Jeff Sutherland氏がGOTO Amsterdam 2015カンファレンスで,アジャイルのリーダシップについて講演を行った。InfoQは氏にインタビューして,スクラムを導入しようとする大規模組織が抱える問題について聞いた。組織の障害に対処する能力を向上し,アジャイルリーダシップを改善するにはどうすればよいのか,アジャイルに移行しようとするチームを支援する上で,スクラムマスタには何ができるのだろうか。氏はまた,組織がスクラムを導入する上での,マネージャに対するアドバイスも語ってくれた。
InfoQ: 大規模な組織がスクラムを導入しようとする場合に見られる問題には,どのようなものがあるのでしょう?
Sutherland: 大きな問題がいくつもあるのですが,突き詰めればひとつの問題になります。アジャイルを実現するにはリーダシップが必要です。チームをサポートし,障害を取り除き,組織のアジャイル化をコーチしなくてはなりません。このような訓練を受けて,その能力を持っているマネージャはごく少数です。多くの企業は,アジャイルを持った競合相手によって駆逐されることになるでしょう。
InfoQ: “フレームワークのスケールアップは,多くの場合,従来型組織が発展するまでの足場として利用される”,という発言がありましたが,この意味について詳しく説明して頂けますか?
Sutherland: Kotter教授のハーバード大学での論文を読んでみてください。教授は企業に対して,異なるルール,異なる管理方法,異なる作業方法の2つの異なるオペレーティングシステムを実行しているという理解が必要だ,と説いています。古い管理階層を一掃することはできません。これはWindowsのようなものです。 競争力のある新製品を開発する手法として,彼らにはアジャイルが必要です。これはMacのようなものです。
企業は,現在の管理階層(Windows)の上に,新しいアジャイルのオペレーティングシステム(Mac)を実行したいと願っています。WindowsのプロシージャコールをMacに対応させるため,彼らは翻訳層(SAFe)を導入します。機能が遅くなり,見た目もよくありませんが,本当のアジャイルリーダシップを取得する方法をマネジメントが見つけ出すまでは,それで何とか持ちこたえるのです。
これは最善の方法ではありません。Kenと私が書籍“Software in 30 Days”に書いたように,古いウォーターフォール的ナンセンスを排除して真のアジャイルリーダシップを備えた推進チーム(Center of Excellence, COE)を置いて,そこで本当のスクラムを実践すべきです。これは企業にとって,最大の推進力になるでしょう。
InfoQ: 大企業のスクラム導入がますます多くなり,スケールアップのニーズも高まっていますが,企業がスクラムをスケールアップするにあたって,何かアドバイスはありますか?
Sutherland: スクラムは生物学的なシステムのように,成長するようにデザインされています。ベビーを生み出すためには,複製する優れた細胞が必要です。その細胞が悪ければ,多くの問題を抱えることになります。ですから課題は,ひとつのチームで成功を収めて,それを他チームのモデルとすることです。その後で,それを複製すればよいのです。企業が成長しても,スクラムはそれぞれの規模で,小さかった時と同じ基本原理に従います。 もしそうでなければ,システムに無駄が入り込んでいます。人間の体と同じような組織系を作り上げるのです。それぞれが専門分野を持つと同時に,問題点があればシニアマネジメントまで報告する,パフォーマンスを損なう可能性のある不必要なチームの導入を阻止する,組織全体としてスクラムを組むといった,チームの枠を越えた連携を処理する方法の訓練も必要です。
私たちは,適切にスケールアップされたスクラムが,全体的速度において線形的な増加を示すことを,いくつかの論文で発表しています。ただし,これを実現するためには,スクラムを正しく行う必要があるのです。
InfoQ: 組織はチームの障害に対処して,チームがそれらを解決可能な組織のレベルに向上することを確実にする必要がある,と話されていましたが,組織が自らの障害処理能力を向上させる方法について,例をあげて頂くことは可能ですか?
Sutherland: 高度なリーダシップを備えたエグゼクティブアクションチーム(EAT)が必要です。例えばJohn Deere(訳注:米国の農業機械のブランド名)では,EATがすべてのスクラムマスタに対して,3スプリント毎に少なくともひとつの障害を最上位レベルまで報告しなければ,スクラムマスタを交代すると定めています。これによって同社は,農業機械の分野で800%の生産性改善を実現しているのです。
InfoQ: 大規模なスケールにおいて,アジャイルのリーダシップが重要な役割を果たすと言われていましたが,それはなぜか,組織がリーダシップを改善するにはどうすればよいのか,説明して頂けますか?
Sutherland: リーダはアジャイルコーチになる必要があります。彼らの大部分は,これを意識したこともないので,とても驚きます。そして手遅れになるまで,彼らの会社がNokiaのように死に至るまで,結局は何もしないのです。
InfoQ: チームがアジャイルになるために,スクラムマスタはどのような支援ができると思いますか?
Sutherland: アグレッシブなスクラムを実現することですね。 本当に結果の得られる,本物のスクラムはこれです。ほとんどの企業が導入しているような,生半可なスクラムとは違います。スプリントの終わりに動作する製品を得られないスクラムは失敗です。シリコンバレーの大規模スクラムの80%は,このカテゴリに入ります。彼らは”名ばかりのアジャイル”です。
InfoQ: スクラムを実施しようとしている組織のマネージャに対して,どのようなアドバイスを与えたいと思いますか?
Sutherland: 適切なトレーニングを選択して,専門のコーチのもとでチームをローンチし,組織内のコーチング能力を育てることです。これをアジャイルの推進チームで,アジャイルのリーダシップの下,古いウォーターフォールのルールや規則に縛られずに実行してください。第2に,実装状況を一定周期で測るための測定基準を開発してください。コーチにとって最も重要な測定基準は,バグフィックスに要する時間(24時間未満であること)と,ストーリの処理効率(実作業時間/カレンダ時間が50%以上であること)の2つです。これらの基準値はいずれも,チームのベロシティの倍増を実現します。 両方合わせれば,全チームのベロシティが400%向上するのです。測定基準の詳細については,私たちがIEEEライブラリで発表した論文がscruminc.comから無償でダウンロードできます。