継続的学習(Continuous learning)は,企業におけるアジャイル採用の支えとなる。継続的学習を実現し,それをサポートするためには,組織文化の変革を必要とする場合がある。 継続的学習の可能な文化を確立して育む上では,マネージャとアジャイルコーチにできることがいくつかある。
Dr.Dobbの記事 "Where Is the Learning in Agile"の中でPollyanna Pixton氏は,アジャイルチームにとって継続的学習が重要な理由を説明している。
学習の文化がなければ,責任を逃れようとする文化が幅を利かせるようになります。それは,次のことばに要約される考え方です。“私のせいじゃない。アジャイルメソッドが駄目なんだ。” このようなことばを,私はこれまで,何度となく耳にしました。しかしながら,もしもあるプロセスがうまくいかなくでも,成功のために何を変えなくてはならないのかをそこから学び,それを起こすための集団所有権を備えることが必要なのです。
マネージャとアジャイルコーチは,チームが学習できるような組織文化と環境のために力を尽くさなくてはならない,と氏は言う。
自己組織化チームにはリーダを必要としない,という意見を耳にすることがあります。私の経験から言うと,これは当てはまりません。学習,信頼,所有の文化を作り出すためには,リーダが必要です。アジャイルは失敗からの学習,顧客満足のためのリスク負担,ユーザとビジネスに対するソフトウェアの価値の理解などに依存しているのです。
コンサルタントを利用するのもよいでしょう。彼らはチームのアジャイルメソッド体験を積極的に後押ししてくれます。ですが,チームがどのように学び,適応するかを教えることでチームの自立を支援するという,コーチの役割も忘れてはなりません。
Daniel Mezick氏は,自身のブログ記事 "Agile Coaching Values Explained" の中で,アジャイルコーチングの4つの価値と,それらと関連し,サポートする8つの原則について説明している。コーチングの価値に挙げられたもののひとつが,”リスク回避を克服するチャンピオン学習(Championing Learning)“ だ。
継続的学習は既存の文化を危うくします。長く続いてきた仮定を失うことは,学習の安定性に重きを置いてきた組織においては,リスクとなる可能性があるのです。アジャイルコーチは,彼らの所属する組織において,継続的学習を受容する能力の構築を重視します。真の組織学習における数多くのリスクをユーザが特定し,予想し,管理していくように支援することも,この中のひとつです。
Paul Boston氏がブログ記事 "Are You a Leader Who Nurtures Performance Excellence" で説明しているとおり,継続的学習の文化を生み出すことが重要なのだ。
公式および非公式の学習が奨励される文化を持つことは,社員のエンゲージメントとパフォーマンスを大幅に向上させます。人的パフォーマンス組織内のリーダにとっては,チーム内の卓越性を助長すること,学習をパフォーマンスとしての結果に結び付けることが重要になるのです。
ブログ記事 "Key Element of a Learning Culture" ではStephen Gill氏が,学習文化についての自身の定義を示している。
“学習文化”とは,組織の目標を達成するために,新たな知識,新たなスキル,そして知識とスキルの新たな適用を通じて,パフォーマンスの向上を継続的かつ集合的に追求する,労働者のコミュニティです。学習の文化は質問の文化です。作業する者がユーザや彼ら自身,その他の利害関係者のために行っていることの目的や品質についての質問を,不安なく発することができる環境なのです。
氏は学習文化にとって重要な社会的要素を,リストとして挙げている。
- 信頼の構築
- 積極的なリスク負担
- コミュニケーション
- 利害関係者の関与
- フィードバックとリフレクションの許容
- 社会的学習のサポート
Jeff Plummer氏によるInfoQの記事 "Creating a Culture of Learning and Innovation"では,技術組織におけるトレーニングと教育のためのボトムアップのイニシアティブに関するケーススタディを取り上げている。
発想は単純です。技術者たちに,自分が面白いと思うコンセプトについて,他の人たちに説明してもらうのです。お金を稼ぐプロジェクトからメンバを離脱させる一方で,専門的なトレーニングのためにビジネスディレクタに何千ドルの出費にサインしてもらうのは,どんな時でも至難の業です(...)。そうではなく,機械学習のバックグランドを持っている仲間の技術者に “弁当持参(brown bag)”のランチミーティングで類似性分類器(similarity classifier)について教えてもらえれば,ハードルはずっと低くなります。会社にいる人たちはすでに,非常にたくさんの知識を持っているのです - 必要なのは,それを共有することです。
トレーニングには“ブラウンバック・ランチセッション”と“ディープダイブ”という,2つのフォーマットが使用された。氏は,チャンピオンをトレーニングすることが,継続的学習を組織文化の一部として確立するためにいかに有用か,という点を説明する。
チャンピオンとは,コンセプトを心の底から支持して,その活動の勢いを持続するため,ブラウンランチ・セミナへの参加者を最後の最後まで集めようとする,そんな人たちのことです。講演をする仲間たちを強く奨励し,トレーニングのイニシアティブを進めるために他のメンバを激励する,そんな人たちでもあります。文化の変革を起こすことができるのは,このような少数の人たちです。
Allison Pollard氏は,学習する組織を作り上げることに関するオープンスペースセッションの要約を書いている。その中で氏は,組織がアジャイルを採用しようとする時,学習が重要な理由について説明している。
組織が学習能力を高めるほど,その消滅する可能性は低くなります。ビジネスの変化が拡大するにつれ,競争力を維持するための学習の必要性は高まっています。
氏は学習組織を安全に生み出す方法として,いくつかのアイデアを提案する。
- “選択肢”を導入する – 次に何をするかについて,複数のアイデアをブレインストームする。現状維持というのも選択肢のひとつだ。
- “実験”であることの確認する – 決定が恒久的ではないことを強調するため。一定期間何かを試して,それを評価することによって学ぶのだ。
- 学習グループを創設する – 実践のコミュニティや読書クラブから学習の輪を拡大する。
- 失敗を歓迎する – 間違いを犯すことは学習の一部とし,間違いが重要であることを認識する。
- データを収集する – 現在の状況を観察し,分析する。何を変えるか,何を改善するかを判断するには,今何が起きているかを理解することが重要だ。
- 発見の目に見えるサポートを示す – 革新的な思考を促進するために,ハッカソンを開催したり,Googleの20%ルールやFedEx Daysを導入する。
読者はどのようにして継続的学習の文化を確立し,育てるだろうか?