アジャイルのパラダイムは、チームメンバーを特定の開発プロセスに順応するように強制する古典的なマネジメントのアプローチとは対象的に、プロセスを人間に適応させる、とUBB Clujで教鞭をとるDan Suciu氏は主張する。彼はTopConf Linz 2017でAgilis Humanum Est(アジャイルであることは人間であること)についてスピーチした。
Suciu氏は、学習と変化の論理的なレベルに基づく物事を、人々はどのように学習するかというGregory Bateson氏の理論の説明からスピーチを始めた。最も低いレベルは、環境を理解し、どこが変化する必要があるかを発見することだ。次のレベルではプラクティスを採用して新しい行動を学習する必要があり、それに続くレベルでは、自身のスキル、能力を改善する。そして次のレベルで、自身の価値観と信条を発達させる。この2つの上位のレベルでは、アイデンティティの形成とスコープ、ビジョンの定義に焦点を当てている。
何か新しいことを学習するためには、これら全てのレベルを経る必要がある、とSuciu氏は言う。特定の学習レベルで変化することでより上位のレベルに移り、そこでも変化が求められる。Suciu氏は、行動を変化させることが困難となる場合の例として、煙草を辞めようとしている喫煙者を挙げた。本当に煙草を辞めるためには、自身の喫煙に対する価値観と信条を変える必要があり、もしそれができたのなら行動を変えるのは容易になる、とSuciu氏は述べた。
Suciu氏は、アジャイルマニフェストがいかにBateson氏の学習モデルに対応づけることが可能であるかを説明した。このアジャイルソフトウェア開発チームのためのマニフェストは、あるビジョンに基いて始まる。それは、このマニフェストが”ソフトウェア開発のより良い方法を明らかにする”ためのものである、ということを明らかにするものだ。このビジョンは、Bateson氏の学習モデルのスコープとビジョンのレベルに適合する。このビジョンに基づいて、組織はどのように”アジャイル的"でありたいかというアジャイルのアイデンティティを定義できる。4つのアジャイルの価値は、学習モデルの価値観と信条のレベルに属する。
アジャイルの価値を知ることは良いことだが、アジャイルのように新しいことを学習するためには、より多くのことを身につける必要がある、とSuciu氏は論じた。これはアジャイルマニフェストでの原則が存在する理由であり、スキル、能力のレベルに相当する。アジャイルの原則を実現するために用いられるプラクティスとツールは多数存在し、それらは行動のレベルに属する。これらのプラクティスはスクラムやXPといったアジャイル手法に分類され、それらをどうやって実現するかを述べた書籍もある。Suciu氏はこれを環境のレベルに対応づけた。
アジャイルを実行する、アジャイルの手法にのっとる、アジャイル的である、自身のアジャイルのアイデンティティとビジョンをもつ、という道のりが、なぜ時として長い時間を要するかについて、アジャイルの各レベルを見てみると理解できるとSuciu氏は述べた。彼は3つの罠について言及した。これは私たちがアジャイル的となるための妨げになる主な問題である。それぞれは特定のレベルに対応する。
- 環境(ベストプラクティス)
- 行動(複雑性)
- スキルと能力(順応性)
私たちはベストプラクティスの誘惑を受けている、とSuciu氏は論じた。他の人々がどうやっているかを耳にし、同じことを適用しようとするがうまくいかない、ということはよくある。モデルや書籍に書かれていることは理想的なプロジェクトに関するものであることが多い、と彼は述べた。それらは特定の役割とプラクティスについて記述され、そういったプロジェクトをアジャイル手法でどうやって進めるかが説明されている。現実世界ではそのようにはいかない。私たちはそうした役割とプラクティスをメソッドや書籍で描かれたとおりに適用することはできない。コンテキストが異なるからだ。それ故に、私たち自身が適合しなければならない。
私たちは複雑なソリューションに魅了されている。その複雑はソリューションがより良いと考え、簡単なソリューションを見つけたとしたら、それが正しいとは信じない、とSuciu氏は述べた。彼はStefan Roock氏の言葉を引用した。
複雑なソリューションは誤っている、もしそれが正しいとしても
私たちは、複雑なソリューションを提案する人々をより高く評価し、彼らが賢いのだと考える、とSuciu氏は述べた。
私たちは誤ったものに順応するが、閉鎖的であるためにそのことには気づかない、とSuciu氏は論じた。私たちの順応能力によって、働き方を改善する方法を見つけるのが困難になっているのだ。
Suciu氏は個人的な経験について話した。彼は眼鏡のレンズを割ってしまったとき、眼鏡技師が調光レンズのものに交換したときのことだ。”1ヶ月間、私はそのレンズの違いがわかりませんでした。確実に自分の目の前にあるにも関わらず”とSuciu氏は述べた。
チームが全てがうまくいっていて何も改善する必要がないと考えていると、ふりかえりは数スプリント後に効果が薄くなる。Suciu氏は、一歩下がって他の見方をすることを提案した。チームメンバーが物事に没頭しすぎて、チームが行っていることを本当に観察できなくなっているのかもしれない。
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