スクラムはITやソフト開発以外でも盛んに利用されるようになった。多くの企業がアジャイルにミックス・アンド・マッチのアプローチを採用するようになったことにより、単一のイニシアティブに集中するスクラムマスタは少数派となり、共有的な役割へと発展しつつある — Scrum Allianceの発行した調査報告書“2017 State of Scrum”には、このように記されている。
“2017 State of Scrum report”は、世界的なスクラムの採用状況に関する調査である。この年次調査はScrum Allianceが実施している。2017年の報告書には、76カ国から2,000人以上が、15以上のさまざまな産業を代表して参加した。
InfoQはScrum Allianceの暫定CEOであるLisa Hershman氏にインタビューして、2017 State of Scrum報告書のおもな変更点、スクラムがITあるいはソフト開発以外に拡大している状況、スクラムマスタの役割の変化、スクラム採用を成功させる上で重要な要素、スクラム採用をスムーズにするために必要な企業文化などについて聞くとともに、今回の調査から学んだことや、それがスクラムおよびScrum Allianceに与える影響についても尋ねてみた。
InfoQ: これまでの報告書と比較して、2017年のState of Scrum報告書が大きく違う部分は何でしょう?
Lisa W. Hershman: 2017年の報告書では、ひとつのトレンドが加速していることが明らかになりました — ITおよびソフトウェア開発以外でのスクラム使用の増加です。経営、生産、研究開発、販売宣伝、財務、経理、人事、コンサルティングなど、さまざまな部門が、スクラムプロジェクトの運用を報告しています。スクラムユーザの発展に伴って、マーケティングにおけるスクラムとソフトウェア部門のスクラムに違いが現れるのか、とても興味深い部分です。
もうひとつ注目すべき変化は、アジャイルに対するミックス・アンド・マッチアプローチの適用が増加したことです。 今年の調査からは、スクラム“のみ”を使用しているという回答者の数が大幅に減少している(43%から32%)ことが分かりました。回答者は平均3つの異なるフレームワークを使用していると報告しています。
InfoQ: 報告書ではIT以外でのスクラム利用の増加に言及していますが、実例をあげることはできますか?
Hershman: あらゆる企業がテクノロジ企業化するにつれて、アジャイルのニーズも高まっています。出版や教会、さらにはレストランのキッチンなどといった業界でも、アジャイルを達成するためにスクラムが使われているのです。
しかしながら、私たちが関与した中でスクラムを最高に活用しているのは、何といってもHOPE High Schoolでしょう。ここはギャングへの関与や10代での出産など、危険な状態にある生徒を受け入れているアリゾナのチャータースクールです。
HOPEの学生たちは現在、学生協議会の中でスクラムを活用して、チームワークと協力の文化を作り出しています。校長によると、“アジャイルがここで有効なのは、従来とは異なる分野における、従来とは異なるプラクティスだから”なのです。
InfoQ: そのような状況は、IT部門やソフトウェア開発チームにとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
Hershman: 企業内におけるアジャイルのスケールアップは常に難しい問題です。もし多くの企業がITやソフトウェアチームと同じ考え方を持ち始めれば、皆が同じように顧客を重視して、同じ言葉で語ることが簡単にできるようになります。より迅速なフィードバック、変化への適応能力、問題点の早期特定、柔軟な優先順位設定とチーム目標など、そのメリットは明白です。回答者の80%以上が、スクラムによってチームの作業の質が向上したと答えている、という事実もあります。
InfoQ: 過去何年間で、スクラムマスタの役割はどのように変化したでしょうか?次は何が起きると思いますか?
Hershman: CSM(Certified ScrumMaster)はプロジェクトの適切なスクラム使用を支援し、成功の可能性を高めます。CSMはスクラムの価値、実践、適用方法を理解し、一般的なプロジェクトマネージャと同等以上のレベルの知識と経験を提供します。
その一方でスクラムマスタには、より共有的な役割へと発展している傾向が見られます。特に組織的な変化が結果として求められている場合において、これは非常に大きなジョブです。ですから互いに補完的なスキルを持った個人のグループがこれにあたるというのは、理に適ったものかも知れません。
今年の調査は、ひとつのイニシアティブを重視するスクラムマスタが減少傾向にあることを示しています。回答者のほぼ5人に1人が、スクラムマスタとは別にプロジェクトマネージャを用意していると答えているのです。政府機関やIT産業においては、従来のプロジェクトマネージャがスクラムマスタとして機能することもよくあります。
InfoQ: スクラム採用の成功要因として重要なものは何ですか?
Hershman: リーダ層からのサポートが重要です。回答者の3分の2が、成功の重要な要素として“シニアマネジメントの積極的なスポンサシップとサポート”をあげています。
それに続くレベルとして回答者の約半数があげているのが、“経験豊富なトレーナないしコーチの参画”と、“企業全体の戦略的および財務的目標との整合性”です。
その反面、スクラムの導入によって緊張が高まった時の重要な問題点として、70%が企業のトップダウン命令体系の順守をあげています。さらに、52%が企業の構造と文化がスクラムの採用や拡大を困難にしていると指摘し、36%が採用の障壁として信頼の欠如をあげているのです。
InfoQ: スクラムをよりスムーズに導入するためには、どのような企業文化を展開しておく必要があるのでしょうか?
Hershman: ウォーターフォール管理を排除して、部門や組織の個人に責務を返すことです。これによって従業員満足度が向上し、最終的には顧客により多くの価値を提供できるようになります。しかしながらこのような責任の移動は、当初は論理的でないように思えるかも知れません。トレーナやコーチが重要な理由がここにあります。アジャイルへの移行に際して、何が効果的で、何がそうでないのかを知っている人が必要なのです。
アジャイルビジネス構造において不可欠なもうひとつの成功要因は、ある程度の失敗を認めることです。もちろん、失敗のための失敗では意味がありません。“学習改善”サイクルに関連付いたイベントでなくてはならないのです。企業文化をリスク回避から革新に変える上で、これが役に立ちます。私はチームに対して、“一度は経験であり、二度は失敗である。経験は積み、失敗は避ける”ように言っています。
アジャイルは考え方である、と言われる所以がここにあります。スクラムの優先順位付け戦略は、障害の発生し得る場所とその可能性の把握を支援することで、創造性の拡大を支援するのです。
InfoQ: 今回の調査を通じて、どのようなことが分かりましたか?それはスクラムやScrum Allianceにどのような影響を与えるのでしょう?
Hershman: State of Srcum報告書の目標は2つです。トレーナとコーチのコミュニティのためのリソースになることがひとつ。そしてもうひとつは、世界中のスクラム利用に関する広範なイメージを作り上げることです。報告書は、Scrum Allianceにおける私たちの活動のために、ひとつのステージを用意してくれます — スクラムはどこへ行くのか、私たちには何ができるのか?
今年の調査からは、たくさんのことを学びました。アジリティを達成するためのスクラムの利用が増えていることは明らかです。回答者の5人に4人が認証制度について、スクラムのプラクティスに対してプラスになっていると答えています。さらにその98%は、今後もスクラムを使い続けると回答しています。
報告書からは、さらなる認証制度の必要性も見て取れます。そのため私たちは、より進歩した認証モデルを展開して、コミュニティに対してより効果的かつ価値の高いリソースを提供したいと考えています。経営層の管理者を対象とした認証であるCAL(Certified Agile Leadership)プログラムは、その実施例のひとつです。
“仕事の世界を変える”という私たちの綱領は、これまでになく真実あるいは必要なものとなっているのではないでしょうか。2017年のスクラムとアジャイルのコミュニティの変化するニーズを満たすことを、私たちはとても楽しみにしています。
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