近日開催のAgile Indonesiaカンファレンスでは、Palo ITのFleur van Unen氏とSylvain Mahe氏がアジャイルリーダーシップのツールに関する講演を共同発表し、 Management 3.0などの技術とフレームワークを描くリーダーに具体的なアドバイスを提供する。InfoQは、両氏にインタビューし、リーダーシップの哲学、アジャイルなアイデアの普及におけるコミュニティの重要性、従業員を才能のある大人として扱うことについて話をした。
InfoQ: Sylvain、あなたは‘私はアジャイルが信頼と規律と柔軟な考え方に基づく態度の上にあると信じています。’とプロフィールで書いていますね。もう少し詳しく教えてください。
Sylvain Mahe:アジャイルが成功するための重要な成功要因だと思うので、私はこれらの3つの属性を私のプロフィールに書きました。
信頼: 信頼できなければ、チームメンバーが失敗したり、脆弱になったり、フィードバックを出したり、受け取ったりするための安全なスペースはありません。ほとんどのアジャイルのフィードバックループは無駄になります(毎日の会議やふりかえり)。
規律:アジャイルには多くの規律が必要だと私が言うと、皆驚きます。しかし、必要なのです。新しいものを試してみたり、謙虚になったり、初心者になるには忍耐力が必要です。 アジャイルは単純ですが、簡単ではありません。
フレキシブルな考え方: 私がアジャイルを教えるとき、私はしばしば“固定的な考え方”の空間(制御の必要性、計画...)から“柔軟性/成長の考え方”の空間(変化こそ変わらないことであり、失敗は学習である...)へスイングする人間の振り子を演じます。彼らは共に私たちのために働いています。私が思うに、私たちは文脈によってこの二つの考えの間をスイングします。アジャイルが柔軟な空間に属しているということは、固定された考え方の空間がデフォルトの状態であれば、アジャイルへの移行はそれほど自然ではないということです。
InfoQ: あなたはスピリチュアルな観点からアジャイルに近づいているようです。あなたの発言は柔らかく、恐怖を与えるものではありません。私が思うにこれが、‘ファシリテーション’の優れた基礎だと思います。自分の性格がアジャイルやファシリテーションにどの程度あっていると思いますか。
Mahe: アジャイルは私の信念の体系や内なる批評家、自我、私の存在の仕方やコミュニケーションする方法、どのようにして“言葉が窓になったり壁になったりするか”について自覚的であろうとする旅と共鳴しました。これは、深い内省でのみ達成できることであり、多くのスピリチュアルな修練は、自分の内側を深く探索するものです。マインドフルネス瞑想、ヨガ、タントラ、シャーマニズム、全てそういうものです。私は私たちの見えるのを超えた何かがあり、それが私たち全員を繋げているということ信じている探求者です。この外部へ、あるいは内部への接続によって、世界はより高次の意識への道になります。この惑星で私たちの時間を伸ばそうとするならば、この道がどうしても必要なのです。
私は、アジャイルは、個人、チーム、組織にとってより高次の意識レベルへの道だと考えています。これはもちろん、アジャイルの解釈の1つですが、私が選択した解釈でもあります。アジャイルは働く人々中心のアプローチであり、職場での苦しみを終わらせ、人々の創造的な性質が花開く空間を作ります。この点が今の私の私と相性が良いと思います。私は、私がコーチをしている個人や組織と同じ道を歩いているのです。
InfoQ:アジャイルになることに対する、アジアやシンガポールに共通する特有の‘障害’としてどんなことを見つけましたか。
Mahe: この点については慎重です。なぜなら一般化は常に魅力的だからです。そして、困難な状況に陥るのは嫌なので何かを一般化することはしたくありません。その上で、私はシンガポールに住んでいて、4年以上働いていて、ここや東南アジアの文化について今でも多くのことを学んでいます。ここでの私のコメントは、個人レベルではなく価値観を共有した結合的なグループとしての国家の観点からだと考えてください。
私が直面した困難のひとつはフィードバックのループの作成に関連します。フィードバックループはアジャイルのあらゆる場面に現れます。正しくない方向へ進んでいる場合に“リアルタイム”で補整する仕組みを提供するのが役割です。それはフィードバックを提供することが安全であるという前提で機能します。アジアの文化では悪い知らせや心配ごとをもちこんだり、障害を上司と共有することが良いことではない、というのが私が感じる問題です。透明性についても同じことが言えます。マネージャや古株に挑戦するのは難しいことだが、問題のないことだという前提で機能するのです。
もう一つの課題は、感情を扱う方法に関連しています。私はパフォーマンス/幸福の到達点は、完全に安全なときに現れると信じています。これは、人々が職場で自分の感情を隠す傾向がある場所では難しいようです。
また、シンガポールは教育と政治システムのためにいくつかの具体的な課題に直面していると思います。私が見たところ、安定性、コントロール、ルールの遵守は、ここで非常に評価され、非常に若い時期から教えられました。結果として、自由に考えて、ノーと言い、現状に挑戦すること(アジャイルでは推奨されている)などは、反抗的であるとみなされ、その結果、仲間外れにされる危険にさらされます。
とはいえ、政府は、この課題と支配的な固定的な考え方の限界についてよく認識しているようです。首相は最近、“古いモデルは機能しておらず、新しいモデルはしっかりとしていて高速になっている。技術とグローバル化のため、私たちはこの流れに追い、適用する必要がある。破壊は何度も繰り返されるだろう。”と発言しています。一歩抜きんでるためには、より革新的で創造的である必要があります。ご存じの通り、アジャイルは未知を歓迎し、変化を受け入れ、解決策を生み出すことを可能にする成長/柔軟な考え方を促進します。これが答えの一部なのかもしれません。
私が見てきたマネジメントスタイルは依然として非常に伝統的なものです。命令と制御、中央集権的、長い時間がかかる、トップダウン、そして基礎には恐怖がある、というものです。アジャイルはこれの対極にあります。権限を移譲し協力と一緒に創造することを重んじます。
しかし、同時に、シンガポールは適応的な計画と継続的改善がとても得意です。私は政府が改善の動きをしており、それが期待された結果と改善(例えば自動運転車)をもたらすかどうか見ているのを知っています。この動きはアジャイルのPlan-Do-Check-Actのループと比べられるでしょう。
白か黒かではないのです。アジャイル導入の障害はありますが、ジャイルの成功に非常に役立つ側面もあるのです。
InfoQ:Fleur、あなたはABN AMROのスクラムマスターとしてあなたはアジャイルの旅を始めました。最初はオランダ、そしてシンガポール。オランダとシンガポールではアジャイルの導入についてはどのような違いがありますか。
Fleur van Unen:もちろん、あらゆる組織、チーム、個人が異なっています。私も未だに、さまざまな状況や国でのアジャイルを導入する場合の、文化や組織の違いについて毎日学んでいます。しかし、スクラムマスターとアジャイルコーチとして今まで見てきた中でいくつかの重要な点があります。まず第一に、シンガポールと比較して、オランダの方がアジャイルの導入と成熟の度合いが高いと思います。一般的にアジャイルでの採用と成熟度はオランダで高いと感じています。この考えは、アジャイルへの転換(例:銀行、大規模なサービス/ソフトウェア・プロバイダー)を経ている大規模なウォーターフォールな組織における私の経験に基づいています。
さらに、アジャイルの導入水準に影響を与える文化的および組織的な違いもあります。オランダでは、ミーティング中に個人がオープンで直接的にフィードバックをする傾向があります。これはアジャイルでは高く評価されています(スプリントレビューなど)。私の考えでは、シンガポールは、フィードバックは1対1で提供されることが好ましいようです。Sylvainによって提起された点を踏まえ、アジャイルの仕組みを導入する上での主な課題は、アジャイルの重要な特徴の1つであるフィードバックループの実装にあります。シンガポールの伝統的な組織での(ある程度見られる)階層の存在は、フィードバックループの反復の実装とオープンで直接的なコミュニケーションに影響を与えることがあります。 オランダでは、個人(全員ではありませんが)は、(否定的でも肯定的でも)意見を述べたり、意見を共有したり、グループやマネージャーに懸念を表明したりするのが心地よい傾向があります。一方、シンガポールの組織の中の個人は、それを安全で適切なこととは感じない可能性があります(直接的過ぎる、または、不適切、無礼と見なされるので)。
InfoQ: あなたは最近、Palo-ITに参画し、別の大きな銀行のプロジェクトを開始しました。ABN Amroであなたが得た経験のうち、あなたの新しい役割で役に立ちそうなものは何でしょうか。
van Unen: とてもエキサイティングな経験をしています。現在、シンガポールの大規模で伝統的な銀行で2つのプロジェクトに取り組んでいます。Palo IT開発チーム(UXデザイナーと開発者で構成される)は、この銀行のビジネスサイドの2人のプロダクトオーナーと緊密に協力しています。私たちは“アジャイル”にプロジェクトを進めています。つまり、ウォーターフォールな環境で、アジャイルの原則とスクラムのフレームワークに従って仕事をしています。私の以前のABN AMRO Bankでの経験は間違いなく役に立っています。伝統的な組織(ウォーターフォールプロセスを含む)やプロジェクトマネジメント(例えばステークホルダーの期待の管理、必要な文書の整備)がどのように働いているのかを知っていると同時に、アジャイルチームと共に働き、伝統的な環境でコーチングの経験がある、ということが役に立っています。
InfoQ: アジャイルになるためにチームが経験した‘努力’を3つ教えてください。
van Unen: 考え方の変更が主要な努力の1つでした。“アジャイルする”ということだけでなく、“アジャイルになる”ことについてもです。もちろん、アジャイルの原則をどのように導入するか、また、例えば、スクラムのフレームワークについて本で学ぶことはできます。しかし、考え方の準備ができていなければ、働き方を実際に変えるということができるでしょうか。
また、働いている組織や状況も直面した困難の1つです。チームがアジャイルなやり方で働いて、プロダクトオーナーと緊密に協力しながら短期間の反復サイクルで成果を出すことに意欲的であっても、自分たちが属している組織の一部としてのウォーターフォールなプロセスや、独自の働き方(ウォーターフォールモデル)をするベンダ、プロダクトオーナーを差し置いて要求を押してくるマネジメントとやりとりをしなければなりません。チームだけでなく、彼らの考えを変える必要があります。リーダーを含む組織全体の旅なのです。
また、プロダクトオーナーの役割とプロダクトオーナーのビジョンを明確に定義し、これを開発チームと共有することは難しいことです。プロダクトオーナーは重要な役割を担い、チームと緊密に連携しながらステークホルダーを管理しつつ、実際の作業に注力必要があります。プロダクトオーナーは、(製品)ビジョンに関しては、すべてのステークホルダーが同じ認識であることを確実にし、これをチームと共有する必要があります。アジャイルプロジェクトを成功裡に実現するためには非常に重要な役割なのです。プロダクトオーナーに権限がない場合や、ビジョンの共有やチームに対する優先順位の設定に関連する困難に直面する場合、チームには苦労、障害、不満が生じる可能性があります。
InfoQ: Sylvain、リーダーシップの側面をもっと見てみましょう。リーダーをアジャイルに向かわせるのに対して3つの最も一般的な課題は何ですか。
Mahe: その質問に対するキーワードは“向かう”ということだと思います。私は自分の役割を、リーダーがアジャイルに向かうようにすることだとは思っていません。私はコーチングの立場が好きです。人々は才能を持っていて、私は彼らを助けるためにいる、という立場です。強制的に変化させる(組織でよく見られる光景ですが)権限など持っていません。これが正しいやり方である、というつもりはありません。アジャイルコーチにもさまざまなやり方がありますから。しかし、これが私の選択したやり方であり、私の価値観に適合しています。コーチングの自然なステップとは次の3つです。
1- 問題に気付く
2- 変化への意志
3- 変化するための能力
コーチとして、新しい視点を開き、気付きを生むのが私の仕事です。そして、そのあとの意志と能力に最大の困難があります。今、私の頭に浮かぶ困難は次のようなものです。
獲得するよりも失うことが多いらしい。権力、肩書き、ステータス。アジャイルに移行するには、信念の重大な飛躍が必要だ。
組織は、必要な新しいスキルを学ぶ時間を与えない。
経営陣から全面的な支持を得ているかどうかわからない。ここは、実験するのに安全な場所だろうか。
コーチとしての私の仕事は、意志を刺激し、意志が現れ、強くなるようにすることです。意志がしっかりしたら、クライアントが素晴らしいアジャイルリーダーになるために能力を開発するための計画作りを手伝います。
InfoQ: Fleur、アジャイルを広めるにあたって、‘コミュニティ’はどのような役割を果たすでしょうか。
van Unen: コミュニティの意味を考えるなら、規範、価値観、アイデンティティのような共通のものがある人々の集まりを考えることになります。アジャイルには、アジャイルの実務家、リーダー、コーチ、その他多数の人々が同じ価値を共有している強力なコミュニティがあると確信しています。その価値とはアジャイルマニフェストです。アジャイルの方法、考え方、行動、フレームワーク、方法論、ツール、ベストプラクティス、導入の困難について考えと経験を共有するために、多くの会議、会議、イベント、ワークショップが世界中で組織されているのは素晴らしいことです。コミュニティとしての私たちの役割はとても重要です。アジャイルの普及と導入に置いて、私たち、つまり、さまざまな背景、国籍、経験を持つユニークな個人のグループが、組織と個々人を強くし刺激し、アジャイルの普及と導入に関する独自の個人として、組織やお互いに力を与え、強化し、刺激すると信じています。
InfoQ: Agile Indonesiaカンファレンスでは、アジャイルリーダーシップについてのワークショップを開催しますね。‘マネージャー’と‘リーダー’の違いはなんだと思いますか。
Mahe: 現在もまだ使用されているマネジメント手法のほとんどは、組立ラインで働く未教育の労働者のために100年前に設計されたものです(Frederick Taylorのおかげです)。マネージャーという単語の語源を探ると、“手持ち”という意味だとわかります。これ以上言う必要はあるでしょうか。つまり、従来のマネジメントでは、従業員は子供のように扱われ、信頼されていないのです。
問題なのは知識労働者やミレミアムズ、イノベーションのペースなどで状況が劇的に変わっているということです。マネジメントという道具は不効率になってしまいました。
モチベーション、雇用、報酬、業績、エンゲージメントといった伝統的なマネジメント領域は、依然として関連性は高いものの、科学はこれらのタスクを実行するための新しい強力なツールを提供しています。タイムクロッキング、毎年のパフォーマンスレビュー、金銭的報酬…これは古い世界です。 弾力性のある組織は現在、非常に異なるモデルで運用されています。
新しい世界では、従業員は才能を持つ大人として扱われ、その結果、従業員自身が多くのマネジメントの仕事をこなすようになります。時々言われるように、“マネジメントはマネージャーにさせるには重要すぎる”のです。
同時に、インスピレーション、サポート、メンタリングが必要です…それがリーダーの役割です。リーダーは肩書きではなく、態度です。リーダーは組織の文化を形成しています。“組織の文化は、リーダーが許容している最悪の行動によって形作られる”のです。リーダーは先に進みます。
私たちは来年、より意識的なリーダーを目指そうとしています。
InfoQ: どのような道具を共有するつもりですか。聴衆は何を期待できますか。
Mahe: 私たちは、クライアントとの仕事で私たちを助けてくれたツールとモデルを共有しようとしています。私たちの目標は、人々に何をすべきかを伝えることではなく、私たちの経験を共有して、行動するかしないかを自分たちで決めるようにすることです。
とてもインタラクティブなセッションで、マネジメント3.0、ライフコーチング、XY理論などのツールやモデルを探究していきます。信頼、委任、モチベーションなどのトピックを説明するのに強力なツールです。信頼、委任、モチベーションはアジャイルに移行しようとしているリーダーと一緒に働くときに鍵になります。また、最近リーダーシップについて発見したことも共有します。とても楽しいセッションになりますよ。
インタビュー対象者について:
Fleur van Unenは、この1年半をシンガポールで働いている。オランダ人として、ABN AMRO Bankのためにオランダから移住。スクラムマスターとして、ABNのアジア支店へのアジャイルを導入した。オランダのABN AMROの本社に戻った後、シンガポールで技術革新と変革のコンサルタントであるフランス企業のPalo ITへ入社。イノベーションとアジャイル、経験豊かなアジャイルの実践者とコーチに情熱を傾けている。クライアントの製品のTime-2-Marketを増やし、国際的な環境でイノベーションとアジャイルの働き方を可能にしながら、チームと個人を力付けている。
Sylvain Mahe は、チーム、マネジメント、エグゼクティブレベルでの中規模¢蜍K模なアジャイルの変革に取り組んできた9年以上の経験を持つ、アジャイルと人生のコーチ。さまざまな業界(銀行、通信会社、出版、IP、eコマースなど)で働いた経験を持つ。フランス出身で、過去数年間はシンガポールで働いている。
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