Scott Staples氏は,グローバルITサービス企業Mindtreeの共同創設者で,同社の社長を務める米国人である。その氏が“Agile is Dead”という見出し記事への返答として,なぜアジャイル開発プラクティスは今も健在で有効なのか,“アジャイル”が目標でなく,その成果に注目すべきなのはなぜか,多くの企業がアジャイル実現に苦労している理由は何か,アジャイルの次には何が来るのか,といったことを説明した。
なぜアジャイルに注目しなければならないのでしょう?もう時代遅れなのではないのですか?
アジャイルを話題にする場合, ほとんどの人が思い浮かべているのはスクラムです。スクラムは比較的簡単な上,企業のアプリケーション開発全体の向上をさまざまな方法で支援します。しかし,毎日のスタンドアップや2週単位のスプリントが本当のアジャイルなのではありません。 短期的なメリットはいくつかありますし,ITチームが役員たちにアジャイルを実践していると報告するにはよいでしょう。しかしこれは誤った達成感です。最大のテーマは真のアジャイルを採用することにあります。継続的デリバリの境地に達するのは文化的な変化なのです。ここ問題になるのは,生産性の低下を招いてきた組織の基本構造を変えなくても,アジャイルを採用すれば素晴らしい生産性向上が達成できる,と多くの人たちが考えていることです。“アジャイル”という言葉を使うのはもう止めて,成果に注目すべき時に来ているのです。どのような企業であっても,市場シェアの向上やコスト削減の達成を目指している点では変わりありません。そのために必要なのはアジャイルソフトウェア開発ではなく,“組織的なアジリティ”です。ですから本当の問題は,組織全体を転換するアジャイルを構築する方法なのです。
アジャイル採用のほとんどが失敗しているのはなぜでしょう?
アジャイルは魔法ではありません。ですが“アジャイル”という言葉を唱えるだけで,魔法が起きると考えている人がたくさんいます。現実は,アジャイルに秀でた企業の大部分が,創立当初からアジャイルで育ってきた企業なのです。彼らは継続的改善の文化を身に付けていると同時に,IT部門とビジネス部門が最初から同じ考えを持っています。極めてフラットな組織構造を作り上げて,コラボレーション,イノベーション,エンパワーメントといった文化を育んでいるのです。アジャイルの文化は,失敗を受け入れる文化でもあります。早く失敗して(fail-fast),前に進む文化です。失敗を受け入れる思想に苦心している企業が多いのですが,継続的改善を達成するには,失敗を避けて通ることはできません。これはつまり,幹部役員を対象とした十分なトレーニングと,彼らの参加が不可欠であるという意味です。IT部門と中間管理層だけでは,アジャイルを実現することはできないのです。
アジャイルの採用について,企業はどのようなアプローチをするべきですか?あるいは,他の目的を持つべきでしょうか?
最初は“なぜ”から始めましょう。組織をアジャイルにしたいという切迫感は,どこから来るのでしょうか?ここで重要なのは,それが“組織”であって,ITやOpsではないことです ... 組織全体が対象でなくてはなりません。“なぜ”はスローガンになり,組織の向かうべき指標になります。タイム・ツー・マーケットの短縮やビジネスのサバイバル,コードや製品の品質向上,コスト削減など,いろいろあると思います。これらの要素はすべて,アジャイルの実践とLEANプラクティスによって改善が可能です。アジャイルに取り組もうとしているのは,それがホットな話題だからなのか,あるいはよりユーザ中心に,より敏捷で素早く,よりアジャイルになりたいからなのか。アジャイルはITだけのものではありません。“なぜ”が定義できれば,次は組織的な変革に意識を集中する必要があります。これには旅行地図が必要ですし,数ヶ月ではなく,数年を要します。計画とコミュニケーションが不可欠です。企業の役員たちがアジャイルやLEANの構築に詳しくなければ,それらを採用することは難しいものになります。これはソフトウェア開発の新しい手法ではなく,組織を変革するための努力なのです。
今日ではたくさんのアジャイルスケーリングモデルが利用できます – 企業がアジャイル移行に成功するには,単純にその中からひとつを採用して,そのルールに従うだけではだめなのでしょうか?
無理です。事はそれほど単純ではありません。アジャイルフレームワークのルールに従うだけでは,継続的な変化を起こすことはできないのです。ひとつかふたつのプロジェクトは改善されるかも知れませんが,ほとんどの場合においては,チームは分裂し,新たに生まれる官僚主義や社内政治によって組織が不安定になるでしょう。繰り返しますが,重要なのは文化です。個人としては,これが組織にとってどのようにプラスになるのかを強く訴え,そのメリットに注力し,成功に必要なツールやトレーニングを提供しなくてはなりません。また組織の立場からは,アジャイル転向者,エバンジェリスト,コーチが必要です。そして最後に,組織の環境を変えなくてはなりません。コラボレーションや観念化,イノベーションといったものは,キュービクルで仕切られたオフィスや,ビジネス部門とIT部門が違うフロアにいるようなオフィス ... 極端な例では違うビルの場合もあります ... では,達成が難しいのです。企業は既存のサイロを破壊して,官僚主義や階層構造を取り除かなくてはなりません。こうすることによって,企業を継続的改善と継続的デリバリへの道へと導くことができます。SAFeやDAD,LeSS,Nexusなど,どのフレームワークを選ぼうと関係ありません。
アジャイルに続くものは何でしょう?
単に ... さらなるアジャイルです。先に述べたように,アジャイルは終点のない旅なのです。ほとんどの企業は,その旅の入り口に着いたに過ぎません。その旅にはまだ,継続的デリバリ(DevOps)を習得するための支援,独立した作業としてのテストの分離とチームへの統合,フルスタックエンジニアの育成,文化的な変革の推進,といったものが必要です。アジャイルが誕生して長らく経ちますが,私たちのアジャイル採用はまだその初期段階にあります。きっとファンタスティックな旅となって,ソフトウェア開発を永遠に変えるだけでなく,将来的なビジネス運営やITとビジネスの協業のあり方をも変えていくでしょう。私たちMindtreeは変革の目撃者として,まさにその真っ只中にいるのです。
この記事を評価
- 編集者評
- 編集長アクション