Johanna Rothman氏がAgile2016で,アジャイルプログラム管理のための測定に関する,示唆に富んだ講演を行なった。講演はまず,プログラムチームが結果を測定する上で直面する問題を認識することから始まった。
- 何を計測するのか?
- 何が計測できるのか?
- 何が有効か?
マネージメントが欲しいのは全体像だが,チームは自分たちの状況が知りたいのだ,と氏は説明した。測定プログラムでは全体を見る必要がある。氏は,チームの自己組織化と自己管理に有用な指標を,アジャイルチームがどのように利用すればよいかを指摘した — ただしこれらのポイントは,マネージメントにとっては意味のないものだ。
氏はまた,測定すべきメトリクスはプログラムの状況によって変更する必要がある,とも述べている。
次に氏は,チームから提供される価値の継続的ストリームに頼れなかった歴史を起因とした,今日の計測におけるダイナミクスを取り上げた。この理由からリーダは,実測値よりもむしろ予測値を要求することも多い。
続いて氏は,顧客の獲得と維持,収益向上,ユーザエクスペリエンスとユーザとの接点など,リーダが本当に注意すべきものについて説明した。ユーザエクスペリエンスはSaaS企業にとっては非常に重要だ。ユーザエクスペリエンスを提供できなければ,ユーザには他に選択肢があるからだ。
予測値と実測値の比較を示す例として,メトリックを変更するパターンをいくつか紹介する。
この測定から… (予測) |
この測定へ… (実測) |
いつ実施しますか? いくら掛かりますか? |
いくら投資する意思がありますか? 目標日はありますか? |
作業は順調ですか? アーンドバリュー(Earned Value)は何ですか? |
動作する製品をお見せしましょう。 |
収益はいつ上がりますか? |
価値を今すぐお見せできます。 今すぐリリース可能です。 |
ユーザはどう思いますか? |
リリース基準に照らした進捗状況をお見せできます。
|
氏はさらに,測定する上で重要なものは何か,という点も詳細に説明した。
学習の測定: 学習は測定できるのだろうか?常に短い時間でフィードバックを獲得して,“さらに学ぶ必要はあるのか?”を自問しよう。弾みをつけることを学ぶのだ。
トレンドの測定: 修正がより多くの障害を作り出してはいないだろうか?障害の数は以前より増えているか?長期間にわたるトレンドデータは,何が重要かを教えてくれる。スナップショットで得られる情報では不十分なのだ。
完成した機能の測定: プログラムはエピック/テーマから始まる。これらは機能のように見えるが,曖昧で,何が得られるのか不明確だ。これらを機能としてカウントしてはならない。顧客から見た価値に基づいて,より詳細な機能を測定しよう。
プロダクトバックログのバーンチャートの測定: “今どの位置にいるのか?”という問いに対する答のひとつであり,機能拡張や全体的な機能に対する進捗状況を示している。機能セット毎のストーリ数をカウントし,データとして使用しよう。
要求に対する過不足の測定: WIPの削減,マルチタスクの削減。ユーザの要求を越えるソフトウェア,より多くのユーザ満足を得られるリリース。
コストの測定: ランレート(Run Rate),チームのコストは毎月どれ程か,成果に対して妥当なものか?(リリースされた成果と,顧客から見て価値のあるソフトウェア。)
リリースの測定: リリース頻度 - ビルドからリリースまで,どの位の時間が必要か?ビルド時間を数時間に短縮!ビルド時間は増加しているか,減少しているか?増加してはならないのか?サイクルタイム - 機能の完成からリリースまで,どの程度の時間を要しているか?
製品測定値の測定: シナリオの作成,あるいはシナリオの実行。ログインやファイル転送,支払などのタスクが必要だ。これらのパフォーマンス属性は何か?パフォーマンス,信頼性 ...。このような製品性能の測定値は,リリース基準の関数とみることができる。前回のリリースよりも改善されているだろうか?
定性的測定値の測定: 顧客満足度とフィードバック。
ユーザのフィードバック獲得の頻度はどれくらいか?障害レポート — ユーザがいれば障害は必ず発生する。意思決定に要する時間はどの程度か?作業遂行能力に影響を与えるものがプログラム外部にあるか?
最後に氏は,測定に関する一般的なトラップを紹介した。
- 個人ないし個々のチームの生産性を測定しないこと。
- 個人を並べて比較しないこと。
- チームを相互に比較しないこと。
ゲストエディタのAngela Wick氏はアジャイルコーチでトレーナである。企業の要求プラクティスの現代化を支援する,トレーニングおよびコンサルティング企業のBA-Squared LLCを創業し,現在は同社のCEOの職にある。氏は従来型,アジャイル,およびハイブリッドなチームを対象として,意図した価値を組織に提供する上で適切なソリューションの構築と,そのために必要なスキルの開発を支援している。
この記事を評価
- 編集者評
- 編集長アクション