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方針管理を用いたアジャイルのスケーリング

原文(投稿日:2014/11/24)へのリンク

企業がアジャイルのスケーリングを図るとき,戦略定義や方向性の管理,体制維持のためにアジャイル的な手法を求める場合がある。展開と組織構造の維持が今日の課題だ,とPierre Neis氏は指摘する。氏はLean Kanban France 2014カンファレンスで,世界的規模の企業がアジャイルに移行する上で,方針管理(Hoshin Kanri)の導入が果たした役割について講演を行った。その時のスライド資料は,氏のWebサイト"It's not lean, it's agile at scale... the Hoshin Kanri way"に公開されている。

InfoQは氏にインタビューして,方針管理による戦略と方向性の管理,アジャイル計画,方針管理によるアジャイル展開とリーンプラクティス,説明責任,方針管理の採用によるメリットなどについて聞いた。

InfoQ:企業がアジャイルを拡大しようとするとき,あなたがこれまで見てきた問題をいくつか教えて頂けますか?

Pierre: 組織全体として直面する一番大きな問題は,サイロのマトリックスからフラットなものへという,パラダイムの転換を受け入れることですね。もはや自分たちには役割がない,ということを概ね理解している中間管理層に対して,その解決策を見付けることが最大の課題になります。

InfoQ: 方針管理を使って共通の目標に注目し,それを実現する方法を探してほしい,ということですが,アジャイルをスケールする上で,これをどのように使ったのですか?

Pierre: その通り, 方針管理を使うことで,すべての人々をひとつの目標,すなわち企業戦略に向かわせることが可能になります。リーン方式で言う,"全体を見る"ということですね。これは基本理念であって,IT部門などの外部権力の影響を削ぐための主要な手段なのです。

大規模なアジャイルにおいては,その組織の特質や,共有する目標に対する相互責任が重視されます。ここにおいてメソッドやフレームワークは,この目標,すわなち組織の共通目標を伝えるための,単なるツールに過ぎません。

私としては,アジャイルHK(Hoshin Kanri, 方針管理)を柔軟かつ厳格なバウンダリとして可能な限り高いレベルに維持して,すべての人たちがその場所を見出せるようにしようと努めています。組織を損なうことなく継続的な改善(Kaizen, PDCA)を促進する上では,このようなソフトなアプローチが有効なのです。正直に言えば,私はスプリントのダイナミックビートのように,スクラムの <<パーティション>>を担っているのです。

InfoQ: 方針管理の中心的なテーマは計画です。アジャイルマニフェストでは,計画の遵守よりも変化への対応を重視していますから,これには潜在的な矛盾があるように思えます。方針管理に異を唱える人たちも,そう思っているのではないでしょうか?

Pierre: イエスであって,ノーでもあります。アジャイルではおそらく,計画の遵守よりも立案が好まれていると思います。ですが一方では,PDCAの<<P>>もアジャイルの一部ですよね?計画をせずにアジャイル開発をしてみてください,とんでもないことになりますよ。

ここでの課題は,計画に意味を持たせることです。計画の段階で80%の予算/リソースを消費していたのでは,期待されているアウトプットが計画そのものである場合を除けば,ユーザの求める価値を提供できなかった,ということになります。

HKへの抵抗,それもあるでしょう。問題なのは,あなたがどうするか,です。アジャイルの場合のように,もしそれを万能の対策であるかのように定義した上で,それを押し付けて実現しようとすれば,抵抗勢力と一戦交えることになるでしょう。HKを単なるコミュニケーションの手段として使用すれば,机上ではなくチームレベルでの<<協力する姿勢>>が形成されて,コンセンサスは<<GO>>になり,新たなリズムが刻まれることになります。Webのドキュメントや書籍を見て,HKをごく簡単に思うこともあるでしょう。その一方で,企業やチームにアジャイルを導入しているコーチと議論すれば,彼らは私のカンファレンスで説明したのと同じようなテクニックを使っていることが分かります。VisonなどのTrue North,A3あるいはAgile Strategy Map,連帯のための<<キャッチボール>>ワークショップ,カイゼンのためのレトロスペクティブなどです。計画は結果なのであって,プロセスではないのです。

InfoQ: 組織内にアジャイルとリーンプラクティスを展開し,それらの運用を統一化させる上で,方針管理に基づいた概念をどのように利用したのか,例を挙げて頂けますか?

Pierre: 2つご紹介しましょう。

  • 最初の商社では,新しいCEOがマネージャに対して,将来に向けた組織の構築を指示していました。ここではアジャイルHKやアジャイル,あるいはどのようなメソッドにも意味がありません。取り組みとソリューションだけが目標なのです。私たちはまず,マネージャたちとワークショップを開始して,真の目標を定義しました。その上で,すぐに実行可能なソリューションを得るため,CEOとのギャップを彼らと共に測りました。ソリューションが得られた後は,サービスジャムの手法を用いて新しい組織をデザインし,以前と同じオペレーションでそれをテストしました。最初のショットに2日間を必要とした後は,1ヶ月に1~2時間のレトロスペクティブを行っています。ここでのHKは変更記録の一部であって,同時性のためのみに使用されています。
  • 第2の例は,最初のものに似ていますが,現在も進行中です。当初のHKワークショップの目的は,組織とユーザの間のコミュニケーションの促進という,IT部門の目標の再確認を支援することでした。各部門が4時間の作業を行い,True NorthとA3モデルを提示しました。マネージャ,一般社員を含むすべての部門に対して,システムの確立と変更に対する発言権が与えられました。私のチームはメンバの合意と,組織のバリューストリームの修正に,2回の会合を必要としました。その結果としてコスト中心ではなく,提供する製品に基づいて,組織を完全に再編成することができたのです。

InfoQ: 方針管理では,自分自身の担当部分について計画達成に責任を持つ,ということが挙げられています。これは自己組織化と矛盾しないのでしょうか?

Pierre: そうは思いません。私たちはすべて,実行責任と説明責任を負っているのです。アジャイルコーチとして私は,自分の書き下した文書には責任を持ち続けてきましたが,アジャイルに対する関心と矛盾していますか?そんなことはないですよね!

私の理解する自己組織化とは,簡単に言えば<<人を大人として扱う>>ということだと考えています。それを行うのが責任を持つということならば,アジャイルにおいて重要なことです。

豚とニワトリの話を思い出してください。アジャイル組織とは豚小屋のようなもので,誰のテーブルにもそのベーコンが置かれています。自己組織化から言えば,そう,原因はすべて私たちにあります。私たちは意見を求められ,情報を与えられて,すべての責任を負うのです。HKの方法では,<<サーバントリーダ>>は組織のためのアライメント<<デバイス>>としてHKを使用する上で責任を負う,とされています。

InfoQ: 組織がアジャイルを拡張する上で,方針管理を使用するメリットはどのようなものなのでしょうか?

Pierre: HKはとてもシンプルですから,ITやIT開発の心得のない組織でも,アプローチの目的は簡単に理解できます。現状のビジネスケースや,時間を浪費する予算編成作業を変える,クールなツールなのです。

Gemba(作業現場)をウォーキングするのは,組織を試すよいテストになります。私はよく清掃員に,企業の目的を尋ねます。彼あるいは彼女がそれを知らなければ,ガバナンスに問題があります。

アジャイルの拡張で非常に役立つのが,HKがアジャイルと同じ組織DNAを持っているという点です。

InfoQ: 方針管理について詳しく知るには,どこへ行けばよいのでしょうか?

Pierre: 次のようなリソースを見ることをお勧めします。

  • "Getting the Right Things Done" Pascal Dennis (主なトピック: リーン思考,システム思考,パラダイム転換,A3)
  • "Implementing Beyond Budgeting" Bjarte Bogsnes (主なトピック: システム思考,パラダイム転換,アジャイル)
  • "Hoshin Kanri for the Lean Enterprise" Thomas L. Jackson (主なトピック: TQM,カイゼン,PDCA,A3)

ここに挙げた順番は,私の考えるHKへのアプローチ - 考え方,ツール - を示す意図があります。

方針管理についてもっと詳しく学びたいInfoQ読者のみなさんは,私のブログ記事 "It's not lean, it's agile at scale... the Hoshin Kanri way"の末尾にある参考文献のリストを参照してください。

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