企業レベルのアジャイル転換では,どのような組織であっても,さまざまな部署で仕事の仕方を変えなければならないことがある。PMO(Project Management Office)があるのなら,それも例外ではない。アジャイルチームをサポートするためには,従来のPMOの役割を変えることが必要だ。エキスパート級のアジャイルプロジェクトマネージャでコンサルタント,自身の著書もあるCharles G. “Chuck” Cobb氏が先日,アジャイルPMOの役割に関する自身の見解を公表した。
InfoQでは,アジャイル組織におけるPMOの役割について,氏にインタビューした。
InfoQ: アジャイル組織のPMOにとって,最も重要な責務は何でしょう?
その質問には,“アジャイル”組織とは何か,という,明確に定義されたモデルの存在が前提にありますが,私はそういったものがあるとは思っていません。多くの異なる特徴を持った,さまざまな種類の組織が,幅広く存在しています。その中で,“アジャイル”組織とは何かという,標準的な定義があるとは思えないのです。
“アジャイル”と“ウォーターフォール”という,相互排他的な二者択一の選択が存在するという誤解が,極めて広範に行き渡っていることから,この両極端のいずれかをビジネスやプロジェクトに無理やり適用しようとする組織が後を絶ちません。適切なソリューションは,ビジネスのアプローチに合わせたものです。そのためには,2つのアプローチをブレンドする必要があります。そのような理由から,“アジャイル組織”とは何であるか,その中でPMOはどのような仕事(があるならば)をする役割なのかという,標準的モデルというものは存在しないのです。
一般論として組織のPMOには,投資に対するプロジェクトのポートフォリオからの収益を最大化する,という責務があります。PMOはこれを,次のような方法で行うのです。
- ビジネスに対して,最高レベルの収益を提供できると思われるプロジェクトのポートフォリオを選択するための,プロジェクトポートフォリオ管理プロセスの促進。ここでのPMOの役割は円滑化にあります。すなわち,このプロセスにおける真の意思決定者は,ビジネススポンサなのです。
- プロジェクトが目標達成のための正しい軌道にいることを確認するための,プロジェクト進捗の管理と報告の中心的な役割。PMOのこの役割は,費用やスケジュール目標に対する進捗を確認する場合に,しばしば強調されます。
- プロジェクト管理プロセスの標準化と強化による,十分なプロジェクト管理の実施と,企業のビジネス目標への一致性の確保。
- 一般論として,組織がアジャイルの方向に向かえば向かう程,PMOの役割(PMOが存在していれば)には次のような変化が見られます。
- ポートフォリオ管理のプロセスがよりダイナミックになると同時に,PMOよりもビジネス組織が,その管理により直接的な役割を果たすようになります。
- PMOは引き続き,プロジェクトデータ報告において重要な役割を果たすかも知れませんが,適切なプロジェクトツールの導入により,その役割も完全に排除されることになります。代わってプロジェクトチーム自身が,自身の進捗の確認と報告を行うようになります。プロジェクト管理の重点もまた,コストやスケジュールの管理といったものから,具体的なビジネス価値の提供へと移っていくでしょう。
- PMOの,プロジェクトプロセスのコントロールを強調した“プロセス執行者”としての面が少なくなり,代わってプロセスチームのパフォーマンスを最大化する,コンサルタント的なサポートの役割が拡大します。
InfoQ: PMO組織の,よりアダプティブなバージョンについて話がありましたが,この件をもう少し説明してください。従来のPMOとはどのように違うのでしょう?
“アジャイル”組織とアダプティブな組織,従来型の組織との間には,黒と白といった区別はありません。非常に計画駆動型なものから非常にアダプティブなものまで,両極端の組織の間には,もっと連続的なスペクトルがあるのです。
InfoQ: PMOにとってアジャイルの価値観とは,どれほど重要なものなのでしょう?
組織全体に一貫した価値体系があって,PMOもそれを共有しているのであれば,それが理想的です。PMOは組織のマネジメント側の代表なのですから,組織の価値をモデル化することがPMOにとって特に重要である,とも言えるでしょう。
InfoQ: PMOがプロダクトオーナと緊密に作業するには,どのようにすればよいのでしょう?
プロダクトオーナはビジネススポンサの代役であり,事業の方向性を決定します。一般的にはそのような関連で,PMOが直接的な役割を果たすことはありません。PMOは,プロダクトオーナを含むアジャイルチームに対して,そのパフォーマンスを最大にするためのトレーニングやコーチング,メンタリングを提供する上で,サポート的な役割を果たすことになると思います。