SamsungがパブリッククラウドプロバイダのJoyentを傘下に収めた。コンテナネイティブなクラウドプラットフォームと自らを位置付けている企業だ。今回の買収でSamsungは,クラウドにおける当面の存在感を確保すると同時に,同社のコンシューマ向けデバイスをサポートする統合型バックエンドプラットフォーム構築の可能性を手に入れた。一方のJoyentとしては,自らのサービスのリーチを拡大するための投資がSamsungから得られるならば,急成長への可能性を得たことになる。Forbesが指摘するように,両社にとって最大の潜在的魅力は,モノのインターネット(Internet of Things / IoT)におけるエンド・ツー・エンドのエクスペリエンスを提供する能力が手に入ることにある。“IoTはSamsungの戦略の中心として期待されている分野”なのだ。
WiredはJoyentを‘クラウドコンピューティング最大の謎’と表現した。AWSやAzureといった,メッセージキューからデータベースまでのスタック全体を提供するマーケットリーダと比較すると,同社のプラットフォームサービスは範囲が狭く,ストレージとコンピューティングに限られている。しかしながら,このコンピューティングスタックに同社の差別化要因があるのだ。Joyentのクラウド上では,LinuxベースのVMやコンテナ,あるいはサーバレスの計算関数を実行することができる。これらはすべて同社のオープンソースであるTriton DataCenterソフトウェア上で,中間的な仮想化レイヤを必要とせず,直接動作する。
コンテナ単位の課金モデルによるDockerサポートなど,Joyentのフレキシブルなコンピューティングサービスを評価するユーザにとって,Samsungによる買収は同社のクラウドを拡張する機会となるはずだ。同社のサービスは現在,米国の3つと欧州の1つ,計4つのデータセンタで稼働している。JoyentのCEOであるScott Hammond氏の語る拡張の目標は,“世界中にデータセンタを構築したい”という,いたってクリアなものだ。
これらデータセンタはすべて,Solarisをベースとした,同社のプロプライエタリだがオープンソースでもあるSmartOSの稼働するマシンで満たされている。LinuxディストリビューションではなくSolarisを選択したのには,Joyentの技術的な歴史が関わっている - 同社チームの多くが,かつてSun Microsystemsで働いていたのだ。SolarisにはSolaris Zonesという,Dockerのほぼ10年前に誕生したコンテナ化テクノロジが搭載されている。コンテナネイティブなクラウドサービスは,同社CTOのBryan Cantrill氏が述べているように,“クラウドという場所は適切だったが,今となって考えれば時期尚早であった”とは言え,Joyentからの変わらぬ提案でもあった。
コンテナ・アズ・ア・サービスは,大規模なサービスを効率よく提供することができる。これはまさにIoTにおいて,サービス側で必要とされる特徴だ。IoTの実現にはまだ時間が必要かも知れないが,Samsung/Joyentのパートナシップはその中で極めて有利な位置に立っていると言える。Samsungにはすでに,ハードウェアモジュールとクラウドサービスを組み合わせたArtikプログラムがあるが,現時点ではバックエンドにAWSを使用している。今回の買収でSamsungはバックエンドをJoyentに移行して,アンカーテナントに同社のサービスを提供することによって,Amazonへの依存性を排除することができる。
クライアントのソフトウェアスタックを集中化することも可能になる。現在のArtikモジュールは,Fedora, C++, Javaなどさまざまなオペレーティングシステムと開発プラットフォームで動作するため,Artikに基づいた一連のデバイスを開発しようとすると,モジュールのタイプによって,ソフトウェアの複数のフォークが必要な場合がある。JoyentはNode.jsに関して長い経験を持つ(Node.js Foundationが設立されるまで同プロジェクトの管理を担当していた)ことから,同社がArtik開発プラットフォームをNode.js上に構築するのは理に適った選択だ。
451 ResearchのAndrew Reichman氏は,Samsungの最終目的地が,エンド・ツー・エンドのプロダクトスタックと自身のデータのコントロールにあることを示唆している。“彼らは自分たちの将来が,デバイスの製造によってではなく,デバイスのネットワーク接続とその使用状況の分析,コンテンツの提供によって定義されることを目指しているのです。”
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