スクラムの開発者であるScrum, IncのKen Schwaber氏とScrum.orgのJeff Sutherland氏が,スクラムガイド(Scrum Guide)の最新バージョンをローンチした。2013年にリリースされた前バージョンに対する今回のバージョンの最大の変更は,スクラムバリュー(Scrum Values)が追加されたことだ。
スクラムガイドには,スクラムの根本的な指針である“ゲームのルール(the rules of the game)”が含まれている。Schwaber,Sutherland両氏は共同でスクラムガイドのアップデートを続けるとともに,WebサイトのUser Voiceセクションを通じて,コミュニティからのフィードバックに応えている。
今回のリリースを受けてInfoQでは,Schwaber氏から最新バージョンの変更点と今後の計画について話を聞いた。
スクラムガイドが最後に改訂されてから3年が経ちましたが,その間にどのような変化があって,新しいバージョンが必要になったのでしょう?
スクラムガイドは,スクラムを開発したJeff Sutherland氏と私が,Scrum.orgとは独立して管理しています。スクラムのプロフェッショナルには活発なコミュニティがあって,スクラムガイドは彼らの作業の基礎として使用されています。彼らは個別でも,スクラムガイドの次期リリースに対する要望とフィードバックの機会を提供するWebサイトのhttps://scrumguide.uservoice.com/にある”User Voice”を通じて,さまざまな情報を提供してくれています。スクラムガイドにスクラムバリューを追記することに関しては,3倍以上という最も多い賛成投票がありました。そこでJeffと私は,彼らの声に耳を傾ける形でそれを追加することにしたのです。スクラムプロフェッショナルからのフィードバック以外にも,プロフェッショナリズムが一連の価値を必要とし,それらの価値がスクラムとソフトウェア開発のプロフェッショナリズムの実現に寄与する,という事実にも基づいています。これらの価値が意識され,受け入れられることで,アジャイルソフトウェア開発の文化が生み出されるのです。
今回のバージョンの主な変更点は何ですか?
今回のスクラムガイドではスクラムバリューを追加しました。その中にはコミットメントや勇気,集中,オープン性,尊重といったものが含まれています。このような価値は,チームの成功に不可欠なものとして,一般的にスクラムチーム全体が従うべきものです。スクラムガイドには,“コミットメント,勇気,集中,開放,尊敬といった価値が具現化され,スクラムチームの一部となった時,透明性,検査,適応といったスクラムの柱がその命を得て,チーム全員の信頼関係を築く”,と述べられています。スクラムチームのメンバは,スクラムのイベントや役割,アーティファクトに関わる作業を通じてこれらの価値を探し,そして学ぶのです。
スクラム適用の成功は,これら5つの価値を生きることに関するメンバの習熟度にかかっています。メンバは個々に,スクラムチームの目標達成にコミットします。 それぞれのメンバが正しいことを行なう勇気を持ち,タフな問題に立ち向かうのです。全員がスプリントの作業とスクラムチームの目標に集中します。スクラムチームとその利害関係者は,すべての作業とそれに伴う課題についてオープンにすることに同意します。スクラムチームのメンバは,能力を持った独立した人としてお互いを尊重します。
スクラム実践者やチームのほとんどは,開発哲学というよりも,むしろプロセスガイドラインとしてスクラムを採用しているようです – このようなアプローチを採用することはどのようなものに影響して,代わりには何を行なうべきなのでしょうか?
本当のスクラムは,チームがよりよいソフトウェアを提供するために,共に開発を行なうためのフレームワークです。本物のスクラムを採用するチームは,チームが作業し組織化する方法として,そのフレームワークに従うのです。スクラムが実証的であることは,スクラムチームの自己組織化において成功を収めるために不可欠であり,成功や失敗を継続的にレビューして変化に適応することは,将来的な成功を保証する上で必要なのです。スクラムチームにこうした権限が与えられていなければ,彼らの成功は困難を極めるでしょう。その一方で,彼らがスクラム導入の努力をしなければ,彼らに変革は起こらず,スクラムの中核である経験主義のメリットを得ることはできません。
スクラムガイドは以前より規範的になっているのでしょうか?
いいえ,スクラムガイドも,スクラムそれ自体も規範的ではありません。スクラムの中核は経験主義であり,その特性として,進化とチームによる最適化は必須です。長年にわたって規範的プロセスの興隆と衰退を見てきましたが,ソフトウェア開発成功に与えた影響はごくわずかです。スクラムは21年以上にわたって順調に普及していますが,他のどのプロセスよりも長く成功を続けられた大きな理由は,スクラムが過度に規範的ではないことにあります。スクラムは作業のためのフレームワークを提供します。チームはそれを自らの能力や組織に適用し,スクラムガイドとその提供するフレームワークに基づいて,自分たちのものにする必要があります。
スクラムバリューは,アジャイルマニフェストの価値観や基本理念と照らし合わせた場合,どのようなものでしょうか?
極めて補完的なものだと思いますね。自著に書いたように,“スクラムは一連の基本的な価値観に基づいており,スクラムのプラクティスはこれらの価値観を基盤としている”のです。スクラムバリューは,スクラムチーム内の個々の振る舞いや行動の方法に基づいています。例えばマニフェストの価値観のひとつが遵守されていない場合,勇気がなければそれをはっきりと主張することはできません。集中しなければ,機能するソフトウェアの提供はおぼつきません。これらはお互いに,強く支え合っているのです。
今後について – スクラムの次のフロンティアは何でしょう,それは今後のスクラムガイドにはどのように影響するのでしょうか?
スクラムガイドの改訂は,実際にスクラムを使用している人たちと,彼らの声に大きく影響されています。それとは別に,複数のチームでひとつの製品を開発しているような,大規模な運用にもインパクトのある変更をしたいと思っています。Scrum.orgがNexus Frameworkで行なっている,統合されたインクリメントの提供に取り組むチームの基盤としてのスクラムの活用などはその例です。このNexus Guideは,https://www.scrum.org/Resources/The-Nexus-Guideで公開されています。スクラムの進化と成功が続けば,開発チームも進化しますから,より緊密な関係を持って,一緒にソフトウェアを提供していくことが必要です。Nexusはその中核をなすものです。
Schwaber,Sutherland両氏は,Scrum Guideの新バージョンのローンチについて,ウェビナで講演を行なっている。その様子は,Scrum, IncおよびScrum.orgのWebサイトで,近日中に公開される予定だ。
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