Movidius(IntelのNew Technology Groupの一部門)が先頃、組込み型ニューラルネットワークを実行するUSBベースの開発キットであるNeural Compute Stickをリリースした。このスティックを使えば、Raspberry Piのような計算能力の低いデバイスでも、ニューラルネットワークとコンピュータビジョンモデルを実行することが可能になる。InfoQは、Intel New Technology GroupのMovidiusでマーケティングディレクタを務めるGary Brown氏に、いくつかの質問をした。
InfoQ: Movidius Neural Compute Stickの特徴と、おもな機能について教えて頂けますか?
Gary Brown: 超低消費電力の埋め込み型ディープニューラルネットワークを対象とした、初のUSBベースの開発キットであるMovidius™ Neural Compute Stickを先月リリースできたことについて、とても嬉しく思っています。基本的には、最先端のディープラーニング推論と人工知能(AI)アプリケーションの実現を目的として、自己完結型のディープラーニングアクセラレータと開発キットの組み合わせたもので、ディープニューラルネットワーク推論をサポートするためにMovidius Myriad™ 2 Vision Processing Unit (VPU) を内蔵しています。デバイスは標準的なUSB 3ポート上で動作し、他の電源やハードウェアは必要ありません。PCベースのプロトタイプを幅広いデバイスに、クラウド接続なしでネイティブに、かつシームレスに展開することができます。
InfoQ: Movidius Neural Compute Stickに関心を持っているのは、どのような開発者なのでしょう?
Brown: 新しい開発キットでは、2つのユーザを想定しています - マシンラーニングの学習に興味のある組込み開発者と、研究用の組込みプラットフォームを求めているマシンラーニングやAIの専門家です。さまざまな研究やプロトタイプ - ロボットビジョン、自律型ドローン、インテリジェントなセキュリティカメラ開発など - において、シーン分割やオブジェクトトラッキングやオブジェクト識別、あるいはオブジェクト認識を行なうアプリケーションからディープニューラルネットワーク(DNN)技術を活用するために、Movidius Neural Compute Stickを利用することができます。さらに、Myriad 2 VPUを内蔵することで、コンパクトなフォームファクタ内でエネルギ効率のよいディープニューラルネットワーク推論を行なう能力を備えています。
InfoQ: 入門ページにはUbuntuの動作するラップトップが必要とありますが、OSXやWindowsユーザでも利用できるのでしょうか?
Brown: Ubuntu Linuxは、Neural Compute Stick上で実行したいディープニューラルネットワークのコンパイルやチューニング、評価を行なうツールであるNeural Compute SDKを実行するために使用します。その他のシステムをサポートする拡張ツールについては、今のところは提供していません。Neural Compute Stickで重要なのはDNNをリアルタイムで実行することですから、幅広いユーザ層に注目してもらうために、x86プラットフォームとRaspberry Piの両方をサポートする開発キットをローンチしています。
InfoQ: 現在のNeural Compute Stickは、ニューラルネットワークフレームワークとしてCaffeのみをサポートしていますが、TensorflowやCNTK、Theano(いずれもKerasがサポートする)といった、他のフレームワークをサポートする予定はありますか?
Brown: 現時点では、ポピュラーなCaffeフレームワークをベースとしたネットワークを対象として、サポートを充実させることに重点を置いていますが、他のフレームワークをサポートする計画にも取り組んでいます。
InfoQ: Neural Compute Stickでは自社製のVision Processing Unit(VPU)を使用していますが、テキストやオーディオデータを対象としたニューラルネットワークを実行したいユーザにとって、これはどのような意味を持つのでしょう?
Brown: 自然言語処理にはいくつもの課題がありますが、Neural Compute StickはVPUを搭載することで、おもにビジュアルインテリジェンスアプリケーションをサポートする開発プラットフォームへのアクセスを簡単にすることを目指しています。VPUは特に、画像処理やコンピュータビジョン処理、ディープラーニングといった、マシンビジョンに関するタスクの高速化を目的として設計されています。
InfoQ: コンテナ化されたアプリケーションでスティックが動作可能か、あるいはどのように動作するのか、という疑問があります。Dockerのサポートや、そのようなアプリケーションでCompute Stickを使用する手段はあるのでしょうか?
Brown: MvNC SDKでは、Ubuntu 16.04を搭載したx86_64と、Jessieを搭載したRaspberry PI用のネイティブアプリケーションをサポートする、APIフレームワークを提供しています。このフレームワークを使うことで、Movidius Neural Compute Stickで高速化されたリアルタイムなニューラルネットワークを、これらのプラットフォーム上のアプリケーションに統合することが可能になります。APIの仕組みを理解するには、私たちの開発者向けページを参照して頂くとよいと思います。アプリケーション自体がコンテナプラットフォームで動作していても、USBサポートとMovidius Neural Compute Stickプラグインさえあれば、Stickを使ってDNNをリアルタイムで実行することで、アプリケーションを高速化することができます。
InfoQ: 現時点では、どのようなタイプのネットワークがサポートされているのでしょう?
Brown: 現在、GoogLeNetやAlexNetなど、数多くのニューラルネットワークをサポートしています。Caffeフレームワークを使ってトレーニングしたものであれば、独自のネットワークを実行することも可能です。サポートされているCaffeレイヤに関する詳しいことは、https://developer.movidius.com/でサポート対象レイヤの詳細を確認してください。
InfoQ: これまでにIntelは、RealSense(Intel Euclidにも追加された)などの製品をリリースしていますが、NCSとRealSenseのテクノロジを組み合わせることは可能ですか?
Brown: もちろん可能です。奥行き情報を必要とするディープニューラルネットワークを開発する場合には、Movdius Neural Compute Stickで動作するディープニューラルネットワークのインプットとして、Intel RealSenseテクノロジを組み合わせることができます。
InfoQ: NCSはリリースからそれほど経っていませんが、革新的といえるような方法で利用された例は何かありますか?
Brown: 実を言うと、CVPRカンファレンスでNeural Compute Stickをローンチした時、ビジュアルインテリジェンスの分野においてニューラルネットワークを独自の方法で活用している多くの開発者(企業開発者と学術研究者)に会うのを楽しみにしていたのです。ロボット掃除機や自立飛行ドローン、無人運転者、さらにはビデオで確認しながら髪の色を変更するアプリケーションやビデオソースからGIFを自動生成するアプリケーションなどで、マシンラーニングを使って問題を解決している興味深いDNNがありました。これまでにも、さまざまな革新的ユーザを目の当たりにしていますし、さらに革新的なアプリケーションが開発者コミュニティから生み出されることを楽しみにしています。
Gary Brown氏について
Gary Brown氏は、IntelのNew Technology Groupの部門企業であるMovidiusのマーケティングディレクタとして、プロダクトマーケティングと戦略的パートナシップを管理しています。これまでにDolby LaboratoriesやTensilica、Cadenceといった企業のマーケティングとアプリケーションエンジニアリング部門でリーダシップを発揮してきました。氏のエンベッデドDSPに対するバックグラウンドとコンピュータビジョン技術への情熱が、Intelのコンピュータビジョン技術をマシンインテリジェンスの新しい時代へと導く原動力となっています。
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