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アジャイル導入にはアジャイルのアプローチを採用するべきであって、ウォーターフォール的な方法でアジャイルを導入するべきではない、チームの活性化を望むリーダと、それをサポートする組織の構築が必要だ — Scrum.orgのCEOでチーフプロダクトオーナのDave West氏はこう主張する。業界としては、アジリティの段階的な展開の実績を積む必要がある。
InfoQではWest氏にインタビューして、アジャイルの採用とScrum Studioの適用について、アジャイルアプローチへの理解を高めるために業界として何が可能で何を止めるべきか、将来がアジャイルにもたらすもの、などを聞いた。
InfoQ アジャイル導入について、あなたの見解を聞かせてください。
Dave West: 調査結果では大半のプロジェクト/プロダクトがアジャイルなのかも知れませんが、データが実際の姿であるとは限りません。アジャイルを採用したといっても、大部分はアジャイルのプラクティスに対して、ウォーターフォール方式で機械的に従っているに過ぎないのです。スプリントはウォーターフォール計画のチャンクに過ぎませんし、デイリースクラムは単なる報告会議です。プロダクトオーナは実際には受注者(order taker)であって発注者(order maker)ではなく、ソフトウェアは相変わらず数少ないリリーススケジュールに向けてバッチビルドされているのです。
アジャイルチームが活動する環境の変革は遅く、既存の組織文化や規範によってアジャイル採用が阻まれています。しかしながら、状況は変わりつつあります。その要因のいくつかは、継続的デリバリやPaaS、インフラストラクチャ・アズ・コード、その他の基盤的技術など、テクノロジの変化によってもたらされたものです。それ以外の変化は、スクラムやアジャイルアプローチをより深く理解することで可能になります — これはアジャイルへの成長だと考えられます。これからのアジャイルチームは、単にチェックボックスに印を付けるだけではありません、アジャイルに“なる”のです。
InfoQ: アジャイル文化は、IT企業の“これまでの”文化とはどのように違うのでしょう?
West: この話題にはもう一回インタビューが必要になるかも知れません(笑)が、ここでは目立った違いに注目してみましょう。
- 階層が逆転しています — 上司に仕えるのではなく、顧客ないし価値の追求において、上司があなたに仕えるのです。
- 行動やリスクよりも結果や学習に重きが置かれます。
- 予想外の出来事(サプライズ)を前提とした計画が立てられます。
- すべてが頻繁なデリバリに基づいたものになります。すなわち、測定可能な小さなチャンクに分解されるのです。
- チームは自己決定化および自己組織化します。
- プロセスへの信頼はチームへの信頼に置き換えられます。
これらはすべて、経験主義とリーン思考の基本概念に由来しているのだと思います。この2つの思想はいずれも単純で、大きな変化ではないように見えますが、実際にはすべてを変えているのです。
オランダの年金投資管理会社が、アジャイル思想とScrum Stdioを使用した自社の経験について公開しています。彼らは組織内に独立した組織を置いて、顧客へのビジネス価値の提供にエンドツーエンドで責任を持つようにしています。
私たちのStudioには現在3つのチームがあって、プロダクトマネージャ、オンラインマーケッタ、コンテントクリエイタ、オンラインエディタ、コミュニティマネージャ、ディジタルアーキテクト、テクニカルスペシャリストで構成されています。各チームはそれぞれの目標の設定に加えて、他チームの目標とのリンクやStudio全体にも責任を持っています。
私たちはスクラムを使う上で、スクラムマスタとプロダクトオーナを採用していますが、プロダクトオーナの責任については、チームメンバの専門知識に基づいてその一部を委任する方法を採っています。その上で私たちは、MVP用の新たな抵当権サービスや新しいアプリの開発やデプロイ、テストを繰り返し、あらゆる種類のフィードバックや計測可能なデータを収集し、さらなる決定に役立てているのです。
InfoQ: 文化を変革してアジャイルを採用するためにはいくつかのアプローチがあります。Scrum Studioもそのひとつですが、どのようなもので、どうやって機能するのでしょう?
West: 従来型の組織にスクラムを導入するのは、非常に難しいのです。タスク計画に基づいて作業し、リスク回避のためデリバリ回数を制限し、苦痛を理由に計画を避けようとするような企業の中で、頻繁なデリバリ、定常的な計画、さらには自己組織型チームの構築を試みることを想像してみてください。顧客の信頼を失っている組織の中で、スクラムを実行したらどうなるでしょう?それが多くのスクラムチームの状況なのです。そういった環境の中で、しかしながら、これらのスクラムチームは生き残っているのです。
Scrum Studioが導入したのは、そのようなアプローチからの根本的な決別です。複雑な問題の解決を目的としない組織をサポートするためにスクラムを再構築するのではなく、スクラムのための新たな組織を構築するのです。企業変革に関する最近の研究についてJohn Kotter氏が講演した考え方は、これに非常に近いものがありますし、氏の著書である“Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster Moving World”にも同じ考えが見られます。
そこでは3つの作業レベルがあります。
- 実用的なメリットの提供によるアジリティの拡大。技術的インフラストラクチャやトレーニングなどがこれに含まれます。
- 前項の結果としての、組織がこの変革に対して持つコミットメントのレベルの実証。予算を獲得するだけではなく、エグゼプティブの時間を得ることがより重要です。
- 少なくとも最初においては、アジャイルアプローチに合った問題や人員が必要です。
Scrum Studio的なものは、ディジタル分野で幅広く見られるようになってきています。これらはスクラムをベースとしながらも、デザイン思考(Design Thinking、顧客は誰で、何を望んでいるのか)、リーンスタートアップ(問題を解決できるか、スケールアップは可能か)、アジャイルデリバリなど、多くのものを組み合わせています。
これらDigital / Scrum Studioから分かるのは、組織の他の部分が、それらをサポートするように変化していることです。財務や人事、その他のビジネス機能が、このような顧客中心のアジャイル企業に対応するようになってきています。こういったStudioの多くがビジネスによって推進されて、より競争力のあるものになっていく中で、最も大きな課題のひとつとなるのが既存のIT組織であるというのは、皮肉という他ありません。スクラムの採用によってこれらのグループが団結することで、ITだけではない、ビジネス指導型のアジャイルを実現できるかも知れません。
InfoQ: アジャイルアプローチへの理解を深めるために、業界として何ができるでしょうか?
West: 私たちは過去22年間、スクラムに関するストーリを普及させようと努力してきました。しかしながら今日でも、“スクラムは開発のためのもの”、“私たちは毎日スタンドアップをしているから、スクラムを実践しているのだ”、といった声を耳にします。ですが、変化はあります。“理解している”人々に出会うことが多くなりました。しかしながら、そういった人は、そうではない組織にいます。ですから私たちは、マネージャともっと関係を持って、彼らの役割が変わることを理解してもらう必要があると思っています。Scrum.orgにProfessional Agile Leadershipクラスを新設して、価値のコンテキスト提供にDigitalなどビジネス上の責務を活用することにしたのは、このような動機からです。もちろん、マネージメントがすでに理解している例は、SpotifyやFitbit、Teslaといった新興企業だけでなく、ING、GE、KLMといった従来型企業にもたくさんあります。IT以外の興味深い例としては、ガーナ警察が、市民へのサービス向上のためにスクラムを導入しています。これらの成功企業には、チームを鼓舞し、彼らをサポートする組織を構築するリーダがいるのですが、残念ながら、すべての企業がそうなのではありません。
“アジャイルは素晴らしいのですが、あなた方が問題なのです”と言う、あるいは技術的負債やテストプラクティスなどの特定目的にアジャイルを使用する状況が、あまりにも長く続いています。そこから脱却して、企業が顧客に価値を提供する能力を向上し、リーンスタートアップやデザイン思考のメリットを享受できる方向に、アジャイルを位置付けていく必要があります。
InfoQ: アジャイル導入を妨げるもの、業界として止めるべきものもあるのでしょうか?
West: ウォーターフォール的な方法でアジャイルを採用している組織が多過ぎます。意図や行動に問題はないのですが、成果や価値よりも、むしろアジャイルを採用すること自体が重視されているのです。ウォーターフォール的ではなく、アジャイルアプローチを使用する必要があります。価値や顧客とのつながりを重視して、透過性を持った調査と適用を行ってください。
価値に注目すれば、アジャイルの導入はずっと簡単になるでしょう。もちろん困難なことや、組織からの厳しい要求はありますが、少なくとも段階的な価値の提供は可能になるはずです。このような組織が現れ始めています。例えばガーナ警察には、ウォーターフォール的にアジャイルを導入する時間も予算もないので、代わりにチーム単位の導入に注力することで、サポート組織をゆっくりと改善しているのです。
私たちの業界としても、アジャイルの導入についてもっと話し合う必要があります。アジリティの段階的なロールアウトの事例を積まなくてはなりません。例えば、スクラムの導入にスクラムを使用して、導入のためのバックログを追加し、プロダクトオーナが変革の推進とビジョンを持ち、スクラムマスタがそれを実現に移す、といったことが可能です。これに関してはEricssonのアジャル導入例が思い出されます。同社はアジャイル導入にアジャイルを使用して、素晴らしい成果をあげました。
InfoQ: 将来的にアジャイルは、どのようになっていくと思いますか?
West: アジャイル的な思想からは答え難い質問ですね。未来は未知で溢れていますから、すべてのものが変わり得ます。ですが私は、アジリティは残っていくと思います。偏った考えかも知れませんが(笑)、スクラムのようなアプローチは、複雑な仕事に取り組むすべてのチームの基礎になるものだと思います。言葉は違うかも知れませんし、多くの人はそれをスクラムとは呼ばないかも知れませんが、実証主義的な方法で、自己組織化チームで仕事にアプローチするようになるでしょう。彼らは顧客の成果を重視し、自らの仕事を、証明ないし否定する必要のある仮説の連続であると考えます。デザイン思考、リーンUX、リーンスタートアップ、DevOpsはすべてストーリの一部です。将来のことはまったく予想できませんし、今日よりもずっと複雑ですが、誰もが生き延びるためにアジャイルである必要があるでしょう。
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