6月15日にMicrosoftは,同社のクラウドコンピューティングプラットフォームであるAzureを使用したオープン・ブロックチェーン・プラットフォームに関するビジョンを発表した。Microsoftはこの活動をProject Bletchleyと呼んで,“Enterprise Consortium Blockchain Ecosystem”構築に向け,アーキテクチャ上のビルディングブロックの提供を目指す。今回の発表は,2015年11月の Azure Blockchain as a Service (BaaS)の発表に続くものだ。
大規模金融サービスなどユーザ企業からの要望に基づいて,Microsoftは,トランザクションを分散型ディジタル情報として記録可能なオープンプラットフォーム構築に取り組んでいる。この方法は,暗号化によるトランザクション保護が可能であることから,不正防止に有効だと考えられている。
ユーザによる採用を促進するためMicrosoftは,ユーザが克服しようとするアーキテクチャ上の課題に取り組むべく,Project Bletchleyを立ち上げた。同社でビジネス開発および戦略のディレクタを務めるMarley Gray氏が,次のように説明する。
私たちは,企業がブロックチェーンを導入する上で必要となる,プラットフォームの基本的な原則や機能,性能に関して,多くのことを学びました。Project Bletchleyは,この成果を活用するために始められました。オープンでモジュール化されたブロックチェーンファブリックによって,MicrosoftのビジョンをAzure上で具現化するとともに,エンタープライズブロックチェーンアーキテクチャにおいて鍵になるものと私たちが考えている,新たな要素に注目しています。
Microsoftが取り組んでいるテーマは次のようなものだ。
- プラットフォームのオープン性は必要条件である。
- アイデンティティ,鍵管理,プライバシ,セキュリティ,運用管理や相互運用性などの機能を統合する必要がある。
- パフォーマンス,スケール,サポート,安定性が重要である。
- コンソーシアムメンバのみが契約を実行可能なネットワークの,メンバ専用のコンソーシアムブロックチェーンが理想である。
Project Bletchleyは,ブロックチェーンミドルウェアとクリプトレット(cryptlet)という,2つの中心的な概念を持っている。
ブロックチェーンミドルウェアは,次のようなコア機能を提供する。
- Identity and Certificate Servicesは,Azure Active DirectoryとKey Vauldを利用して,認証,許可,キーの発行,ストレージアクセスとライフサイクル管理などの機能を提供する。
- Encryption Servicesは,ブロックチェーントランザクションのペイロードの一部,あるいはフィールドレベルの暗号化機能を提供する。これにより,特定の取引相手を意図したデータが,その対象者によってのみ確認可能であることが保証される。
- Blockchain Gateway Servicesは,関係性を持つ分散型台帳(distributed ledger)同士が,Interledger的なサービスを使って相互に通信を行なうための機能を提供する。
- Data Servicesは,分散型ファイルシステム(IPFS, Storj)上の公開鍵によって参照されるオフチェーンデータを扱うデータサービスと,マシンラーニングや利害関係者および規制当局への報告などの分析サービスを提供する。
- Management and Operationsは,企業を越えた分散型台帳のプロビジョニングと管理をするためのツーリングである。
https://github.com/Azure/azure-blockchain-projects/blob/master/bletchley/bletchley-whitepaper.md より引用
ブロックチェーン 1.0および2.0の実装では,ブロックチェーンに外部データやイベントを統合する場合には,オラクル(Oracleとの混同に注意)が必要となる。Gray氏はBletchleyのホワイトペーパの中で,このアプローチに関していくつかの懸念をあげている。
“オラクルデータを安全に提供するための標準的な方法がないことが,マルチパーティのSmartContractですぐに問題になるかも知れません。SmartContractあるいはブロックチェーン外のコードやデータの呼び出しは,一般的に信頼性のバリアを破壊し,従属するトランザクションの正当性を脅かすことになります。クリプトレットはこのための機能を提供するものです。”
クリプトレットは,他のユーザやオープンソース,あるいはAzureサービスとのセキュアな相互運用性を提供する。Gray氏はこれについても説明している。
“クリプトレットは日付や時刻など,追加情報のトランザクション実行が必要な場合に機能します。高度なブロックチェーンシステムの重要コンポーネントとして,あらゆるテクノロジのセキュアかつスケーラブルな動作を可能にするものです。”
クリプトレットは任意のプログラム言語で記述可能で,VMなどの信頼されたコンテナ内で,セキュアなチャネルを使用して動作する。サービスとして動作するため,Azure,Azure Stack,AWS,Googleの他,プライベートクラウドでも運用することができる。さらにCryptoDelegateあるいはアダプタを介することで,SmartContractやUTXOシステムでも使用可能である。
https://github.com/Azure/azure-blockchain-projects/blob/master/bletchley/bletchley-whitepaper.mdより引用
7月12日から16日まで開催されるWorld Partner Conference in Torontoでは,Project Bletchleyに関するさらに詳しい情報がMicrosoftから提供される予定だ。
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