Agileは10年以上LEGOの一部になっているが、未だに、デジタルとIT以外の領域で種をまき、応用分野を見つけている。同社の中心となる価値観は遊びと学習であり、これは、アジャイルの反復、実験、振り返りといった原則と相性が良い。
LEGOの内部のマーケティングエージェンシーでディレクターを務めるEik Thyrsted Brandsgård氏はAgile Summit Greece 2017で、LEGOのアジャイルの取り組みについて話をした。InfoQはこのカンファレンスの内容をインタビューや記事で取り上げている。
InfoQはLEGOとアジャイルへの旅を共にしてきたEik Thyrsted Brandsgård氏にインタビューして、詳しい話を聞いた。
InfoQ: LEGOがアジャイルを導入しようとしたきっかけはなんですか。
Eik Thyrsted Brandsgård: 私が2005年にLEGOで働き始めたとき、アジャイルは、小規模ながらもXPの観点からすでに出現していました。ペアプログラミングをしていた開発者がすでにいたのです。アジャイルの知識はゆっくりと広がり、2009年頃に推進力を得ました。その頃、LEGO Universe(マルチプレイヤーの大規模オンラインゲーム)を開発していたチームがKen Rubin氏からスクラムの認定を受けたのです。その後、LEGO Universeが終了したとき、アジャイルの実践はLEGOのデジタル部門にしっかりと根付いていました。LEGO Universeから戻ってきたということはしっかりとした脚を身につけツールドフランスから戻ってきたみたいなことです。戻ってきたチームの中には、未だに強い牽引力を持ち、成果をあげているチームもあります。
アジャイルの領域で採用とトレーニングを続けています。しかし、LEGOが成長するにつれ、成長の痛み(つまり、複雑さの増大)も受けました。2014年には、アジャイルをスケールするための開始点として、SAFeを導入することを決めました。その次の年にかけて、この手法を調整し、継続的に相互依存を特定し除去することで、最終的にある程度の複雑性と制約を削減し、スクラムベースのやり方にスケールダウンすることができました。
InfoQ: LEGOでSAFeがうまく活用できるようにするためにどのようなことをしましたか。
Thyrsted Brandsgård: SAFeというフレームワークはとても包括的で、アジャイルへのガイドをほぼ全て包含しています。私たちはスクラムから始めたので、スクラムの上に次の実施計画の層を重ねるというのが自明の選択肢でした。高いレベルでのポートフォリオ管理は、予算計画の策定に続いて、企業横断で年次で行われていました。この点についてはさらにアジャイルにしようとしていますが、とても大きな変更です。私たちは従来のオペレーションのモデルで、SAFeの一部がきちんと使えるようにしました。
"チームの中のチーム"のレベルでは、全てのチームの計画を全員に発表することを辞めました。そして、"プランフェア"を作り、チームが他のチームの計画を聞けるようにしました。全てのチームの計画が全員に関係するわけではありませんので、チームに自分たちに何が関連するのかを選ばせるようにしたのです。
実施計画が書かれている壁からテーマと機能を取り除きました。そして、依存関係のボードに変えました。チームはその他の全てのチームの活動にそれほど関心を抱いていないようで、チーム間に相互依存関係にだけ興味がある、ということがわかりました。したがって、テーマがあると透明性が増すというより複雑になってしまうのです。
また、信任投票も辞めました。信任ということについて混乱が激しかったからです。自分のチームへの信任なのか、全体への信任なのか、わからなくなってしまっていました。小さなスケールでは有効なツールなのかもしれませんが、数百人もいる大きな組織の力学は異なっているのです。
ROAM(Resolve, Own, Accept, Mitigate)のリスク管理に対する責任をチームの近くに置き、自分たちで提案することを少なくする代わりに自分たちで行動を起こし、責任のはしごを登るように促しました。本当に大変なリスクだけがマネジメントのレビューの下で議論される必要があります。
たくさんの人を集めたので、真ん中のステージ上から感動的な話をしたことがありますが、計画から離れすぎていました。最終的には、参加者からのフィードバックを元に、"無駄"を削り、1日で全体の計画ができるようになりました。
InfoQ: 大きな部屋での計画作りはどのようにやっていますか。
Thyrsted Brandsgård: 端的に答えれば、次のようになります。150人をひとつの大きな部屋に集め、次の2ヶ月の計画を作成するまで部屋から出れないようにします(笑)。まあ、これは極端な例ですが。スクラムに似ていますが、もっと大規模なプロセスです。まず、予備的な計画を立てます。ビジネスの視点から優先順位付けしたいことを特定します。粗く見積もって、技術的な要素に分解します。これが、大きな部屋での計画作りに持ち込むバックログになります。ここでチームがさらに分解してスクラムの要領で見積もりをしていきます。バックログのひとつのアイテムが終わったら、次のアイテムに取り掛かります。チームの能力が十分、使われるまで続きます。
必要であれば、計画作りのどこかの段階で、予備計画の見直しをします。障害を取り除き、リスクを緩和し、優先順位を変え、流れを作るために他のチームにタスクを移管します。
InfoQ: 大きな部屋での計画作りからどんな利点を得ましたか。
Thyrsted Brandsgård: いくつかの利点がありました。
素早い意思決定
プロダクトを市場に投入することに関わる意思決定者、主要な利害関係者がひとつの部屋に集まります。したがって、情報の共有が高速になり、意思決定も素早くなります。透明性
ビジネスのニーズを満たすために必要なことが明確になります。簡単に現れたアイディアの実現が難しい場合もありますし、その逆もあります。関係者として、まず、この点を把握することができます。誰も複雑さを隠したり、バッファを追加しようとしません。権限移譲
チームだけが仕事のどのようにやり遂げるかを見積もりし計画することができます。すぐさま意思決定できるのは利害関係者です。チームと利害関係者に価値あるビジネス上の意思決定ができるようにするための効果的なフィードバックループが生まれます。依存関係と複雑さを特定します。依存関係ボードはあるチームがどのチームに依存しているかを明らかにします。また、全体の複雑さも視覚化します。何らかのパターンが見えたら複雑さを除外できる機会があるということです。
ソーシャル化
多くの人がひとつの場所に集まるため、ひとつの大きなチームビルディングのイベントになります。たくさんのおしゃべりで、仕事の話もそうでない話もされます。
InfoQ: LEGOでアジャイルが拡大するという経験からどのようなことを学びましたか。
Thyrsted Brandsgård: SAFeというしっかりと記述された手法は、アジャイルを拡大する開始地点としては素晴らしいものでした。しかし、試行錯誤しながら独自の道を探すことが重要だというのが組織として学んだことです。また、アジャイルの方法であるフィードバックループや臨機応変に動くという方法論を積極的に使うことも学びました。これはプロセスの無駄を削減することであり、また、150人がやる気を失うことや熱狂することが何なのか明らかにしてくれます。彼らが何に本当に価値を見出しているのか明らかになるのです。交響曲というよりビッグバンドやジャズの世界ですね。しかし、ことがスムーズに運ぶようにするために優れたファシリテーションは必要です。
アジャイルはホットなトピックです。世界中の企業が素早く動き、"破壊"的な変化に対処する準備をしたいと思っています。しかし、アジャイルは銀の弾丸ではありません。時と場合によるのです。たくさんの不確実性と不断の変更がある場合や、開発と技術革新が共に行われる場合、アジャイルは輝きます。LEGOにはまだ、アジャイルを導入することで成果を上げられる領域がいくつかあります。まだ、試行錯誤を続けていきます。
また、"準備せずに、始めろ"という言葉が適切であるということも学びました。私は以前はためらいがちで準備をしっかりしていました。しかし、アジャイルを実践するということに十分関心がある組織であれば、まずは始めてみればいいのです。始める時に、経験者から助言をもらうのもいいでしょう。しかし、フィードバックループと素早い反復で高速学習が可能です。子供が初めて自転車に乗る場合に似ています。最初はおぼつかないですが、すぐにバランスをとって、コントロールできている感じを掴み、スピードを上げて、旅を始めるのです。
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