度な解析技術の習得を必要とせずに,視覚的表現を通したビッグデータの本質探求を可能にする。
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Watson Explorer – データ駆動による問題の本質発見と共有を,統一されたビューを通じて支援することを目的とする。
さらにIBMは,Watson Groupの設置という新たなステップで,Watson Development Cloudを通じてWatsonのテクノロジを開放しようとしている。Watsonの機能をRESTful APIを通じて提供することを目的としたこの行動により,サードパーティによるコグニティブアプリケーションの設計,開発,提供が可能になるのだ。
コグニティブコンピュータのフィールドで活躍する企業は他にもある。 会話中のトピックに対応してコンテントを動的に提示するMindMeldアプリを開発したExpect Labsは先日,Google Nowのようなサービスの開発を支援するという,自身のコグニティブ・プラットフォーム・アズ・ア・サービズをローンチした。Wolframは2009年,自然言語による問いを理解して,人が読める答を返すコンピュータ知識エンジンのWolfman Alphaをリリースしている。そして最後はGoogleだ。同社のエンジニアリングディレクタであるRay Kurzweil氏は先日のGardianとのインタビューで,Googleにとって自然言語処理がいかに重要であるか,ということを説明した。"IBMのWatsonは,ページ単位の読解力は極めて弱いものの,Wikipediaの2億ページを読み終えています。私は今Googleで,このWatsonの実行したことを超越して,Googleのスケールで行おうと試みているのです。"