Rachel Shannon-Solomon氏は、DevOpsへの準備ができている企業はほとんどないという。その一方でGene Kim氏は、生き残りを望む企業にとってその準備は必須だという。
Rachel Shannon-Solomon氏はWork-Bench社のベンチャー・アソシエイトで、最近ウォール・ストリート・ジャーナルにDevOps Is Great for Startups, but for Enterprises It Won’t Work—Yetと題された記事を寄せた。そこで彼女は、スタートアップにとってDevOpsは興味をそそるものだが、大企業がDevOpsを取り入れるまでの道筋には大きな障害があると主張している。GoogleやFacebookといった大きな会社がDevOpsを実践しその恩恵に預かっていることや、「フォーチュン500の企業や特に金融サービス会社」の中で「DevOpsのプラクティスをやりたいという機運が高まっている」ことを認めてはいるものの、「企業ITの中でDevOpsを実践してやろうという本物のチェンジ・エージェントは少ない」と述べているのだ。彼女がこの結論に行き着いたのは、「スタートアップの創設者たち、DevOpsソリューションを提供している現役技術者たち、大企業の中の技術者たちとの会話」に基づいている。
Shannon-Solomon氏は4つの論拠を示している。
サイロ構造と組織の変化。Shannon-Solomon氏によれば、企業がチーム間にサイロ構造を作るのは大きな組織はそうやって成果を最大限にしているからであり、DevOpsの主たる目的の1つはそのサイロを減らすことだからである。業務支援を他のベンダーに頼る大企業もあるが、そういったベンダーは「自分たちのサイロ度を持ち込みがち」だ。また「既存ソリューションの統合に大金を注ぎ込んで」から「DevOpsを促進するための全体的なソリューション」に投資するのでは企業にとっては高い買い物になってしまう。
買うか作るか。DevOps文化を成就するために必要とされるツールが不足している。ベンダー製のツールもあれば社内で作られるものもあるだろうが、そこに至るまでに長い時間を必要とする。「そういうツールを買ったり作ったりする以前に、長期に渡る企業の変化や構造改革が必須」なのだ。
DevOpsソリューションのベンダーは、企業に文化的な大革命を売るつもりで売るのだということを認識している。Shannon-Solomon氏によれば「DevOpsを開発チームに導入してもらうのは難しいことだ。なぜなら…」
ベンダーはまず開発者一人ひとりに対して、そのソリューションの効率性について口説き落とさなければなりません。たとえば、当初は購買を意図的に避け、サンドボックス環境を用意して直接開発者たちに試してもらうとかでです。(中略)
企業にDevOpsツールキットを売るということは、購買に至るまでの多くの課題や、買うより作るというマインドセットに直面することを意味するのです。
費用対効果。Shannon-Solomon氏は投資銀行に勤めるIT専門家の話を引用する。彼の会社は「自家製ツールを使っている各事業部門で起きるDevOpsプロジェクトをうまくトラッキングできておらず、プロジェクト成功の評価といえば事例アセスメントや目に見える成果に限られていた」という。
Shannon-Solomon氏は記事の結びに、「DevOpsを早く試さざるを得ないのだと企業が認めるまでにどのくらいの時間がかかるのか」と疑問を呈し、そして将来「大企業の中にもっと多くのチェンジ・エージェントたちが出てくるように」望んでいる。
また別のウォール・ストリート・ジャーナルのEnterprise DevOps Adoption Isn’t Mandatory — but Neither Is Survivalというタイトルの記事の中で、DevOps本の著者であり企業向けセキュリティ会社Tripwireの創設者であるGene Kim氏は「DevOpsへの転換はスタートアップだけでなくあらゆる業種や規模で順調に進行中である」とし、金融サービスからNationwide InsuranceやBNY Mellon Corp.、小売からはThe Gap Inc.やMacy’s Inc.、政府機関からは英国政府や米国土安全保障省を挙げている。大企業は困難にもかかわらずDevOpsを受け入れつつあるのだと彼が確信する理由は、「そのビジネス価値(中略)は我々が考える以上に大きい」ためであり、「IT部門を転換しない組織は、テクノロジーにおいてもっとも破壊的かつ革新的な時代の1つを逃すことで、取り残されるという危険を冒している」からだとしている。
Kim氏はDevOpsを導入する3つの理由を示している:
DevOpsのビジネス価値。Kim氏は「リーン原則をITのバリューストリームに至るまで実行した成果」としてのDevOpsのもたらす価値とリーンのそれとを比較している。彼の考えを裏付けるように、彼の行った4,039ものIT組織への調査は「驚くべき成果」を示している。
高いパフォーマンスを出しているところでは、8,000倍以上実行時間が早くなり、2倍以上の成功率で、うまくいっていなかった時と比べて問題の修正が12倍早くなったことで、本番リリースの頻度は8倍以上にもなっていました。
サバイバルは強制ではない(DevOpsを導入することも)。DevOpsには組織内での広範な変化を必要とすることを認めた上で、Kim氏はこれと1980年代の製造業におけるリーンの実践で必要とされた変化とを比較している。
1980年代のリーン革命をもう一度よく見てみましょう。この革命も、簡単なものではありませんでした。工場長や作業区の責任者だけでなく経営者にも、動機を変えることが必要とされました。作業区のサイロを取り除き、最高レベルの研修や職業訓練、そして生産単位ではなくフローに注目して労働力を統合することが必要でした。
彼はさらに「この冒険(リーンの導入)に乗り出すことを拒絶したり、始めたもののこの問題を解決するためのスキルや総意を持たなかった」企業は「もはや時代遅れ」と続けている。これはつまりDevOpsの準備ができていない企業は生き残れないとか、どんどん取り残されてしまうだろうと言っているのと同じだ。
DevOpsを取り入れている組織はそれによって収益を得ている。9,200人以上に対して行ったまた別の調査によれば、「DevOpsを使っているIT組織のパフォーマンスが良くなっただけでなく、さらに重要なことには、全体的なビジネスのパフォーマンスが上がっている」ということだ。
最後に、Shannon-Solomon氏がDevOpsを受け入れる準備のできている企業は少ないと見る一方、Kim氏は、どんなに大変なことだろうが大企業にとってDevOpsは将来生き残るための必要条件で、そこに選択の余地はないとしている。