今のアジャイルでは、チームという概念にスポットライトが当たっており、効果的なチームを作ることは目的になっている。しかし、そこまでに至ることはほとんどない。タックマンのチームのステージでいう混乱期を脱出するのが難しいからだ。ここを脱出するためにはいくつか役に立つ方法があるが、Agile Games 2017カンファレンスでMichael Nir氏は"Bring the Scrum Master a Glass of Water: Conduct Objectives for High Performance Team"と題したワークショップを開催する予定だ。Agile Games 2017はボストンで4月3日から5日まで開催される。InfoQはこのカンファレンスをインタビューや記事で取り上げる予定だ。
InfoQはNir氏にインタビューし、行為目的(Conduct Objectives)の目的について、振る舞いを計測する方法、個性を認めることに関する一般的な問題、チーム憲章(Team Charter)の使い方、Core Protocolsとの関連について話を聞いた。
InfoQ: Michael、お話をお伺いできて光栄です。自己紹介をお願いできますか。
Michael Nir: この17年、世界中の様々な顧客と協業してきました。直近の13年は自分のコンサルタント会社でコンサルティング業務、コーチング、ワークショップの運営を提供しています。今は、リーンアジャイル、リーンスタートアップ、顧客体験、アジャイルPMOに注力しています。いくつかの最先端のワークショップを開発し、楽しく(そうであると嬉しいです)、示唆に富む、実践的なキーノートをしています。
InfoQ: あなたの次のワークショップは行為目的(Conduct Objectives)についてです。行為目的とは何か、チームにとってなぜ重要なのか、説明していただけますか。
Nir: 素晴らしい質問です。普通、チームは何をを強調します。つまり、成果です。しかし、チームのパフォーマンスを改善するには、どのようにチームのメンバがやりとりしているのかを考える必要があります。チームメンバはよく、信頼や尊敬、効果的なコミュニケーションが欲しいと言います。これらはラベルです。定義は幅広く定性的で計測するのが難しいです。行為目的はこれらのラベルを超えて、特定の振る舞いを明確に表現します。
InfoQ: あなたのワークショップは行為目的とチーム憲章(Team Charters)が中心になっています。チーム憲章とは何でしょうか。行為目的とどのように関連するのでしょうか。
Nir: チーム憲章はチームの目的、チームの働き方、期待される結果を定義したドキュメントです。これらははじめにチームとそのスポンサーが作成する"ロードマップ"であり、全ての関係者が方向性について明確に意識するようにし、厄介な状況になった場合の方向性を与えます。
チームは何度もこの趣意書を一緒に声に出して読みます。"お互いを知る"セッションとしてです。私は先日、チームビルディングのセッションを運営しました。その中で開発マネージャの一人が、普通、チーム憲章は時間とともに安定し、一度作ったら振り返らないので、時間の無駄だ、と話しました。私はこの考えに全く同意しません。チーム憲章は一度きりの活動であり、チームが変わっても更新されません。実際、多くの価値は提供しません。違いを生むのは、行為目的なのです。
行為目的は、ラベルの後ろにある振る舞いを明確にするのに役に立ちます。チームのメンバは信頼が欲しいと言います。しかし、信頼とは実行可能なものではありません。チームは具体的なことを特定する必要があります。つまり、ある特定の振る舞いを信頼に値するものにするのは何なのか、ということです。複数の文化が混在する環境ではこれは特に重要です。また、これが個人的でかつ知覚的な議論になることも自然です。行為目的を巡ってメンバがする議論はそれぞれの個人の真実を探ることになるのでとても面白いです。
InfoQ:チームのメンバはそれぞれの個性に対して考えを持っています。これは時には誤解に繋がります。この点についてどのようにお考えですか。
Nir: もし、チームのメンバの他の誰かの個性に対する不満を聞くたびに1ドルもらえたとしら、....
個性に関して言えることは、それは存在しないということです。もし個性を持っている人にあったら、教えてください。
私たちが実際に観察しているのは振る舞いです。結論を言ってしまえば、ある特定の振る舞いをその基底にある個性としてラベリングしているのです。
(例えば、Daniel KahnemanのThinking Fast and Slowのような)研究によれば、私たちは誰かが失敗したらその人の個性を責め、自分が失敗すれば、外部環境を責めます。同僚がミーティングに遅れると彼らを信頼できないと考え、自分が遅れれば、交通渋滞につかまったからだと考えるのはそのためです。この"個性"を非難するという傾向は私たちがより効果的なチームになることの障壁になります。行為目的を特定することの障壁になるのです。そして、計測可能な振る舞いはこの障壁を迂回する手助けをしてくれます。
InfoQ: "信頼に足る振る舞い"のようなものを計測するというのは奇妙に感じます。行為目的はどのように役に立つのでしょうか。
Nir: 実際、奇妙に感じるからこそ、私たちはチームの設立趣意書をほとんど使わない理由であり、チームとして成長するのが難しいのです。自分たちが何に価値を置くかは知っているものの、実現される価値に貢献する、あるいは、損なう振る舞いを明確にするのは難しいです。信頼というものはとても良い例です。信頼は高い成果を生み出すための基礎でありチームの成長にとって不可欠です。チームのメンバはチームには信頼が必要だと言います。しかし、それはどういう意味なのでしょうか。信頼とはどんなもので、どのような感じがするのでしょうか。信頼の行為目的を特定しようと尋ねることは、チームでの信頼をより高める振る舞いとより低める振る舞いを特定せよ、と尋ねることと同じです。ラベル– この場合は、信頼 –は具体的で計測可能で明確でチームが見ることができ、チームのメンバが説明できる振る舞いに変形します。チームを強化するための効果的なエクササイズです。個人的には、チームのメンバが信頼できる具体的な振る舞いについて議論し始めるとき、皆の関与の度合いが深まり、毎回とても驚いています。議論に力を与えているのです。これによって、メンバのそれぞれが自分の個人的な‘信頼’の経験を共有することになります。自分にとって信頼が何を意味するのかを考えるからです。
InfoQ: 私たちはCore Protocolsが高い成果を生み出すチームを導くと書きました。行為目的とCore Protocolsの違いは何でしょうか。
Nir: チームをより高い成果を上げられるようにすることの基礎には様々な側面があります。Core Protocolsは行動規範を示します。チームは憲章のエクササイズでこの行動規範を使うことに合意できます。チームをより協力的にし、衝突を管理し、意思決定できるようにするのにとても便利です。行為目的はより個々人に特化し、彼らがどのように個人として成長できるかに着目します。
全てのチームは二つの力が働きます。自己という離散する力とチームという同化する力の二つです。チームが成熟の5つのステージ、形成、混乱、統一、機能、散会を進むにつれ、この二つの力の重さと張力は変わっていきます。Core Protocolsは同化を促進します。行為目的は離散する個々人の役割に注力します。両方とも重要です。チームの成長と成熟には両方とも重要な役割を果たすと言えば十分でしょう。
InfoQ: あなたは様々は企業や文化の中で行為目的を活用してきましたね。行為目的を使うチームが嵌る落とし穴とは何でしょうか。
Nir: 個性というものが抽象的で想像の産物であるということは受け入れがたいことです。私たちは本当に素早く別のメンバの判断しますが、バイアスがかかっていることを知るのには時間がかかります。個々人が自分に与えている余裕を相手にも与えるというのは難しいことです(相手が失敗したらそれは相手の欠点であり、自分が失敗したらそれは環境のせい)。私たちは皆、私たちを取り巻く環境によって形成されているのです。
InfoQ: もし、読者が行為目的を使ってみたい場合、最初のステップのアドバイスをお願いします。
Nir: チームに会い、チームが価値を置いていることの背後にある"隠れた"、計測できる振る舞いを特定することです。
振る舞いのメトリクスを作ります。別の言い方をすれば、どのような特定の振る舞いが特定の価値を支援し、どのような振る舞いが価値を毀損するのかを明らかにします。このメトリクスについて振り返りのときに議論し、どのように改善するかを決めるのもいいでしょう。
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