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米国最高裁の今後の判決が、クラウドコンピューティングの未来を大きく変えるかも知れない。米国に本拠を置く企業が、海外のサーバに格納されているデータの法執行機関への引き渡しを求められる可能性があるのだ。このような状況下では、米国を基盤とする組織は、クラウドコンピューティングサービスの大部分を海外企業に提供できなくなる。
米国議会では、審査中の法律改正に関する聴聞会を実施している。もっとも、それによって法律が変更されるということではない。最高裁判所がデータを引き渡せると判断すれば、法律が変更されるのか、変更されるとすればいつか、新たな法律の内容はどのようなものになるのか、まだ明らかではない。当然ながら、新たな法律もさまざまな解釈と訴訟の対象になる。
法的状況
Microsoftは2013年、米国連邦による麻薬密売捜査の一環として、アイルランドに保管しているEメールの引き渡し令状を受けた。連邦検察局は、Microsoftが米国に本拠を置いていることから、Eメールに対して検察局が権利を有していると主張した。これに対してMicrosoftは、米国外のサーバに保管しているデータの提供を強制されることはないと反論すると同時に、こうしたEメールの引き渡しが当事国の法律に違反する可能性についても主張した。
議論の下にある法律は、現在のインターネットより前の1986年に制定された、保管された通信に関する連邦法(Stored Communications Act)である。特に議論の的になっているのは、顧客ないし加入者の情報をISPに開示させる目的で、“電子通信サービス”と“リモートコンピューティングサービス”を定義したセクション2703だ。
Microsoftは異議を申し立てて、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所では敗訴したが、第2巡回控訴裁判所に控訴した結果、裁判所がその令状を無効とした。意見の一致を得られなかったこの上告審では、再審理を拒否している。再審を求める意見では、調査ツールに対する“慎重で妥当、あるいは実質的なプライバシ上の配慮”を欠いた制限を強く非難した。この中では、海外にデータを保存するのはMicrosoftのビジネス判断であって米国法の義務とは無関係である、と主張されている。
司法省は最高裁に控訴し、2017年10月に裁判が行われることとなった。
現行の法律に問題がないという考え方は、4人の控訴裁判所判事による反対意見だけではない。2018年2月3日には連邦治安判事が、Googleが海外に保管しているEメールの引き渡しを求める意見を述べている。この治安判事が第2巡回裁判所の判決理由に同意していないのは明らかだ。
米国議会
1986年に制定された“保管された通信に関する連邦法”は米国議会が制定した法律なので、議会には改正または置き換えの権限がある。昨年、上院および下院の両議会の支部においてこの法律の改正に関する聴聞会が開かれたが、法律の成立にまでは至らなかった。
Microsoftへの支援
今年5月、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)が発効した。MicrosoftとGoogleの両社は、異なる法律領域における異なるルールに従うために、プライバシと犯罪捜査の矛盾する要請の間に巻き込まれる可能性がある。法律を順守できなければ、大きな罰則が課せられるかも知れない。
Microsoftを支援するために提出された23以上の意見陳述書(amicus briefs)の中にはEU議員や法律専門家の他、米国議会の議員からのものも含まれている。意見書の署名欄には米国および欧州の法律制定者、テクノロジ企業(Google、Apple、Facebook、Amazonなど)、貿易グループ、権利擁護団体、メディア組織、研究者、科学者、弁護士の名前がある。
このグループの多様性を示すものとして、Fox Newsや米国自由人権協会(ACLU)も名を連ねている。米国外のグループが数多く加わっていることは、この問題の国際的な影響を示すものだ。
欧州委員会(European Commission)では、EUのデータ保護規則に対する理解を求めるため、米国最高裁に意見陳述書を提出する予定だと述べているが、いずれの当事者を支持する内容ではない、としている。
最高裁判所の問題
裁判所は現在、30年以上前の技術的状況を前提とした法律を、現代のテクノロジに適用しなければならない立場にある。 書面どおりに法律を適用することも可能であると同時に、既存の法律の精神を新たな状況に当てはめることもできる。前者のアプローチで問題なのは、新たに発生した問題が無視されることだ。データのような非物理的オブジェクトへの治外法権(extraterritoriality)の問題がそうであり、また、所在を選ばないクラウドデータに関する議論もそれに含めてよいだろう。現在Microsoftに下されている第2控訴裁判所の判決では、原告と被告がともに米国民であって、犯罪が米国内で発生したものだとしても、米国企業が国外に配置したデータを入手するためには、当事国と米国との間の刑事共助条約(Mutual Legal Assistance Treaty)が要件となる。国によっては、現在の金融におけるタックスヘブン(Tax Haven)と同じように、データヘブン(Data Haven)を設置することも可能だろう。
法律学者はこれらの問題について議論を重ねているが、今のところ裁判所は対処していない。このような状況の例としては、盗聴の問題がある。裁判所が非物理的侵害に対して米国憲法修正第4条を適用し、令状のない盗聴を不当捜査と宣言するまでには40年以上を要している。現代の技術的変化のペースは、1928年当時よりはるかに速いのだ。
今回のMicrosoftの事例は、ソフトウェアが社会から孤立した存在ではないことを改めて認識させる。
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