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分散チームにおけるアジャイル

原文(投稿日:2016/09/07)へのリンク

異文化チーム開発(Cross-cultural team building)は,分離あるいは分散されたアジャイルチーム間のコラボレーションやチームワークを可能にする。しかし,分散されたチームから最大限の結果を得るには相応の投資が必要だ — スクラムマスタおよびアジャイルコーチとして活動し,アジャイルの熱心な支持者のひとりであるNienke Alma氏は,このように主張する。分離あるいは分散されたチームがアジャイルを実践する上で必要なものに関しては,氏以外にも何人かの人たちが記事を書いている。

そのひとりであるKeith Richards氏は,"Distributed Agile: 8 ways to get more from your distributed teams"と題した記事で次のように述べた。

高いパフォーマンスと効果的なアジャイル活動を分散環境で実現するためには,チームが協調的に機能する必要があります。その中心となるのはチームワークです。

チーム間およびチーム内のコラボレーションが成立するためには,文化面やプロセス的な制限を取り除く必要がある,とRichards氏は主張している。

InfoQのインタビュー記事 “staying connected while working remote” では,Pilar Orti氏が,遠隔地にあるチーム間の文化的な相違という面への対処方法を提案している。

ここでは2つのシナリオが考えられると思います。ひとつは他国を基盤とするチームに対処する場合であり,もうひとつは世界中に分散した個人と共同作業をする場合です。

前者のケースでは,他国を基盤とするチームメンバは全員,同じようなアプローチ上の特徴や,食事の習慣などを持っているかも知れません(ここで,“かも知れません”と述べたことに注意してください)。そのような場合は,彼らとの対話を通じて,これらの違いを明確化することが有効です。ただし仮定を立てる場合は注意してください — チームメンバからの直接的な情報の方が重要なのです。

このように広範な共通点が明確になったとしても,チームは依然として個人から構成されていることを忘れてはなりません。これが先程述べた第2のシナリオ,世界全体に個人が分散された状態なのです。この場合でも,対話を通じて個々の違いを明確にできれば,それによって彼らを個人として認識できるようになるでしょう。共通する部分もそうでない部分もあると思いますが,これは国籍に関係なく起きることなのです。

David Horowitz氏とMark Kilby氏はAgile 2016で,分散チームのコミュニケーションとコラボレーションについて講演した。

分散チームの間には結び付きが必要です。コラボレーションには対面が重要ですが,結び付きほどではありません。

氏らは,分散チームが安全にコミュニケーションする方法として,chat channel,Buddy Up,co-pilotsの3つをあげている。

Nienke Alma氏はGOTO Amsterdam 2016カンファレンスで,分散チームによるアジャイルマニフェストへの挑戦に関してライトニングトークを行なったInfoQは氏にインタビューして,スクラムマスタがさまざまな文化の人々をチームにまとめ上げる方法,コードレビューの実施方法,分散形式のスプリントレビュー実施によるメリットを聞くとともに,分散型のチームによるプロダクト開発に関して氏からアドバイスをもらった。

InfoQ: 異なる文化の人々がチームを組む上でスクラムマスタの果たす役割は重要だ,ということでしたが,実際に行なったことをいくつか,例をあげて紹介して頂けますか?

Nienke Alma: 最初はチームメンバの採用プロセスです。私はスクラムマスタとして採用プロセスにも密接に関わり,すべての面接に同席しました。面接での私は,技術的なスキルよりもパーソナリティや対人的なスキルを重視しました。技術的なスキルに関しては,別のチームメンバが適確に判断してくれたからです。面談の中では,その応募者が異なる文化にどう対応するかを確認するようにしていました。私が求めたのは好奇心と柔軟性,そしてオープンなコミュニケーションスタイルです。当然ながら1回の面談で応募者の全体像を把握することはできませんでしたが,チームとして適切な組み合わせを見つけることは概ねできました。

スプリントの中では,異文化チームの構築に対するインパクトを重視しました。例えば文化的な違いを探すために,簡単なワークショップを開催したりしました。さらには通常のスクラムイベント中でも,チームのダイナミクスには常に注目しなくてはなりませんでした。会話は十分に理解されているか?全員が自由に話せるか?オランダの人たちは会話をためらうことはほとんどなく,話題に上ったことを議論するのに対して,インドの人たちは一般的に発言に対してより慎重である,といった点も認識する必要があります。スクラムマスタとして私は,チームの作業に対してチームの全員が等しく貢献できることを目指しました。

InfoQ: コードレビューミーティングはどのように行なったのですか?その方法を選んだ理由と,それによるメリットについても教えてください。

Alma: コードレビューミーティングは,チーム自身による品質向上の取り組みの好例です。すべてのチームメンバがチームの成果に対して同じ責任を負っていましたが,経験年数の差があったため,コードの品質には違いが見られました。ピアレビューが最善の方法であることは分かっていましたが,チームメンバが別々の場所にいるため,境界を越えたレビューは常に実施できる訳ではありませんでした。そこで2人の上級開発者が,スプリントごとにコードレビューセッションを編成するようにしました。このコードレビューが他のチームメンバを教育する機会となって,チームのコードスキルを向上することができたのです。

このセッションに関して私が一番気に入っているのは,上級開発者がそれをゲームに仕立てたことです。セッションに先立って彼らが,コーディングミスを含むコード部分を選択しておきます。そのコード部分をセッションに持ち出して,次のようなメッセージを添えて共有画面に表示します — “このコードには5つのコーディングミスがあります。最初のひとつを見つけた人が勝ち!” すべての目が画面に集中しました。そして間違いを正しく指摘できた時のチームの喜び方は非常に印象的でした。上級開発者は,最初の誤ったコードを書いたのが誰なのかは教えません。これは批判するゲームではなく,学ぶためのゲームなのです。このアプローチによって,ネガティブな存在(ミス)を挑戦的で楽しいものに転化した結果,コードの品質が向上しました。チームはいつも,次のセッションを楽しみにしていたのです!

私はスクラムマスタとして,コードレビューミーティングにはいつも出席していました。積極的な役割は持っていませんが,彼らの活動を完全にサポートした上で,チームの努力を賞賛するのです。さらに,コードレビューミーティングでの経験をチーム外部に伝える役も行いました。

InfoQ: スプリントレビューに対する分散アプローチには,どのようなメリットがあったのでしょう?

Alma: ステークホルダはすべてオランダにいたので,ドイツのチームメンバにステークホルダへのプレゼンテーションや会話対応を依頼できれば,とは強く思いました。ですが,このようなアプローチを選択すれば,ある意味でインドにいるチームメンバを除外することになってしまいます。ステークホルダから遠く離れている場合にこそ,彼らの要求をじかに理解し続けられるように,常に連絡を取れることが大切なのです。それに,スプリントレビューは,成功を祝うためのよい機会でもあるのです。 すべてのチームメンバがこの成功に貢献しているのですから,すべてのメンバが成功を分かち合い,スポットライトを浴びる機会を持って然るべきです。こういったことを私たちが重視することで,スプリントレビューの分散アプローチによるチーム全体の責任感の向上という結果が実現できているのだと思います。

InfoQ: 分散チームによるプロダクト開発を目指している組織に対して,何かアドバイスはありますか?

Alma: 分散チームを最大限に活用するためには,相応の投資が必要であるという点は忠告しておきたいと思います。その結果に対して投資価値があることは証明されているでしょうか?コスト削減だけを目的として分散アプローチを選択しないでください。頻繁な移動,誤解による作業のやりなおし,ビデオ会議ツールなどは,考慮すべき(高価な)付加コストのほんの一部に過ぎません。必要なスキルがオンサイトでは準備できないなどの理由で,分散アプローチがプロダクトを提供する唯一の手段である場合もあります。これなどは,分散チームでプロダクト開発を行なうための正当な理由かも知れませんが,それでもなお,高パフォーマンスのチームを編成したい,あるいは短い市場投入時間でユーザ価値の高い製品を提供したい,といった場合には,分散チームによるアプローチは次善の策であると思います。この次善の策が,価値のある結果を提供するために十分適しているかどうかを判断するのは,導入する組織の責任なのです。

 
 

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